ホーム岡山畜産便り岡山畜産便り昭和25年8月

美方の牛と湯をのぞく

△7月10日から12日迄3日間天下名牛の産地として知られている兵庫県美方郡の育成2才雄のせり売が浜坂町において開催されるというので勧められて同志3名と共に7月12日視察に出掛けた。浜坂駅に下車すれば駅構内,待合所,駅前等に但馬牛の写真,案内図等がかけられさすが産地だと思われる。駅から程近い市場には無慮250頭に及ぶ雄牛がぎっしりと居並びその前に管理者がついて世話をしている。余り広くもない繋養場は牛で埋めてしまい巡って見ることも出来ない様な状況である。せり場では盛にせりの最中で太夫の元気な声が聞える。ぎっしり窓に迄上って見ている状況で極めて盛況に見受けられた。

△繁養場を一通り巡覧することにする。大小色々の雄牛が居るが体型は概ね揃って洵に見事であり,さすが但馬だなあ!!という感じを受けた。一緒に行った家畜商の人が折角来たからには1−2頭は買わなければと熱心に物色する。

△せり場の中に入り美方郡畜連の会長,参事に挨拶の上せりの状況を視察する価格は月令にもよるが普通のもので2万円から2万5千円程度,よいもので3万円から4万円,最高8万円であった。相場は概して安く昨年雄仔牛買入時の半額余とのことで育成家はこれでは飼料代もないと大変こぼしていた。昨年来の牛価の変動に鑑みこれは尤なことであろう。

△購買者は各県から集まり元気よくせられる状況は見ていても気持ちのよいものだ。今般のせり売の計画を見ると次表の様である。

日割町村別 7月10日 11日 12日
村岡町 6 8 4 18
鬼塚村 7 14 7 28
熊次村 62才雌 2 62才雌 2
小代村 11 19 112才雌 1 412才雌 1
射添村 23 41 13 77
温泉町 27 45 24 96
昭来村 8 9 5 22
八田村 5 9 4 18
大庭村 61 106雄仔牛 1 56 223雄仔牛 1
浜坂村 8 16 82才雌 1雄仔牛 1 322才雌 1雄仔牛 1
西浜村 2 3 1 6
養父郡 1 1
1642才雌 2 271雄仔牛 1 1332才雌 2雄仔牛 1 5682才雌 4雄仔牛 2

△当地のせりは本人取りというのは殆んどない。本県においては本人取りが相当あり,これもその後事実自分で飼うならよいがせりを1つの評価手段として本人取りとなしその直後これにある程度下駄をはかして他に転売する予めの約束の下に本人取りするのがある様に見受けられる。これでは折角遠方から来ているお客が荷が出来ないで困ることにもなり将来お客が漸次来ない様になることと思う。他県から来た得意にはなるべく希望に副う様にして買って貰うがよいのではなかろうか。これは本県和牛の販売政策上大いに考えるべきことではないかという気がした。

△畜産に携っており乍ら子供の話の様なと笑われるかも知れないが従来但馬牛は被毛に褐色が強いと聞かされていたが当地に来て見れば左様なものは殆んどなく被毛は黒くわずかに褐色を帯びているのには従来の認識を一変させられた。

△当時のせりは全部牛は当日渡しである。組合で貨車を斡旋して買った牛は当日受取り夫々発送を了り売主はその日に販売代金を貰って帰る。数の少い処ではその日貨車輸送は困難かも知れないがこうすれば生産者も喜び従って出場頭数も多くなるのではあるまいか。

△当日は天気がよくて非常に暑くせり場の中はうだる様であった。買う積りなら元気がでるが見る丈では尚更暑い。午後3時半頃引揚げて湯村に行った。当郡は同行N君が元居た処であるから好都合だ。とある旅館に落付き一風呂浴びた。汗を流した後の気持ちはさっぱりして何ともいえない。先ず冷しビールにつき出しで涼味をとった。四方八方の話に花がさき夕方になったので一同ここから約10町ばかりある美方種牛所を訪れ同所飼育の種牛を見せてもらった。

△翌日は同町にある美方畜連事務所に行って見た。今日も市場があるので職員の方は誰もいない。同会飼育の種雄牛種雌牛を見せていただき浜坂町の市場に向った。本日の出場120頭昨日同様盛況であった。本日中視察の上帰途についた。今回の視察は色々学び得た事が多かった事を喜んでいる。

(S25.7.20 万輪田里生)