ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年8月

夢想愚想(3)

宰府 俤

 色とりどりの羽根が飛ぶ世間,群衆のざわめきの中に幸運を掴む人,町角に一攫万金の野望を燃やす人。
 この世相この人々,すべてが国破れて蔟生せるアプレゲールのレッテルを貼られた売出物ではあるが,何れも底につながる一筋の糸をたどれば,山の緑化運動であり,道路復旧のクジであり何れも社会運動のあらわれである。
 情なくもあり,巧妙な手段に驚きもする。
 白い羽根赤い羽根緑の羽根と,ほこらしげにか,お役目完了の印にか胸に飾る人々はあるが,この盛装せる羽根が莫大な鶏の犠牲によるものであると深く感ずく人が幾人あるだろうか。緑の運動,愛の運動を道行く人々に訴える片手間にでも一言「鶏に感謝しましょう」と呼んではくれないものだろうか。
「安価な畜産製品は安価な飼料から」と,我々の周囲に豊富に生育する草類の飼料的価値を検討し,且その利用の合理化を計る為に今日草種草生の改良が実施されている。
 山野,堤塘,田畑の畦畔等,国土の至る処に滋養多き草が繁茂するならば賀川豊彦氏の唱える「蜜の流れる国」も「我れ幻の国を見たり」というが如きことにはなるまい。
 ……しかし,この事業の性質から一戸の有畜農家,更には畜産人のみの運動であり実施であっては,到底遂げ得らるべきではなく,一般国民の認識と協力を最も必要とするわけである。
 草を単なる草とし極端にはすべて雑草視し,作物とは判然区別する糞味噌混同のヤカラに草の観念の変更を求めて,牧草の種子を常に持ち歩き牛馬同様に愛情をそそぐ欧米人に少しでもあやかるべく牧草週間の設定或は草生改良促進の羽根の運動,牧草クジの発行等広く国民に呼びかけては如何様なものであろうか。
 これ又夢想愚想の戯言でしょうか?
 過般の参議院議員選挙に畜産人の政治力の貧弱さを目を覆うほどに,さらげ出した我々ではあるが即刻決起,手を取り腕を組み合って,国民の啓蒙と草生改良の積極的な協力を求めるべきではなかろうか。
 草生改良といえば赤クローバー,赤クローバーといえば直観的に草生改良を思いおこす片手落ちな筆者は終始赤クローバーのみが優秀な牧草であり,草生改良に最適のものでもあるまいと自分にいい聞かせている始末です。お笑い下さるか,鼻の先から汗を流して一生懸命なのですから。
 農業とは自然と一体となって自然を利用し活用する人間の営みであると思う。それ故作物を栽培するには誰も立地条件を先ず考えこれに適した種類の作物を選ぶ。
 牧草だからとて,徒らに外国渡来の片仮名で書いてあるヤツ,を手あたり次第取り入れ試みるのは木に竹を接ぐ様なものである。
 片仮名で書いてあるものが何よりも一番優秀なものであると誰が思いこませたのでしょう。
 地方在来の草類の飼料価値を調べ優秀なものはどしどし伸ばしてゆくことが草生改良の第一の出発点ではあるまいか。
 話は海越え遠き米国に飛ぶがこの国の南部諸州は酸性土壌が多く,クローバー,ルーサンに適さず,その為に日本よりヤハズソウを輸入しこれを改良して現在立派に成功しているとか。
 米国人のこの飼料作物に対する真摯な態度に照らし,我々は片仮名牧草のガムシャラな憧憬を修正すべきではなかろうか。

雷遠くなりて着かへし浴衣かな