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和牛特集

農業経営における和牛に関する調査

工藤恒三

 畜産試験場及び県畜産課よりの依頼により英田郡楢原村内10戸の農家に対し農家経営における和牛に関する調査を実施したのでその結果を取まとめて見ることにしたが将来の農業経営に改良進歩のために何かの参考ともなれば幸いである。

一.調査方法

 1.調査対象期間は昭和23年1月1日より同年12月31日までとし和牛の状態について   は現在の情況について調査した。
 2.調査対象の農家は10戸とし楢原村内において水田3反歩以上を耕作し和牛1頭或いはそれ以上を役畜として使用して居る農家
 3.右により楢原村内の平均農家について調査しようとしたが村長農協長と協議の結果23年中の事を思い出し正確を期そうとすれば熱心な農家となり,結局村内中位以上の農家について調査することとなった。
 4.調査農家の配置を村内各大字に配置するため各大字の農家戸数,経営面積,家畜頭羽数等を考慮し概ね比例して調査農家の配置を定め概ね村全体に分布した。

二.和牛について

 和牛については現状況(3月4月)を調査したがその結果による,下表の通りである。
 下表によると調査農家10戸で1戸平均1.7頭となるが23年中においては親牛に換算して1戸平均1.35頭と見ることが出来る。発育栄養の状態も比較的良く,登録関係においても無登録が僅に3頭であることは牛に対する熱度を示すものではなかろうか。

性別 年令別 頭数 1 頭 平 均 発育栄養状態 登 録 1ケ年使役時間数平均
胸囲 体高 体長
18ヶ月以上 11 163.8 120.3 142.3 上3中8 本 3予 2予シ1無 4補 1 345時間 以上の外に発情の有無と程度,妊娠年月日,分娩年月日,飼料の利用性,口の大きさ等を調査したが本表には略す。
18ヶ月以下 4 131 103.5 111 上2中2 本シ2予シ1無 1
18ヶ月以上 1 177 123 165 上1 無1
18ヶ月以下 1 125 99 110 上1 本資1

 又村全体としての頭数においても24年2月1日現在における和牛飼養農家1戸平均1.2頭となりこれと比較すれば稍々多いこととなる。
 村全体における和牛の状態を参考までに記して見ると

性 別 年齢別 頭  数
18ヶ月以上 181
18ヶ月以下 49
18ヶ月以上 42
18ヶ月以下 38
300
経 営 面 積 飼養戸数 頭  数
5反未満 51 513
5反以上−1町未満 179 221
1町以上−2町未満 19 26
249 300

 村全体としての経営別,耕地面積も参考までに記して見ると下表の如くであって次項以降を参照する材料ともなるのであろう。

5反未満 5反以上−1町未満 1町以上−2町未満 計平均
農家戸数 197反 195反 34反 426反
耕地面積 417.4 1,094.10 290.1 1,802.00
113.9 292.5 102.7 509.1
1戸平均耕地面積 2.126 5.61 6.16 4.23
0.566 1.5 3.01 1.19

三.和牛以外の家畜

 村全体としては馬,豚,山羊,兎,鶏等を飼育して居るが馬,豚等は僅少にして鶏は871羽にて最も多く次は兎で232頭であるが本調査の農家に於ても下表の如く鶏が最も多く各戸に飼育して居るが其の他は割合に少ない。

種 類 飼養頭羽数 飼養戸数 10戸に対する1戸平均
44 10 4.4
10 5 1
山 羊 1 1 0.1

四.土地経営

 1.作物別面積,収量金額

23年中に於ける作物の状況は特殊なるものなく一般的のものにして米麦作農業の域を脱せず,飼養としても亦飼料作物の栽培をなすことなく農場副産物のみによる家畜飼養方法と言うことが出来る。
 表によってもうかがわれる如くこの地帯は水田を主とする所であって畑が割合に少なく採草地に恵まれた所である,かかる調査農家に於て平均和牛1.7頭,鶏4.4兎1.0を飼育して居るのであるが将来に於て採草地,畦畔等の草生を改良し,水田裏作と畑の高度利用等を研究したならば,まだまだ多くの家畜を飼養し農家経済の合理化を図ることが出来るであろう。
 本村に於ては早くも草生改良に着目し,路傍に畦畔にレッド,クローバーを播種して居る,従来の畦草,路傍草等は白く黄色く枯れて居るにかかわらずレッド,クローバーだけがこんもり濃緑に繁って居り,青草として一番最初に家畜の胃に入り夏ともなれば赤い可憐な花が咲き揃うことを思起するとき将来は山野にも一般に繁茂し全面的草生改良と共に家畜も肥え,又殖えて農業経営の合理化となり,農家経済の基礎を確立することであろう。

調査農家の作物別、面積、収量、金額(推定)十戸総計を示せば
種 類 作付戸数 面 積 収  量 金   額 平均反当収量
10 79.1反 182.0石 657,220円 2.3石
9,730貫 97,300 123貫
大麦 1 0.3 0.8 1,600 2.7
實稈 50石 350 166
裸麦 10 34.4 45.05 99,603 1.31
實稈 1,931 13,517 56.1
小麦 10 19.4 25.86 55,811 1.33
實稈 1,162 11,620 60
大豆 10 4.5 5.35 18,532 1.19
實稈 7 241 2,120
小豆 7 1 0.52 2,300 0.52
甘藷 10 4.3 2,150貫 42,460 500貫
藷蔓 3,070 9,210 714
2 4.7 15,850
野菜 10 3.9 2,450貫 16,200 628
紫雲英 9 9 6,030 24,040 670
菜種 8 1.4 1.44石 6,960 1.03石
馬鈴薯 9 3.2 930貫 13,950 290貫
蚕豆 6 0.6 0.75石 2,625 1.25石
豌豆 1 0.1 0.15 475 1.5
青刈大豆 1 0.3 45貫 450 150貫
玉葱 2 0.5 160 4,480 320
タバコ 2 0.9 50 21,500
167.6 1,118,173
(イ)面 積 (ロ)飼料として利用し得るもの種類,副生産量 (ハ)(ロ)の推定金額 (ニ)(ロ)項中飼料として利用する量 (ホ)(ニ)の推定金額 反当生産量 1頭平均面積(1.35頭として)
水田 1毛作 18.9反 ワラ 貫2,274 ワラ 円22,740 ワラ 貫722 ワラ 円7,220 反1.40
2毛作 60.2 ワラ 7,474 ワラ 4,740 ワラ 3,550 ワラ 35,500

4.46

麦稈 2,868 麦稈 22,567 麦稈 200 麦稈 1,400
紫雲英 8,030 レンゲ 24,120 レンゲ 6,030 レンゲ 24,120
17.1 甘藷ツル 3,070 ツル 9,210 ツル 3,070 ツル 9,210

1.26

大豆葉サヤ 209 サヤ 2,090 サヤ 209 サヤ 2,090
野菜残渣 800 クズ 2,400 クズ 550 クズ 2,250
畦畔 5.4 生草 2,440 14,640 2,440 14,640 451,830

0.4

乾草 720 18,000 720 18,000 133,300
路傍其他野草生産地 1.5 生草 1,480 8,880 1,480 8,880 986,670 0.11
採草地 50.5 生草 12,880 77,280

12,880

77,280

255,000

3.74

芝草 13,500 67,500 267,330
山林 3.5 芝草 2,370 11,850 676,500 0.26
桑園 4.7
356,017 200,590
草類のみ 198,150
給与戸数 自 給 飼 料 購 入 飼 料 1頭平均(1.35頭として)
数 量 金  額 数 量 金  額 数 量 金  額
稲藁 10 4,232貫 42,320円 120貫 1,200円 322貫 3,220円
野草(生) 10 16,130 96,780 1,195 7,170
野草(乾) 9 720 18,000 53 1,325
紫雲英 9 5,740 22,960 424 1,696
大豆サヤ葉 7 194 1,940 14 140
甘藷 2 50 1,000 3.7 74
甘藷蔓 10 3,010 9,030 300 900 245 235
野菜残渣 9 690 2,070 51 153
蚕糞蚕渣 2 350 26
米麦糠 10 12.75 6,375 6.6石 3,300 1.43石 715
シイラ 1 0.2 0.25
5 2.9 5,698 0.45 421.7
4 1 1,500 5 6,300 0.44 660
馬鈴薯 1 30 450 2,200貫 33
麦稈 2 200 1,400 14,800 103.6
豆腐粕 2 230貫 8,100 17,000 600
魚粕 2 28 8,400 2,000 600
209,523,000 28,200 17,646.30

五.和牛の飼養概況

 和牛の飼養状況は下表の如くであって購入飼料は生産と育成を共にやって居る農家が主である,この調査は23年の事を思い出しつつ記録したものを集計したものであって正確は期し難いが成牛1頭何程喰うて居るものであるかと言う概数を見ることが出来るであろう,調査農家10戸を集計すると。
 下の表によると,明瞭に現れて居ないがここに特筆すべきは大豆葉の利用である,大豆莢は各農家に於て利用して居るが大豆葉は殆んど利用して居らず只1戸利用して居るのみである,この農家に於ては大豆7畝を作付し葉を100貫収穫して居るこれに要する人員は3人夫なりと言う,飼料価値の高い大豆葉を大いに利用すべきである大豆葉が少々黄味を帯びたとき取ると豆の収量には悪影響がないものである。

材   料 稲   藁 麦   稈 山林下草 廏肥生産量
数量 3,958貫 1,999貫 15,750貫 21,707貫 48,000貫
金額 39,580円 13,993円 78,750円 132,323円 100貫当り275円67
1頭平均数量 293貫180 148貫000 1,166貫600 168貫000 3,555貫

六.廏肥生産量及其の材料

 右の表によると調査農家10戸の平均は1戸当たり4,800貫廏肥が生産され前の表によって水田,畑を合せて,1戸平均反別は9.62反であるから廏肥の反当り施肥量は499貫約500貫と言うことになる。500貫中に含まれて居る,肥料成分は大体N2貫750,P1貫250K3貫000の三要素の外に100貫余の地力維持に必要なる有機質を含有して居る。廏肥は取扱いの如何によって損耗があるものでこの辺の取扱いは悪い方の取扱いであると思われるからその損耗の割合はN50%P10%K30%と見ても反当施肥成分量はN1貫375,P1貫125,K2貫100と言うことになる,これを金肥に換算すると硫安,5貫650,過燐酸石灰7貫030,塩化加里,4貫200ということになる,金額に就いては本調査によると100貫当り275円67ということになる廏肥の生産と取扱の如何に重要であるかがわかると思う。

七.金額の集計

 以上各表によって調査の大要は終るのであるが金額に対する集計を試みたいと思う,本調査の金額は推定であって(公)ヤミ価格,作報の自給肥料成分価格表等を考慮し農家の納得のゆく価格としたものであって時価の正確なものでないためこれによって農家経済を云々するわけには行くまいと思うが金額関係を見安くするため下に集計して見ることとしよう。

1 戸 平 均 1 頭 平 均 摘     要
1.水田,畑の作物よりの金額 111,817.30円 保有量を含む
1.畦畔,採草地等よりの金額 19,815.50
1.土地経営と飼料との関係に於て
 イ.飼料として利用し得るものの金額 35,601.70 26,371.60 藁工品,屋根材料を含む
 ロ.飼料として利用するものの金額 20,059.00 14,858.50 和牛以外の家畜飼料を含む
1.和牛の飼養概況,自給肥料金額 20,952.35 17,609.15 米麦糠等を含む
 ……購入飼料金額 2,820.00
1.廏肥生産材料金額 13,232.30 9,801.70

 和牛1頭の飼料費17,600余円を要し相当の金額となるが役畜のみとして使用するものとして考えると1ヶ年使役時間の平均が345時間であるから1日平均8時間使役するものとすれば43日となり,1日牛のみ300円とすれば12,900円の収入となり差引すると赤字となる,之に公租公課,衛生費,光熱費,牛及び廏舎,器具の減価償却等を加えると相当の赤字となるから,毎年仔牛を生産するようにすることが必要であろう,ところが税金のために仔牛生産を考えない人もあるようであるが税金の方も亦上により再考を要することであろう。

八.結言

 本調査は前にも述べたように記憶をたどったものであって正確とは言い得ない,又これを以て楢原村全体の平均であるとも言い得ないが,或るヒントを与える材料となり,又今後この種調査の必要性と調査の材料となることであろう。
 将来の農業経営を云々する方々はこの点凡ゆる角度から研討したならばまだまだ多角的な経営の改良も思い出し経済に於ける現金収入の道も考えを及ぼすことともなるではなかろうか。