ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年4・5月

久米郡
倭文家畜保健衛生所の生れるまで

久米郡倭文村農業協同組合畜産研究部

 春光うららに照り映える4月3日岡山県惣津畜産課長,岡山県坂田協同組合課長,井谷加本畜産課技師,其の他県会議員久米地方事務所長,国警久米地区署長,久米郡北部,7ヶ町村長,農業協同組合長等100余名を迎えて,有畜農民待望の倭文家畜保健衛生所の新築落成式を挙行した。敷地は元山本農学校跡の高台で約2,000坪,松の緑の点綴する間に保健衛生所の赤瓦が印象的である。
 この倭文家畜保健衛生所が生れたのも,決して偶然に,しかも易々と出来たのではない。地元倭文村長で協同組合長を兼務している柴田健治氏の卓越した識見と,倒れて止まない実行力,加えるに協同組合の下部組織である畜産研究部と地元桑下区民の物心両面に亘る奉仕の真心とによって出来上がったのである。
 農業協同組合が生産協同体としての真使命に生きる為,協同組合の下部組織として酪農研究部,果樹園芸研究部,一般農事研究部と共に畜産研究部が誕生したのは昨年の5月であった。有畜営農こそ農業本然の姿であり畜産なくして農業なしという観点から,畜産研究部の第一に着目した事柄は当地方の余りにも繁殖障害牛の多いこと,従って犢の生産率の低い事であった。この現状を打開すべく先ず繁殖障害牛の一斉検診を実施すると共に,人工授精による種付を唱導した。これに呼応して農業協同組合は他に率先して昨年11月畜産係を新設して希望により人工授精を実施すると共に家畜診療所の誘致方を県当局を始め隣接町村に呼びかけたのである。家畜診療所は別として人工授精所の問題には2,3種牡牛飼育者の反対があってこれは最も困る事柄であった。此の間にあって柴田組合長は各方面の理解を求めることに努めた。
 一方久米地方事務所和気島所長,同牧野畜産技師,久米郡畜産連合会の水田課長等の側面的協力と,岡山県惣津畜産課長,同井谷技師,坂田協同組合課長等の絶大なる御指導によって,倭文家畜保健衛生所としての構想が出来上ったのが本年2月の初旬であった。善は急げと新築の位置を倭文村桑下地区,元山本農学校の跡と選定し,経費は一応倭文村協同組合で負担することとした。建築の終了予定を3月末日と定め,工事一切を久米郡大東村山本建設会社に委嘱した所,同会社は営利を超越し,誠意を以て工事の進捗をはかり,地元桑下区民達は物心両面に亘って協力の誠を致されたので,実に驚異的スピードを以て予定通り3月31日に全工事の竣工を見たのである。

建物は本館に,玄関事務室応接室,実験室薬品室消毒室処置室が設けられ,別館には牡牛舎貳室飼料室調理室,牧夫室炊事室居室貳の外に擬牝台も設けられている。此の種の施設に不可欠の用水も,裏手の4,5町程隔たった所の池から水道によって導かれて清らかに流れ出ている。
今や新装成った保健衛生所を前にし感慨一入のものがあり,各位の寄せられた御指導と御協力とに対し満腔の感謝を捧げると共に将来の運営について新たなる決意を固めている次第である。