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農村に於ける簡易な鶏及あひるの燻製品の作り方

岡山種畜場 中野由雄

 栄養価が高く,貯臓性が大きく,又美味しい鶏及び鶩の簡易加工法について簡単であるが述べて見る。本法による製品が,特に農繁期の食卓に容易に盛られ疲労の回復と明日の活動に役立てば幸甚である。

一.屠殺及抜羽

 鶏及鶩は屠殺する前に之を小籠に入れて日光に良くあて空気の流通の良い清潔な室に列べて,消化の良い飼料を豊富に与えれば体重を増加し肉質は水分を増して柔かくなり風味は佳良となる。以上の様な飼養法に依って肉質を改善する。鶏及鶩は屠殺前一昼夜絶食させ,特に給水,安静を第一とする。
 放血後一般に行われる抜羽の方法には素抜法と湯抜法とがある。前者は鶏を屠殺放血して体温の未だ冷却しない内に抜羽する方法であり,食鶏を輸送又は貯蔵する場合に適し,後者は温湯に浸漬して抜羽する方法であり,其の儘直に食用に供する場合に適する。しかし一般に素抜法は鶏に用いられ,湯抜法は鶩の様な抜羽困難なものに用いられる。尚燻製品に於ては両者共に肉質に於ては其の差は認められない。

 イ.素抜法 鶏を屠殺して未だ体温の冷却しない内に手速く翼羽及尾羽の太い羽を抜き去った後,下腹部より胸部及頸部に移り次で肩部より背部に及び両翼及両腿部に至る。最後に軟羽や退化羽毛を引抜き,更に毛焼きを行って仕上げる。抜羽の強過ぎるときは皮膚を損傷し易いから注意する。
 ロ.湯抜法 鶏及鶩肉の需要の殺到した場合は抜羽が粗雑となるのみでなく其処理法も粗放となるを免れない。此の様な場合尚鶩の様な抜羽困難なものには,湯抜法が便利である。本法は抜羽操作の簡単迅速を要する場合,屠体の体温が低下した場合,或は綿毛の多い為抜羽の困難な場合に適する。湯抜の温度は摂氏66度〜82度(華氏150度〜180度)を適当とするが鶏のような抜羽の簡単なものは摂氏70度(華氏158度)鶩のような困難なものは摂氏80度(華氏176度)を適当とし,特に温度に注意されたい。湯抜を行うには屠体の両脚を持ち温湯に浸して5〜6回振動さす。此際に翼羽を引いて容易に抜ける時を適当とし直ちに屠体を引上げ湯を切り羽毛の発生方向に対して逆の方向に擦る。

 二.腸抜操作

 燻製品にする場合に於ては必ず腸抜を行う,内蔵を分離するには先ず耳朶の下部第1頸椎に刀を入れ頸部を切り去る。次に頸部の皮膚を第7頸推迄巻上げ食道及気管を頸部肉面より分離して,左右第1助骨間より内臓内に押入れ,次に肛門の周囲に刀を入れ直腸及排泄口を分離し,後左右両手で胸腔内臓内に手を入れ腹膜及び横隔膜,肺臓,其の他の膜を手で切断し,後,?嚢に手を掛け臓器を屠体後部より引出す。此の際臓器を破損し汚物を屠体に附着しない様注意して引出す。後,屠肉体を良く水洗し充分水を切る。

 三.血絞り

 放血をして未だ屠体中には血液が含有されて居り此れが腐敗の原因となるのであるから血液を絞り出す必要がある。之には水を切った後屠体1sに対し食塩50g、硝石5g,を混合したものを屠体全面に充分擦り込み血管を圧して残血を絞り出し,冷暗所に重石を乗せて一昼夜放置し血抜を行う。

 四.塩漬

 塩漬には屠肉体1sに対し下記の処方に依る混合物を加熱溶解し布でろ過,冷却したものを用いるが,鶏及鶩は体重に比し容積が大であるから漬込液の調製に当っては注意を要する。
 血絞りを了った屠肉体は之を樽又は「カメ」に漬込み,屠体の浮上らぬ程度の重石をして約3日〜5日間漬込を行う。塩漬を行うには成るべく冷暗所を選び,農家に於ては物置の北側とか縁の下等に土を掘って漬込んだ樽及「カメ」を埋めるのも1つの方法であると思う。塩漬を了ったものは之を取り出し清水に約20分間浸し過分の塩抜を行う。

 塩漬液処方(屠肉体1s当)
  〇第1例
   水    1,000g
       (約5.5合)
   食塩    120g
   硝石     12g
   砂糖(水飴) 40g
   玉葱     30g
   ニンニク 5〜10g
  〇第2例
   水      1,000g
   食塩      150g
   硝石      15g
   砂糖(水飴)40〜50g
   胡椒      10g
   肉桂       5g
  〇第3例
   醤油     1,000g
   硝石       12g
   砂糖       60g
   玉葱       50g
   生姜       30g

 香辛料は好みに応じて適宜に混ずるが良い,玉葱,ニンニク,生姜の類は大根おろしですり下ろして液に混ずる。

 五.乾燥及び燻煙

 塩抜を了ったものは鶏及鶩の脚を細紐で吊し乾燥を行う,摂氏40度前後の炭火で5時間位内部まで充分乾燥を行う,乾燥を終わったものは引き続き燻煙に移す。桜,樫,籾穀,玉蜀黍の心等樹脂及刺激成分の少い樹種の薪又は鋸屑を用い摂氏50度前後で約6時間燻煙を行う。燻煙室の設備として最も簡単な方法としては,地面に穴を掘り其の上に樽及びドラム缶を伏せ其の中で燻煙を行えば良い。

 六.供食法

 燻煙後未だ乾燥の度が不十分な物を直に供食する場合は摂氏70度で30分間水煮し,普通解体法に依り肉を分離し厚さ2〜3o位に薄く切って其の儘食する。尚長期の貯蔵をするには日光の直射しない通風の良い軒下に吊し,又は囲炉裏の天井に吊し燻煙も兼ねて1ヶ月位の乾燥をする。原重量の5〜6割位に成ったものは前者よりも更に薄く切り又は鰹節同様に削って食する。其の味は極めて良好である。骨に於ては汁の中に入れスープを取ると一種の香りが有りスープとして美味である。