ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年6月

小家畜の問題

今春の孵化を終わって

岡山県養鶏農業協同組合 TO生

 エレキテルをもてあそび,熱を起し,風を呼んで一時に母を知らぬ数千数万のヒヨコをかえすマカフカシギな振舞い,キリシタンバテレンの妖術使い。
 これは孵卵業者。
 鶏の自由を束縛し,恋愛を否定して飼料に魔薬を配合し,一夫多妻のハーレムでうつらうつらと黄金の卵を生ませることも,あえて難事としないアラビヤンナイトの錬金術師。
 これは種鶏家。
 では,黄金の雛は何処から生まれるか?
 キリシタンバテレンの妖術だけでは効目がない。黄金の卵だけでも駄目である。
 孵卵業者と種鶏家,この両者が協力一致した時始めて黄金の雛が生まれるのである。黄金の雛とはどんなものか?
 先づ第一に強健であること。如何に優秀な種卵から孵化された雛でも,よく育たなければ困りものである。これには,孵卵機の性能がよいこと,経験を重ねた孵卵技術の手腕が大きく働く。
 次には多産性をもっている事。それも長期多産性である事が望ましい。これは種鶏の改良が絶対である。
 従来は,農林省の種畜牧場と県営種畜場がこの種鶏改良の要求に応ずる基礎となっていたが,戦時,戦後十数年間の空白時代に,種鶏も前ほどの権威を失ってしまった。
 昨年ようやく種鶏,種卵の輸入が許可されて,主としてアメリカのハンソン及びドライデンのものが入って来た。これら新血の注入は,養鶏界期待の的であるが,官公立種畜場では予算に縛られて輸入も思うに任せない。今後は,民間の種鶏改良家及び孵卵業者の良識により,異血を採用して種鶏に活力を賦与し,体身の倭小化を防止しつつ多産優良化を図ることが急務である。
 多産鶏も,小卵の多産ではその意義が半減する。最近鶏卵の取引が次第に重量取引となりつつある際,小卵の300卵より大卵の250卵にこそ注目されなければならない。
 また、白レグは白レグとして,ロックはロックとしての品種固有の特徴と性能を持たなければならないことは当然であって,これがその品種の能力を発揮する第一歩でもある。
 勿論,いかに優秀な鶏にとっても病菌は最も恐ろしいものである。病菌を絶滅することは,一致してやらなければならない重要任務である。種卵は必ず白痢検査済の種鶏からのみ採卵するという判り切った,病菌全滅の初歩が案外実行されていない場合がしばしば見受けられる。どんな立派な鶏でも,卵を生むのは雌だけであるから鑑別は絶対正確でなければならない。戦争中の鑑別師の不足は,イカガワシイ鑑別の横行を余儀なくされたが,もう2.3パーセント程度の雄が出ても相手にされない時代になった。鑑別師の技術錬磨には,孵卵場も種鶏家も共に協力しなければならない。鶏卵による鑑別研究にもその完成を期待したいものである。
 黄金の鶏の正体はわかった。また最初に戻ろう。孵卵業者と,種鶏家の固い提携を話題にしなければならない。
 終戦後,殊に本春の孵卵場の濫立は全国的に目覚しいものであった。しかし,少数の優秀業者を除き,基礎となる種鶏も,確たる種鶏場も持たず乱調子な卵価と,雛の投げ売りの間を右往左往して最盛季に入卵を休止し,契約種鶏家に打撃を与えてかえりみない等利潤追求にのみ奔走する醜い様が散見されたことは残念なことであった。
 とまれ,波乱の多かった今春の孵化期間も終わった。経済的には恵まれなかったが,種鶏改良には確に一歩前進したという収穫をもって。
 新興業者にも,孵卵業があまくないことはよくわかったことであろう。だがその間に,良心的な孵卵業者と種鶏家の蒙った損失は余りにも少なかった。今後は,再びこの愚を繰り返すことなく,ガッチリと固く結んで悪徳業者の存在を許さず,養鶏界の信用を回復し高揚しなければならない。孵卵も,雛も県外移出をもっと盛んにしなければ養鶏県岡山は窒息してしまうであろう。
 では種鶏家と,孵卵業者の提携する具体的方策如何。
 私は,何といっても協同組合組織にすることが一番だと思う。養鶏農協連合会設立の機運も熱しつつあるが,単位協同組合設立が先決問題である。
 県下の至る所に,孵卵場を含めた養鶏家の協同組合が組織され,これが民主的に運営され,活用されて行く時,養鶏界の前途は明るいであろう。
 養鶏家各位の御批判を乞う。

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青峯
 刈り暮れて鶏に餌をやる麦の秋
 廣々と牛放ちあり月見草
 柵を出し子羊の背に陽のうらら
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