ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年6月

小家畜の問題

カナリヤの今昔と飼育について

都窪郡加茂村 藤井順一郎

 昔から阿呆の鳥飼と申します。全くその通りで,私達小鳥狂に属するものは,あの大戦中,洵に肩身の狭い思いと,哀れな生活をしながら,カナリヤには,何時も変わらぬ御馳走を,与え続けたなど阿呆でなくて出来る業ではありません。然し時代が変わればかわるもの阿呆達の持続したそれが,現在では輸出産業の1つとして立ち上り,しかも近き将来,その王座をしめんものと期待され発展しつつあると言えば,阿呆も多少世の中に必要なものであるかと思われるのであります。
 今回係りの方から御希望があり,駄文に過ぎませぬが,私の見聞し,体験した一端を述べて,初心の方々の,御参考に供したいと存じます。
 戦前は,主としてその原産地であるドイツ方面から年々80万羽以上のカナリヤが,大西洋を渡ってアメリカへ輸出されていたのでありますが,当時,我国からも何万羽かが輸出されていましたが,それは主として,犬等の動物と交換されていた模様で,未だ本格的な輸出品とはなり得ていなかったのであります。ところが第2次欧州大戦が始まり,ドイツからの輸入が途絶えたアメリカでは,昭和15年,我国へ求めて参りました。相当数の取引が出来,翌16年産のものも大量の契約が成立し,我々飼鳥家は寝食を忘れて大量の生産を致したのでありますが,彼我の国際情勢が日と共に悪化し,遂にあの大戦となり,日米の国交が断然した結果,1羽の鳥も輸出する事が出来なくなって了ったのであります。
 止むなく業者の手に依り,朝鮮,満州方面へ送り出し,一応のはけ口は求めたのでありますが,折角洋々たる前途を思わせたカナリヤ飼育も,遂に一頓座を来し,其後飼料の欠乏と戦禍等のため,飼鳥熱は愈々低調となったのであります。しかし真の愛鳥家は困苦欠乏の中にも愛情棄て難く,又一面今日有ることを一縷の望みに,種禽保存に頑張り通したのでありました。今やその苦労の甲斐あって,終戦後僅か3年,遂に待望の輸出は開始されるに至り,急に蘇った飼鳥界は,輸出産業として年と共に発掘しつつあることは,再建途上の我が国経済上から見ても真に意義あることと存じます。
 茲々に彼我の需要と輸出状況を述べて見ますと,アメリカでは前述の如く,年々100万羽のカナリヤを輸入していたのが,長期に亘る戦争の間,1羽の鳥も輸入出来ず,全く喉から手の出ると言った有様で,我が国から行った鳥は怱ち売り尽くされる実情で,最近帰国した人の話によると,1羽の鳥さえその入手は仲々容易でないとの事でありまして,そのことからも,アメリカのカナリヤに対する需要度が如何に高いかが察せられると思います。次に輸出開始以来の状況は,昭和23年度は輸出羽数1,500羽で1羽2ドル40セントで,オーデンワルト商会と取引し,24年度は約5,000羽で3ドル30セントにて前者及び外1社と取引,更に本年2月残鳥300羽を4ドル10セントで,トリフリッチ商会と取引されたのであります。更に本年度は一大鳥獣商からの入注もあるとのことで,バイヤーは4社となる見込みであります。尚見込数は,目下蕃殖の半ばと言う所なので全く不明でありますが,仮に昨年度の10倍と推定して50,000羽であります。又一面,原産地であるドイツの主産地は,中部以東でソ連占領下にあると聞いて居ります。之れが復活は遅々として進まないことでありましょう。
 此の様な形態でありますから,輸出の前途は実に洋々たりと申すも敢えて過言ではないと存じます。貿易再開後,農林省並に県当局の指導奨励に力を注がれつつある所以亦ここにあるのであります。
 我が岡山県は,古くより全国屈指のカナリヤ生産地であることは今更申す迄もありませんが,自然的飼育による鳥の健康とその鳴方はアメリカの最も好む所なのであります。最近新進飼鳥家の増加は目覚しいものが有り,これは農村不況の打開策ともなり,且つ又日本再建に寄与する所多く,洵に悦ばしいことと存ずるのであります。然しここでは一言御注意致して置きたいことは,目先の利益のみ考えて着手することは禁物であると言うことであります。凡そ動物の飼育には不断の愛情がなくては決して好結果は挙げ得られないもので,愛情なき飼育者は悉くが打算的となり長続きせず,失敗に終わることが多いのであります。それ故新進飼育家の方々も多少の苦労にめげることなく,愛情ある飼育にとって共々カナリヤ界の発展に努められんことを祈って止みません。
 下に小生10余年間体験致しました飼育法を列記致しますが,決して完全とは申しません。県下には多数の先輩が有り各人各様の飼方が有りますので,それらの方の指導も受けられ,各長所も参考として飼育研究の上,大成を期せられんことを切望致します。

一.飼育箱と附属品

 飼育に当り先づ飼育箱と附属品を整えて置かねばならない。箱の大きさは前後を1尺4寸,高さ1尺5寸のものが手頃である。前面を金網張りとしその右側に附属品の自由に出し入れ出来る上下開閉式の戸を作り,底には抽出を附ける,箱の前面には障子を嵌め込むようにし,蚊の侵入と寒気を防ぐに用ゆ,尚箱の中奥板に着けて巾3寸位の巣棚を作って置く。附属品としては餌入,水浴兼飲水器,菜差,ボレー入,巣鉢及び1箱に2本宛の泊木が必要である。注意,亀甲目の金網を使用すると蛇が浸入し易いから2分か2分5厘の角目のものがよく,泊木はウツ木がよい。

二.種禽の選択

 種禽はなるべく体格毛並共によい健康鳥を選ぶこと,止むなくよれ毛と言って毛並の悪しき鳥を使用する場合は,有覆輪(毛並体格よく毛先の白い鳥)と交配すること,尚種禽の入手はなるべく早目にし,飼育場と管理に馴らせることが肝要で,遅くとも2月中に求めるのがよく,価額も早い程安価である。

三.飼料の配合と給餌方法

 飼料を便宜上,粗飼料,普通飼料,濃厚飼料,副飼料とに区別して記す

 1 粗飼料は粟黍稗のみとし,秋季完全換毛してから翌春入巣予定日の340日前まで之れを与えると脂肪過多とならず,発情,産卵が順調となる。
 2 普通飼料は粟黍稗など8割菜種荏胡麻2割とし,入巣予定日の340日前粗飼料と切り替え約20日前之れを与え,又拘卵中与えるとよい。
 3 濃厚飼料は粟黍稗を6割菜種荏胡麻4割とし,入巣予定の約10日前普通飼料と切り替え産卵与え,又雛が孵化した翌日より離雛,更に次回産卵終了の日まで与え以後同様に繰り返し給与すればよい,尚親を離した雛は本毛に換るまで之れを与える。
 4 副飼料は青菜ボイレ腐蝕土木炭末鶏卵等とする。青菜は消化をよくし毛色がよくなり,ボイレは消化の補助をなし又卵殻となる,腐蝕土はアルカリ成分を吸収し骨格が丈夫になり,木炭は糞の調節をなすものであるから絶えず与え置くこと,中で卵は動物質飼料として発情産卵を促すものであるから入巣の日より育雛中与える,mし抱卵中は与えない,量は産卵中は12分の1乃至16分の1位,雛の孵化した翌日からは10分の1位与え成長するに従って増量してやる。尚親を離れた雛にも尾羽の充分延びる迄で与えると毛並よく体格もよくなる。方法は皮ごと切るか裏越しにかけ黄味白味共に与える。

四.交配

 交配に単式と複式(仮称)がある。

 1 単式とは巣引(蕃殖のこと)期間中雄雌を同居さす方法である。この方法で雄の性質よきものは雄雌共に,雛に餌を与えるので発育よく育雛回数も多いのであるが,カナリヤの雄には悪癖有るもの多く例えば巣を毀すもの卵を毀すもの抱卵中の雌に交尾したり追い回すもの又は雛を傷付け巣から喰へ出すもの等が有って危険率が多いのである。
 2 複式とは2雌又は3雌に1雄を使用するのである。その方法は発情早き雌を撰び之れと交配し3ヶ以上産卵するのを待って雄を取り出し次の雌と交配するのである。従って雌1羽で育雛をするので初めの内は単式の優秀のものより幾分発育が遅れるものもあるが,次の発情が遅い為最後迄で充分餌を与える関係上概して大型鳥となり,又離雛後雄を配し母体が回復して産卵するので次回以降も充実した雛が生れ発育がよいのである。尚此の方法に依れば少数の雄を飼養するので経済的であり且亦余分の雄は輸出に向け外貨獲得が出来るのである。私は10余年間この方法を研究実行している。

五.入巣の時期と巣の作り方

 入巣の時期は温暖地と寒地とは非常な差が有り,飼育場の寒暖に依り又異なる訳である。温度は45度乃至60度を適当とするので,保温の出来る室内であると2月中旬,其の他は3月上旬より4月上旬がよい。
 巣は巣鉢でも藁巣でもよい,藁鉢を使用する場合は古叺を適当に丸く切り鉢の中に敷き,その上に太い繩を動かないように嵌め込み巣棚に乗せて置く,藁巣の場合は棚板に丸い穴を開け,それに差し込んで動かぬようにし,藁芥を軟らかくしたものか,しゅろうを,よくほぐし2寸5分位に切って箱内へ入れてやると営巣を始める。

六.産卵と抱卵中の管理

 営巣が終れば産卵を始めるのである(稀れには遅れる鳥もいる。)産卵は朝6時前後であるから了め擬卵を作って置き,之れと取り替え全部産卵してから抱卵さす,数は45個が普通である。産み流しにして置くと雛が揃わないので小さい雛は落鳥することが多い。入卵後56日経過すると有精卵と無精卵が判然するので,電燈か日光に向けて検卵し,無精卵多き場合は全部取り出して更に交配産卵せしめるのである。

七.孵化後の管理

 入卵の日から14日目に孵化する,孵化後1昼夜は雛に餌を与えぬ方が発育上よいからその儘にしておく。

 1 餌付け,孵化の翌朝ゆで卵と青菜を与えるのである,大部分の親鳥は自分のソ袋に入れ消化液を混ぜて雛に与えるが,何10羽に1羽か餌を与えることを知らないものがいるから,念のため給餌後12時間経過して巣を取り出し,雛のソ袋を調べて見る,若し全部の雛に餌が入っていないようであったら青菜と卵黄をよく摺って,小筆の先で少しずつ差し餌してやる,回数は1日78回で1,2日与えていると,親鳥が与えるようになるから,其の後は親任せにしておくこと
 2 リングの嵌め入れ,ローラーカナリヤにはリングを嵌め入れなければならない,その時期は発育状態に依り多少相違するも大体孵化後,78日頃で早過ぎると脱落し,遅いと嵌入出来なくなる。方法は前指3本を揃えて嵌め,右手指先で雛の指を軽く握り,左手指先で柔しく嵌込み肘の近くまで入れて,後指を戻すのである。
 3 巣の取り替え,孵化後14,5日経つと,著しく脱糞量が増へ巣が汚れるから,別に巣を作り入れ替えてやると気持ちよく,寄生虫の予防ともなる。
 4 巣立後の注意,孵化後20日前後で巣立する。全部の雛が巣から出たら,直ちに巣を取出して親鳥の興奮を抑えなければ雛の発育が悪くなる。それでも発情して雛の毛を抜くようであったら,綿を丸めて泊木へ固く括り附けて置くとよい。離巣前に交配産卵せしむる向きも有るが概して栄養不良で雛の発育が悪いのであるから,必ず離雛後交配産卵せしめなければならぬ,若し産卵するようであったら,無精卵を産ませて棄て充分発育させて離雛の上,交配し産卵せしめなければならない。尚離雛も発育状態に依り一定しないが,大体孵化後25日乃至30日位で,餌を自から食べるようになってからで,決して急いではならない。

八.病虫害の予防と手当

 カナリヤは注意さえすれば健康な鳥である。万一病気した場合は,早期発見し手当てせぬと小さい鳥であるから回復が困難である。

 1 脂肪過多症,下腹がふくれ,元気なく眼が細くなる。この症状になると産卵しない。原因は濃厚飼料の与え過ぎである。療法としては稗を多給し,青菜ボレーを切らさぬようにし,日光浴をさせること。
 2 胃腸障害,羽根を下げ頭をすくめ,泊木に休んだ儘動かず,尻を汚しているもの,又は羽毛をふくらせ常に餌をあさりながら著くしく肉が落ち,糞が軟らかく尾を汚しているものは胃腸病である。
 手当としては,早期なれば鶏卵とカナリヤシイド(飼料の一種)を与えると回復するが,可成り重症のものはヒマシ油を筆にしまして2,3滴飲ませるとよい。
 3 風邪。夕方まで元気でいた鳥が,羽毛をふくらせ首をすくめて,呼吸が荒くなっているのは風邪である。予防としては寒い風に当てないことであり,特に温暖の場所から寒い所へ移転する時など注意しなければならない。手当てとしては少量の人蔘湯又は清酒を飲ませ風の当たらぬ所で温めてやること。
 4 卵つまり。巣を作った鳥が,朝眼をつむり羽毛をふくらせ苦しんでいるのは卵つまりである。原因は青菜ボレーの欠乏した時,又は2つ卵の場合である。手当てとしてはヒマシ油を飲ませ,肛門へ油を塗ってやると産卵する。予防としては産卵時には特に青菜ボレーを多給すること。
 5 寄生虫の予防。ワクモと言って昼間は箱の接目や泊木の穴に隠れていて夜間出て吸血する虫で,之れが発生すると雛は衰弱して育たず,親鳥まで落ちることがある,予防としては良質のフマキラー.キンチョール等の殺虫剤を夕方室内一体へ撒布すれば発生しない。
 6 蚊害,カナリヤは他鳥に比し足の弱い鳥で,蚊に咬まれると熱を持ち爪や指が落ちるものであるから,夕方蚊の出ない内に障子を箝める。若し咬まれた場合は赤チンキかオークワン等を塗ってやると落指しない。爪や指の落ちた鳥を爪傷と言って移出に不向きであるから,充分の注意を要するのである。

 以上目下巣引に大多忙のため心おさまらず不得要領のものとなり読者諸賢のお目を汚しますことを深くお詫び申し上げ擱筆致します。