ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年7月

横から見た中家畜行政(3)

作州住人

 △中家畜行政についてさきに緬羊養豚に関し愚見を述べて来たが今回は山羊について述べて見たい。戦時中から母乳が不足し乳牛は動物が大きく且高価なために農村は勿論,都市においても山羊が著しく増加してきた。従来山羊については県としては全く何等の奨励施設もなかったのが事実である。動物が小さく,老幼婦女子も容易に管理ができ,又価格も高くないので自家用として乳用に供するには最も適した家畜であるのでどしどし殖えて現在では実際の処1万頭は裕に超えていると思う。

 △本県における山羊の本場は勝田郡で,苫田,英田,久米の各郡がこれに次ぎ,作州に非常に多い。而して多数の中には相当泌乳能力の高いものも居ろうが,概して能力の低いものが大多数である。長野,群馬等吾が国山羊の先進地においては相当品種が改良させられ,能力の高いものが多数飼養されているが,本県はこれらに比べるとまだまだ遥か低位にあることは洵に遺憾に堪えない。

 △前にも述べた通り本県には既に1万余頭も飼育されており,山羊は過剰の傾向になって価格さえ高ければどしどし売りたい希望は山々だが残念乍らそう高く売れない。高く売るには品種を改良してよい山羊をつくり出すことだ。

 △か様な実情下に本県の山羊改良に如何なる手が打たれているか。自分は本県山羊の改良には先ず種雄山羊の充実と登録の実行が焦眉の急務であると思う。他にも色々あろうがこの2つが柱石だ。

 △家畜の改良に種雄畜が先決問題であることは何れでも同じであるが本県には種雄山羊の良いものが極めて少ないので先ずこれの増加に努力しなくてはならない。現在種雄牛につけ加えて年間数頭の優良種雄山羊を購入貸付しているが,焼石に少量の水で効果が拳り兼ねている。価格もそう高くないので思い切ってやる様計画されんことを念願する次第である。

 △次に登録であるが,優良な系統の普及を図るにはこれに依らなければならない。勝田郡では郡畜連でやって居られるやに聞くが,入手の関係もあり徹底していないのではなかろうか。緬羊は別として豚にも登録制度が実施されているので、これと共に山羊にも可及的速やかに実施したいものだ。本県の実情に鑑み,寧ろ豚より先に一層徹底してやるべきだと思う。中央には山羊登録協会があるとの事だが一向に地方に発動して来ないし,又県でも一部にはその必要を痛感し乍ら未だ実行の運びに行っていない。移動が比較的頻繁なので実行となると仲々容易ではないが……押切ってやらなければ本県の山羊は何時の日にか芽が出ようか。山羊は必ず長野群馬に行かなければ良いものは入手出来ない如く考えられているが,本県も一つふん張って優良な種畜を他に供給する様になりたいものと思う。

 △牛馬でも将来は広く天下に販売斡旋を行うことが必要であると同様に山羊についても積極的に子山羊の販路を拡張して売り広めることが必要である。更に出来得れば,山羊のせり市を開設する位になりたいものだ。

 △3回に亘って中家畜の行政に関し私見の一端を述べてきたが,和牛登録については県庁内に登録協会の支部を設置し専任職員をおいて事業を実施して居られるが,登録事業は将来豚,山羊とも牛につけ加えて1つに纒めた方がよいと思う。そして専任職員をおいて強力に推進することが出来る様計画してほしい希望を持っている。

 △中家畜の特徴については今再びここに述べる必要はないが,相当多数の中家畜を有する本県としては,これを一層発展させなければならない。最も必要なものから順次採り上げて一つ一つ実行に移される様……そして中家畜も和牛と同様生産地となり優良種の供給県たらしめんことを切に祈念してやまない。(25.5.3)