ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年8月

北海道の旅から

はなお

 6月30日炎暑の岡山を後にして北陸線通りで北海道の旅にのぼった。学生時代牧場巡りをした北海道の旅は愉快なものだったが今回は定められた予算でより良い種馬を買わねばならないという役目があるので何か肩の荷が重い。北陸線は東海道線と違い客車も悪い。一夜,明けて車窓より眺める越後平野は,さすが穀倉だけであって一望の緑田続きである。畦畔は巾狭く大豆が植えられている。ハンノ木の並木がここかしこに見える。この辺の農家は一戸一戸樹林にかこまれ屋根がぽっくりぽっくり樹間に見える。森の村ともいいたい。「雪の新潟吹雪に暮れる」半歳の雪にうもれる生活をせねばならぬこの地方の農家も容易なことではないだろう。
 青森を真夜中に乗船したが冬でなくて幸い北海道の関門港函館に朝上陸,駒ケ岳の尖がった剣峰北海道第一の印象を与える。年中行事の港祭りで町はにぎわしい。上陸第1日は札幌郊外にある元月寒種畜牧場(農林省北海道農事試験場畜産部惣津課長前任地)に旅装をぬぎ惣津会館に落付き汗と埃を流す。
 北海道は日本の最北端であり,昔の10個国を占め,行政上十四支庁に別れている。
 蝦夷山系が南北対角線を画し,本島の背景となっている。石狩川流域から発達する石狩平野は最も広大で一寸満州を思わせる感がする石狩川はこの野を蛇行流程実に360qに及んでいる本道第一の大河である。北海道は原野が広く,地味肥沃であり自然大農式農業が発達し,産業の中枢となっている。その大宗は米麦,馬鈴薯,豆類,玉蜀黍である。特作として薄荷,除虫菊の外甜菜,玉蜀黍,林檎等がある。
 又,天恵の牧畜地として知られ,広い原野と豊富な牧草によって牛馬の飼育が盛んである中でも馬が最も多く牛,緬羊,豚,鶏,蜜蜂等がこれに次いて飼養させられている。
 7月初めというに本道の人達は合服,にキチンとネクタイをしめている。主要駅に列車が入るとヌクヌクのソバの売店に乗客が走る。売子娘が一段高い所から手ぎわよく売さばく,1ぱい40円也のソバ停車時間中にかき込むため客が娘のぐるりを取かこんで先を競う風景は内地では見られない。
 「眼に青葉山ホトトギス」といいたい程の新緑が眼にしみる。水田の田草をとっているのに畑の馬鈴薯は白一面の花盛り,移植が終った位の大きさの玉葱や刈取られてない麦が見受けられる。内地と違いちぐはぐの感が起きる。空地支庁空地生産連の所在地岩見沢に3日午後着,人口45,000うす暗い感じの町だが整然とした処,購買の打合せをし,貸車の申込を済す。町はずれの酪農家今西氏を訪ねる。乳離雄仔牛1頭115万にはいささか驚いた。この母17才(クインセジスフォーブスルント号)は75石9斗6升の記録牛だ。
 目的地の秩父別村は深川から萠留線に乗替え筑紫駅下車人口6,500位,村といっても田舎町位ある。劇場もあれば飲食店もある。
 当空地管内は馬3万3千頭(道内26万−30万位)緬羊4万5千乳牛2千4,5百頭の保有,北海道の中央部に位し,3市28ヶ町村を区域としている。馬の生産2千5百,生産馬は当才秋期市場で殆んど内地に移出されている。又管内は馬の育成地として古より知られ特に種雄馬の育成供給地でもある。2才で10勝釧路日高,根室石狩等より購買し,1年育成の上候補種雄馬として売却している。
 本年は幸い多数の出陣があり3日間に亘って優駿中間種70頭に重種75頭を見ることが出来た。
 いざ購買となるといろいろな面で限定され中々むつかしいものであるが現地の関係方々の協力で安く予定のものが購買出来た事は何よりの喜びであった。
 育成家の苦心もなみたいていでない。昨年の価格が高く育成に相当費用を要するので本年利益はないことになる。普通水田又水田畑を合して5町歩位を耕作して居りその中3,4反を飼料畑として牧草を栽培している。
 育成中の燕麦は凡て購買するが年6,70俵,多いのは100俵位も与える。共進会にでも出すとなると牛乳をふんだん与える。出陣馬一例を見てもペル系で3才体重1米55,胸囲2米20管囲24.7,2万の購買価格60万円だった実に偉大な体駆,内地の何処にも見られないこの馬に近いものが相当数出陣されていた。全く驚かざるを得ない。
 最後に輸送について感じた事は荷車(ワ)では種馬を入れると狭く飛端を板壁で打ち易いから莚又は古畳を後の壁に打つけること,四斗樽(水がいのため)入れておく,バケツ2個に天秤棒代用のもの,鎌1個,夏は蚊の予防と乾草の中にいる吸血昆虫の予防剤必要と思った。