ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年4・5月

横から見た中家畜行政(二)

作州住人

 △次に養豚界に眸を転じて見よう。養豚については本県は余り旺という方ではない。かつて県の統計で1万頭程度に達したことはあったが現在では3,500頭位である。本県養豚地は浅口郡を主とし小田後月都窪等である。

 △戦時中から主として飼料関係で養鶏と同様急激に減少し終戦後の混乱・屠殺等により更に減少し県内に殆んど豚は居ないのではないかとさえ思われるに到った。か様な事情で各方面から養豚の減少に対処し何等かの手を打たねばならぬのではないかとの声がやかましくなり先ず県下一円に豚の現況調査を行った。その結果驚く勿れ種畜場や三徳塾のもの迄合して300数十頭で以前の1割にも達しない頭数であった。

 △これではいかん……県の養豚復興策として先ず採り上げられたのが指定種豚場の設置とこれに対する飼料の配給であった。各種悪条件の重圧で300数十頭に迄なってしまったが昔から系統のよい豚を飼育し相当の技術を有している人が10戸許り居られたので検査の結果取りあえずこれ等の人を種豚場として指定し種豚に対し飼料の配給を行うこととした。そして生産した仔豚の内概ね3割を県の方で必要な箇所に配布し他は県の方針に従い種豚場自体で配付して貰った。而して種豚場の人は皆熱心に種豚の飼育に当り県の方針に協力願ったために頭数も漸次盛返するようになった。

 △新円切替頃からインフレによる物価騰貴に伴い豚の価格も高騰し乳離一番15,000円以上にも達したがこの前後から県下の養豚熱頓に勃興し我も我もと仔豚を求め飼育する様になりこの状態が1ヶ年許り続いたが客年夏全国的に発生した豚コレラを契期として豚価も下落の一途を辿りこれと併行して飼育熱も急速に冷めて来た。而して最近では仔豚1頭1,000円にも達せず牡であればただに近い様に迄なり今から考えて見ると……一種の熱病……夢……の様でもある。

 △昔から豚価程荒波の打つものはない。値が上れば直ちに殖へ,値が下れば急速に減る。高低常なく……概ね2―3年隔きに繰返した様である。これは豚が蕃殖力が旺盛でしかも早いのに対して豚肉の消費が増加しないからであろう。豚は草食でないから飼料的に見れば牛馬に比し飼い難い点もあるが動物が小さい丈に相当程度の耕地を有する農家に1頭位は左程困難とも思われない。増殖計画の目標から見れば本年は2,800頭となっているので現在3,500頭とすれば計画をオーバーしている訳だ。

 △豚の飼育について考えることは前にも述べた通り殆んど価格の高低によって極端な増減をすることである。これは養豚なるものが農業経営と密着せず遊離しているからではなかろうか。豚そのものによってもうけようと思うからか様なことになるのであろう。先ず養豚の基盤を強固にすることが大切で農業と密着させなければ将来何時迄たっても……浮き上った養豚……から脱却することは出来ないであろう。

 △か様な事情で徒らに頭数の増加を望むことは考えものでそれよりも価格の高低に余り左右されない養豚の経営たらしむべきだと思う。……有畜営農……言うに易く行うに難いことはないが従来実際行われていない……推進実行が何より先決問題である。

 △現在豚の改良増殖の基地は指定種豚場であり前に述べた様な趣旨で設置されたものであるがその後数も増加して現在20数戸あると思う。数が増加するに連れ県下養豚の母体としての地位……権威……が多少減じた……というのはその運営が最初程確としなくなった……いい替えれば県の方針が以前程行われない様になった……様な気がしてならない。飼料の統制も近く解除になれば種豚用飼料の配給という事も出来なくなり昔の如き補助金制度もとれないのであればこの指定種豚場を充分活用してその効果を挙げることが困難ではなかろうか。名前ばかりになる様であれば寧ろ廃止した方がよい様に思われる。この点更めて充分検討せられる様提唱したい。

 △家畜の改良増殖には何といっても種牡畜が最も大切であり養豚の改良増殖にも種牡豚の改良充実が先決である。今般国会を通過した家畜改良増殖法で豚も指定になれば洵に結構だが現在の牛馬の種畜検査の如きであってみれば豚については尚一層優良種雄豚に種付する様指導しなかったならば実際の効果が少なくなりはしないかと思われる。

 △豚肉程重宝なものはない。生肉……加工用……何れにも好適し利用範囲が極めて広く寧ろ加工用として珍重がられる。本県には従来豚肉の加工施設はなく1―2の極めて小規模のものを除いては主として香川ハムの製品が販売されていた様である。養豚の増殖には加工施設を伴わねば将来は駄目だと思う。岡山種畜場の移転拡充と共に豚肉加工設備をなし専任職員を設置して試験と共に実地指導をされることになったのは何といっても嬉しいことである。これにつづいて客年岡山ハム会社が創立せられ営業的に豚肉加工事業に乗出されこの両施設ができたことは岡山県養豚界の強味であり将来本県養豚の健実な発展を遂げる基盤であろう。県下関係者はこの両施設に対する協力に吝であってはならないと思う。

 △ハム,ベーコン等将来の食生活の改善には欠くことのできない栄養品で都市においては勿論農村においても……ハムの肴にビール……とはいかなくてもこの種食品が沢山利用されなければならない。食生活の改善……よく言われるがこれは畜産生産物を除いては他にないのであるが……現在においては高価にして到底一般人の口にするところでない。……安く生産し一般大衆の口へ……安くても引合う製品……であらねばならないと思う。

 △豚は生産が早く且つ多いものであるから加工用に用いるとしても大都市に肉豚として販売することも多いので肉豚の販売斡旋を拡充しなければならないと思う。これ等は大部分家畜商の人々が取扱って居り又団体においても一部やっているが吾等の畜産団体がこの斡旋を一層推進しなければならないのではないか。郡県の畜産団体及県の養豚農協において将来一層積極的にこの事業に乗出されるならば農家は安心して豚を飼うことが出来る。

 △豚肉の消費が将来一層増加しなければ養豚の増殖も仲々困難であろうが農村において豚肉の消費を増加するために屠殺の簡易化を図ることが必要であると思う。現在の制度では保健所の許可を受けなければならず又重量にも殆んど実行できない制限が設けられている様であるが都市における豚肉の消費のみならず農村における消費を増加せねば食生活の改善は出来ないと思われるが実際問題として現在の簡易屠殺制度では到底農村における肉食の増加は期待できない。せめて豚位は届出程度にして容易に農村で……安価に……口には入る様にすべきではなかろうか。かくしなければ食生活の改善は御念仏に等しく何時迄たっても日本人は一升飯の域を脱し得ないであろう。

(25.3.24)