ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年4・5月

人工授精の問題

牛の人工授精に於ける技術上の注意

 人工授精が盛んに実施される様になり,亦その成績も遂年良くなってきたが,他方人工授精実施の為の種々の蕃殖障害も少くない。次に人工授精の過程を,精液採取,精液検査,精液注入と3つに区別して簡単に注意事項を列記してみる。

一. 精液採取

1.人工膣法による採取については,コンドームは使用した直後消毒を実施してよく乾燥しておき次に使う際は,生理的食塩水か葡萄糖液で洗浄して使用することが肝要で生の水を使うと精液が弱って受胎を妨げるものである。

2.人工膣内の湯の適温は摂氏40度乃至45度とされているが,気候により摂氏40度乃至50度の間に於て調節して出来得る限り適温内の低い温度で採取する事が肝要でこれは常に温度計を使用して適温かどうかを試してみなければならない。

3.牡牛の性的衝動が活力射精量精虫数を大いに左右するものであるからもし性欲が弱いときは発情牝牛の粘液を凝牝台に塗って実物の牝牛の如く感じさせる事も一方法である。又その原因が飼養方法に欠陥がありわしないかを注意してみよう。

二.精液検査及保存法

1.精液の色は一般黄味をおびた灰色乃至乳白色で時に之等の色に多少の帯緑,帯黄を呈するものがある。精液は肉眼的に一応濃いか薄いかで判断する事が必要である。薄いものや色のついたものは受胎能力が少ないとみてよろしい。
PHは6.6乃至6.8が適当である。

2.精液の保存
イ.温度 精液保存温度は摂氏5度乃至10度の温度で保存した場合が最も生存時間が長いからとにかく低い温度で保存することが肝要である。
ロ.稀釈保存 牛の精液の保存は原液のまま低温に貯蔵する事が一番有効だが授精頭数が多いときは薄めて使うことも出来る。この方法の中最近卵黄を燐酸液で緩衡した所謂緩衡卵黄液は極めて良好な成績を示しているが之は研究を要する。

三.精液注入

1.授精する精液量は普通のものなら1tで充分である。薄めたものなら少し多く注入することが効果的である。
 授精の時期は大体発情の中期(発情後8乃至12時間)から末期(同12乃至24時間の授精が推奨される。即ち時間的に言えば発情開始後10乃至20時間に授精するとよい。

2.授精部位は子宮頚部の解剖学的構造によりビベットを深部に挿入する事は困難であり且つ深部に挿入する事により蕃殖障害の原因ともなるので一般に1乃至2糎精々3糎迄である。経産牛の発情期の頚管は大きく開いてビベットが子宮体に入る程となるが大体前記程度挿入するがよい。
 以上簡単に述べたのであるが人工授精は県下の牛の生産と蕃殖障害の予防上最も重要な問題であるから従来の色々な迷信的評判にとらわれることなく大いに眼を開いて科学的且つ経済的な蕃殖方法を普及することに努めて頂きたい。