ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年6月

小家畜の問題

明日の養鶏え

萬輪田里生

 ○養鶏飼育羽数140万羽……鶏卵県外移出月3万箱……粒の揃った 岡山鶏卵……孵卵業者数40数軒……初生雛生産数年400万羽……といった岡山県養鶏の黄金時代が偲ばれる。西日本にその雄を誇り関西各県をリードした本県の養鶏は確に偉大なものであった。当時県庁にいてその音頭をとっておられた村上小川両技師の活動の状況も思い出される。然し戦時中から戦後に掛け飼料その他の関係でやむを得ず縮小せざるを得なかったのが最近飼料の統制も殆んど解除され又物資も相当自由且豊富になったので正に養鶏復興の好機を迎えたといわなければならない。

 ○養鶏縮小のために鶏種改良事業が一時停頓したことはいなめない事実と思う。最小限度の種鶏羽数を辛うじて維持するのが精々で品種の改良向上は図る暇さえなかった。戦前日本は養鶏技術においては遥かに他国を凌駕し世界の記録は我が国の保持する処であったが戦争のために相当後退しているのでこれを元に帰さねばならぬ。

 ○自分は前月号で……安くて引合う畜産……ということを強調したがこらからは養鶏についても正しく左様であらねばならぬと思う。このためには鶏種の改良産卵能力の向上が先づ取り上げられるべきである。系統優良な多産鶏を飼養すると共に駄鶏の淘汰が必要だ。養鶏経営も元に復した。……多産系統の飼育……駄鶏の淘汰……これが養鶏経営の基礎をなすものだ。

 ○本県には先輩橋田新七氏を初め全国有数の種鶏家がおられ日夜種鶏の改良に専念しておられることは心強い限りである。戦時中から戦後にかけこれらの熱心家の養鶏経営は寧ろ御気の毒な状態に在った。飼料はなし永年苦心して作出した系統を如何にし保持するかについて並々ならぬ苦心をされたことと思う。然しこの苦心に実のなるのがこれからだ。充分腕を伸ばして優良鶏の生産に努められんことを念願する次第である。これと共にこれからの日本が元気溢れる若人の力に俟たねばならないと同様,明日の本県の養鶏を担う若い鶏人が多数出でられ大いに種鶏の改良に努め本県の養鶏をして可及的速やか元に復して貰いたいと思う。

 ○貿易の再開に恵まれ米国より優良種鶏及び種卵の輸入が行われる様になったことは洵に嬉しいことでありこれを充分活用して鶏種の改良に資せなければならない。

 ○これからの養鶏上駄鶏淘汰の必要なことについては前に一寸述べたが最少の鶏から最大の生産を得ることが採算上最も必要なことである。如何に系統優良な鶏であっても又育雛を適当に行っても多数の中には自ら良否を生ずる様になるので産卵不良のものは早期に発見してこれを処分すべきである。養鶏家というものは妙なもので……或いはこれが人情だとも思われるが……羽数の減少することは好かないものである。寡産鶏とは知り乍らも容易に淘汰が出来ないのが実情である。然しこれでは断じて儲かる養鶏とはならない。駄鶏淘汰を果敢に行って羽数を減らし次回にこれを補充し回転を速かならしめ何時も精鋭のみを揃えておく養鶏こそ儲かる養鶏である。養鶏で儲ける人とは……鶏を上手に減らす人……たることを提唱したい。

 ○鶏卵の公定価格もなくなり鶏卵価格は需給の関係で決定されるので春は安く秋は高い。従って秋期に多産する様に考えることが望ましい。この意味で今秋からは採卵家は点燈を行うべきではなかろうか。戦前には点燈が多く行われたが戦時中の防空電力規制等により点燈は行われず今日に至ったがも早や電燈の使用も容易になったので点燈を開始して収入の増加を図るべきだと思う。勿論種鶏にたいしてはこれを行ってはならない。

 ○本県には戦前40数軒に上る孵卵業者があったが戦時中の整備により10数軒に縮小した。近時順次復活して夫々独特の技術と宣傅により本県産雛の販売に努力されている。孵卵業者の復活よりも各孵卵業者の人々が良心的な系統の良い雛を沢山出して貰うことが必要だ。将来は量より質……よい種卵……よい技術……よい雛……でありたいものだ。

 ○長い間重苦しく又厄介な統制も飼料を最後として殆んど解除される由である。新聞によれば今年産麦類から供出完了後は自由販売にすべく検討されている模様であり又雑殻も解除になるかも知れぬとのことで飼料の殆んど総べてが濃厚飼料である養鶏にとっては明るくなった様である。幸いこれが実現することになればこの間迄飼料専用圃だ……保有……だと極力運動してきたが最早その必要もなくなり公然と麦類を買って食わすことも出来る訳である。又黄色玉蜀黍も順次輸入されることであろうし戦争中期からの閉じこめられた養鶏から開放された養鶏となり大空に羽ばたきして進まねばならない。

 △飼料統制解除後も県の指定種鶏場は依然継続の方針であるが補助金制度等のない今日飼料の特定配給を伴わない指定制度はその運営が仲々困難であり稍々もすれば品質下向の懼なしとしない。指定種鶏場は県養鶏向上の土台でありその育成と運営にはお互い十二分の努力を傾注しなければならないと共に種鶏場各位の絶大な御協力を願いたい。さきに妙令の麗人を迎えられた若き養鶏指導者よ!!養鶏復興の秋……明日の養鶏へ……の秋に当たりその溢れる青春の意気と心臓とを以って本県の養鶏を強力に押進められんことを期待する次第である。(25.4.21,)