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巻頭言

要望一つ二つ

惣津 律士

 先般斯界の権威者を招いて自給飼料の講習会を開催したところが,予想外に聴講者が多くしかも熱心にノートをし質問している姿を見て何んとも言えない心強さを感じさせられた。畜産と飼料が恰も人間生活と食糧の関係と同じように大切な事は誰でも承知なくせに,従来とかく等閑に附せられて来た。日本在来の草木に対する知識が日本農民には比較的欠如し,その活用が解っていない事は残念である。日本の畜産が数多くの試練を経ながら漸く健実な歩みを踏み出したという感じがこの講習会に見られた事はうれしいが,もっともっと農家へ浸透しなければならない。
 とかく講習会とか講話会ではその場限りのものが多く受ける側でも,受講後さらに掘り下げて研究しようという熱意に乏しい,限られた短かい時間ではヒントを得るに止まることが多いが,そのよいヒントを生かして延ばす努力が必要である。そのためにはそれに対する真剣なる研究心とねばり強さが必要である。根気よくつきとめて自分のものにする事が何より大切である。昆虫の大家ファーブルが何日も何日もじっと虫を見つめてその生態をつきとめた話はあまりに有名である。畜産は一朝一夕でものにすることは出来ない。何代もかかって実をむすぶものである。景気のよい時は盛んになり,悪い時は衰える畜産では問題にならない。共進会も目前にせまり,本年の畜産の姿を世の批判にあおぐ秋が来た。我々は堅実な畜産に一歩一歩と進めたいものである。
 地方税の改正が意外におくれたために,県の追加更正予算も9月の終りでないと決定しない模様である。畜産の様相もこの春とはよほど趣を異にして来て居る.随ってこれに対処すべく予算の内容も変化しなければならないが何んといっても財源難の時代では思うにまかせぬ実情である。いかによい構想でも財政的裏付がなければ一作文にすぎなくなる,我々は今こそ畜産を進展させねばならないならば,畜産人は大乗的見地より与えるものはこころよく与えて,万全の施策を要望すべきが本県畜産の将来を想う本当の姿ではなかろうか。各位の良心ある御援助を切望するものである。