ホーム>岡山畜産便り>復刻版 岡山畜産便り昭和25年9月号 > 牧草並びに自給飼料について |
出席者 | 三井計夫(農林省関東東山農業試験場農業経営部長) |
倉田益二郎(農林省林業試験場高島分場長) | |
川瀬 勇(川瀬牧草農業研究所長) | |
惣津律士(畜産課長) | |
蔵知 毅(畜産課技師) | |
日室 甫(畜産課技師) | |
その他(林務部,農業改良課,開拓課,畜産課係員) | |
農民(牧野及び自給飼料講習会聴集者200名) |
場所 岡山市上伊福 伊島小学校講堂
惣津畜産課長 私が本日の座談会の司会をつとめさせて頂きます。
本日お集りの聴講者の皆様には数多くの質問事項を,お待ちの事と思いますが時間の関係上,さきに取りまとめました質問事項により,日室技師より一括して3先生にお尋ねすることに致しますから御了承願います。では先ず最初に
日室技師 御承知の通り本県南部の児島湾におきましては,大規模な干拓事業が行なわれておりますが,この干拓地には草一本なく,堤防は丸裸の状態でありまして全く草の生えない現状であります。
夏季の晴天時に塩害の,おこることは自明の事実でありまして,かかる地帯における適当な草は如何なるものがありますか。
川瀬先生 私から御答え致します。
塩害に強い牧草ではオランダ,ニュージーランドにおいて用いられているライグラスがあり海岸地帯をうめている状態でありますが,日本にはない様です。現在私はこの牧草の導入を考えております。
クローバーの類ではストロベリー,クローバーがあり,このクローバーはホワイト,クローバーより小さいものです。
これは私の方から金光町(岡山県浅口郡)の堀さんの宅に送り堀さんが栽培しています。塩害に強くかかる草を試みるのも1つの方法であります。アシも強く若い頃刈取ると飼料となります。三井先生より強い草をおしらせ願うことに致します。
アカザも相当強い様です。
三井先生どうですか。
三井先生 野草では荳科のハマエンドウが強いようです。ススキに似る八丈ガヤ,これは八丈島で牛の飼料にしている様です。かかるものが塩害,干害に強いと思います。
倉田先生 塩風に強い樹木を海岸の畑作の防風林にする意味で伊豆半島にオオバヤシヤブシが栽培されています。このオオバヤシヤブシは塩害に強く又,家畜は好食し飼料価値も高いものです。児島郡で,ハマハンの木を試験しておりますが成績はよいようです。将来ハマハンの木を用いたらと思います。
川瀬先生 アスパラガス,カブラ等も強いようです。
惣津課長 豪州にあるソルト・ブッシュはどうですか。
川瀬先生 ソルト・ブッシュはアカザ属の植物であり乾草,エンシレージになされています。これと同様なものでオカヒジキ(アカザ科)があります。
惣津課長 有難うございました。次に
日室技師 河川敷において笹の密生地がありますが,この笹を刈取り火入れをしまして追播し,又飼料木を植えましたが2−3年で笹のため絶やされましたが,この笹の密生地に追播し飼料木を植えます場合,如何なるものを,如何なる方法でやればよいかお尋ね致します。
川瀬先生 一旦笹を除去しましても地中に根が残っており再生するわけであります。
放牧により二葉の頃,家畜に喰わせ,再生する場合には刈取り,火入,石灰の施用等で植生を保つ外に方法はありません。
牧草としてはホワイト・クローバー,レッド・クローバー,がよく又,オーチャードも可能であります。
三井先生 川瀬先生のお説の通りで春先過放牧し追播する方法しかありません。山地の笹地帯においても同様であります。
川瀬先生 笹の若い頃は養分も多く又,笹もこの頃は弱いものです。
三井先生 現在新しい除草剤が米国で作られております,W,C48で大体2−4Dの成分を15%程度含有しており,これに対して笹はよく枯れます。
日宅技師 高価なものですか。
三井先生 高価なもので未だ実用化の域に達しておりません,この他にW,B,C32と言う除草剤がありますがツツジ等灌木に効果があります。
日宅技師 1反歩当り如何程の経費になりますか又,購入が可能ですか。
三井先生 1反当り,1,500円程度で現在購入出来ません。
惣津課長 では次に移りまして,
倉田先生如何ですか。
倉田先生 方法については,畜産の研究誌1月号に書いておりますのでそれを御覧になって下さい。
結論を申しますと,冬の間に穂木を取りこれを地下1尺5寸の処に穴を掘って甘藷の貯蔵と同様に砂と穂木を交互に積み重ねて貯蔵します。
これを取り出してやせ土,(赤土がよろしい)にさせば百発百中です。素人にも容易に出来ます。
なおここで一寸,申上げたいのは英国トゲナシニセアカシヤは青島トゲナシニセアカシヤに比して葉の量が2倍もありますが(三井先生の試験結果)成長が遅い欠点をもっております。この欠点を補い葉の増収を図るため青島トゲナシニセアカシヤに英国トゲナシニセアカシヤ或はトゲのあるアカシヤに接木をするとよいと思います。
接木の方法は至極簡単で穂木を冬にとり地中に貯蔵しておきます。
これを台木の皮をはいで接木し穂先までろうをぬることであって,タール,ピッチ何れでもかまいません。
惣津課長 管理方法はどうですか。
倉田先生 放任してかまいませんが,余り痩地は不向きです。
挿木して発根すればこれを肥沃地に移した場合1年4尺位伸長します。
惣津課長
川瀬先生にお願いします。
川瀬先生 講習会において申上げました通り草地は大体,9段階に分類することが出来ます。この段階を踏んで追播して頂きたいと思います。
一番よいのは荳科のもので,撒播で結果がよろしい。しかしメドハギ,ヤハズソウは多少悪い様です。
少し土地がよければミヤコグサ,バーズフット・トリフォイル,ロータス,メヂュア等適当に撒播でうまく行きます。
金光町の堀さんの宅にサブタレニアン・クローバーを送っていますが,とても成績がよく,追播に強い牧草です。その他,ホワイト・クローバー,レッド・クローバー等あります。
禾本科のものを追播するときや荳科でも万全を期するにはレーキ,ハローを用いなければなりません。
相対的にいいまして追播によい草種は,ロータスの類,サブタレニアン・クローバーで一番良いのはホワイト・クローバーだろうと思います。
惣津課長 本県におきましては畦畔,堤防にレッド・クローバーを追播し草生の改良を実施しておりますが,傾斜地に追播する場合,注意しなければならない点を一つ。
川瀬先生 傾斜度が5−6度の処では種子の流失のおそれがあると,経験上思われますから移植するとよいと思います。
畦畔は地味が豊かでありますので,ホワイト・クローバー,チモシー,オーチャード,カモジグサ等が適当でこの場合も移植すると成績がよいと思います。
畦畔は経営面積の10分の1にも達しますので山形県では緬羊を畦畔,堤防の草で飼養しております。
畦畔,堤防は人の目にのつき易く,草生改良の最も実行し易い処だと思います。
惣津課長 どうも有難うございました。では次に
川瀬先生 三井先生が詳細の資料を,お持ちになっておいでですが,何れにしろ日本では雨が多く土壌が酸性になりやすく2−3年目に石灰を20〆(反当)位施用しなければなりません。石灰を施用して硫安を反当数〆施用するとよろしい。施肥時期は春早くが適期です。
この場合,荳科には硫安を施用せず燐酸,加里,石灰が必要で秋過燐酸石灰反当3−5〆施用するとよろしいがこれが出来なければ下肥を薄めて与えてやります。下肥には燐酸,加里,石灰を含有しております。なおよく腐熟した厩堆肥を冬の間に施用しますと成績がよろしい。
牧草地における肥料施用の成績は三井先生如何ですか。
三井先生 川瀬先生のいわれた通りで禾本科のものには窒素,荳科には燐酸,加里分を施用しなければなりません。日本の草地は酸性土壌が多く荳科の牧野草に乏しいので石灰,燐酸,加里分を施用し極力荳科が禾本科に混じる割合を多くしなければなりません。
採草地に肥料を与えますと1回刈取が2回にも可能となりますが詳細については明日の講習会でお話し致します。
川瀬先生 草地には石灰と下肥を施用することです。
惣津課長 明日お話して頂くことと思いますが三井先生,牧野と火入れの関係という質問があるのですが。
三井先生 本県では火入れをやっているのですか。
日室技師 昔は盛んにやっていた様ですが現在は余りやっておりません。
火入れと外部寄生虫との関係についてお話し願います。
三井先生 火入れは昔は盛んにやったものです。火入れをやると草生が悪くなります。特に有機質の少ない火山灰土で夏季雨の少ない地方においてこれを続けますと,草生が極度に悪くなります。外国にも火入れをする例がありますがこれは森林地を伐採し,採草地にする場合でありまして既に草地になった処では火入れはやりません。
日本では寄生虫,雑灌木駆除のため火入れをやりますが,連年火入すると土地は痩せワラビ等が生えて来ます。外部寄生虫が駆除出来るといいますがしかしダニ,アブの生活史を調べてみますと火入の時期にはダニ等は地中にもぐっており決して駆除出来ません。
九州の阿蘇山麓では火入を年中行事の様にやっております。現在熊本県がその試験をしていますので近く結果が判明すると思います。熊本では夏の雨が多くて火入の害が差程みられませんが要するに火入はやらぬ方がよいと思います。
惣津課長 ダニの対策に何かありますか。
三井先生 ありません。
惣津課長 ワラビの対策について
三井先生 世界各国でワラビに悩まされその対策を研究している様ですが適確な駆除法はありません。文献によれば7月末ごろ,ワラビの根の貯蔵澱粉が少ないからこのとき刈取り胞子の飛散を防ぎ弱体化せしめ又他の草の繁茂により防除します。
日室技師 ワラビは酸性の火山灰土に多い様でありますが石灰を施用し土壌を中和すれば弱るのということは事実でありますか。
三井先生 他の草が繁茂するのでワラビは弱まります。
日室技師 その他良策はありませんか。
三井先生 火入か刈取りです。
川瀬先生 庇蔭樹を植えますと他の草が繁茂しワラビが抑えられますか。
三井先生 そうです。
惣津課長 では次に
三井先生 明日の話が出ますが,鬱閉度とは樹冠の垂直投影図を画きこの面積が全面積に対する割合で大体30%のときが最もよいようです。
これは関東地方の試験ではありますが,当地方の様に暑く水分の蒸発の多い処では今少し鬱閉度を多くすることが好ましいのではないかと思います。
要するに気候,土地により加減しなければなりません。
又樹木によっても異なります。例えばネムの木等の光線を余り通さぬものとは同一面積における本数が異なるわけです。
日室技師 ネムの木を庇蔭樹として用いますと下草に「スス」様のものが付着し又下草がなくなるという地方がありますが,どういうわけでしょうか。
三井先生 聞いたことがありません。ネムの木が庇蔭樹として最適なものでありますが。
日室技師 これは御津郡円城村にあったことでありまして円城村の方詳細御説明願います。
円城村農民 大きなネムの木の下にコナラ,ササ等が生えておりますがこれ等の葉の表面に「スス」様のものが出来芽も出なくなります。
三井先生 実地をみないとどうも御答え致しかねますので一つ倉田先生に御調査をお願い致します。
倉田先生 承知致しました。
川上郡農民 私も経験しております。
三井先生 ネムの木の反当本数はどの位ですか。
川上郡農民 3年目に下草を刈取りますが,ネムの木が3年目位になりますと地面を,覆てしまってくもの巣様のものがネムの木に付着し葉が全くなくなります。
倉田先生 ネムの木につきましては調査致しますから供試材料を送付して下さい。
三井先生 反当本数のこみすぎかもしれません。大体,反当15−16本が適当で枝は上の方で横に拡げさせるのです。
川上郡農民 枝は地上2−5寸の処から出ています。
三井先生 全く特例でありまして,この為にネムの木の栽植が少なくなることは憂慮すべきであります。
惣津先生 では倉田先生にお調べを願うことに致しまして次に。
川瀬先生,如何ですか。
川瀬先生 先ずススキを導入し次にヤハズソウ,メドハギを入れます。ネコハギもよいと思います。
三井先生 カハラケツメイもよいと思います。
惣津課長 本県におきましては北部にあります蒜山原野の開発問題が起り,この開拓計画が種々論議されておりますがかかる地帯によい草種は如何なるものがありますか。
川瀬先生 ススキが主に生えておりませんか。
惣津課長 そうです。
川瀬先生 メドハギ,ヤハズソウを入れますと飼料的価値は2倍に増加します。トダシバ等も入れるべきであります。
この問題は重要視すべきでありまして大いに研究しなければなりません。
惣津課長 有難うございました。
惣津課長 皆様よりお取りまとめしました質問事項は以上でありましたが時間も今少しありますので個人質問に致したいと思います。
阿哲郡開拓農民
川瀬先生 野草地は牧草地にすべきでありますがその土地の環境が牧草に適するか否かを考え,急速な手段を選ぶことは困難で徐々に行うべきであります。
阿哲郡開拓農民 現在土地を耕やして牧草地を作り或は野草地に移植して好成績をあげております。
川瀬先生 野草地では移植すると3−5倍,耕作すれば8倍以上の成績があります。耕作するだけの労力があれば,お説の通り飼料作物地とするが有利であり牧草地が野草地より得策でありますが,私のいっておりますのは追播技術の問題で少い経費で如何にやっていくかであります。
御津郡円城村農民 私の地方では
のお考えを。
三井先生 荒廃した土地にお作りですか。
円城村農民 そうです。
三井先生 茎葉と芋を利用しますが芋には2種類ありまして白色と紫色であります。
白色がよいと思います。
茎葉を利用する場合には2尺程伸びたとき刈取りますと芋の収量に影響することがなく2−3回の刈取が考えられます。
クズとのとの組合せを行い蛋白質の増加を図ることは面白いことと思います。
川瀬先生 私の処では梅雨の前後に4尺位に伸びたころ,1尺−1尺5寸程残して刈取りその後9月に2回目の刈取をします。エンシレージにしますと糖分を含んでおりますからよいものが出来ます。
三井先生 芋の形成時期が遅いので1葉の刈取による影響は少ない様です。
小田郡農民
川瀬先生 この秋,畜産の研究誌に発表の予定でありますが,甘藷の場合900−1,000〆以上の収穫があれば牧草より有利でありますが,600〆位では藷,茎葉のカロリー計算では玉蜀黍,大豆,大根がよいと思います。しかしこれにも限界があり土壌が適している処でなければなりません。
日室技師
川瀬先生 はっきりと申上げられませんが,玉蜀黍とヒマワリのエンシレージでは玉蜀黍のエンシレージを好み営養価値も高いと思います。
キクイモも糖分を含有していますからエンシレージとしても良いものになると思います。
三井先生 ヒマワリ,キクイモ,何れも生よりかエンシレージとした方が嗜好性が増すというのが常識であります。
川瀬先生 菊芋は糖分を3%程度含有しております。
久米郡農民 川瀬先生にお尋ね致します。
川瀬先生 地下水位により拘泥されます。ルーサンは水位の低い処でないと成育しません。アルサイク・クローバーは高くても構いません。
次に果樹園の下草としては,ヴエッチ,オーチャード,クリムソン・クローバー,ローダスの類,ミヤコ草など,サブタレニアン・クローバー,ウッド・メドウ・グラスで,レッド・クローバーも相当よいと思います。ルーサンも日当りの良い処ではよい様です,ネコハギの下草も面白く岐阜県では葡萄園の下にレッド・クローバーを栽培しております。
3番目の御質問ですが私は厩肥を反当700−800〆―1,200〆を冬の間に施用―後は下肥(牛尿5倍に稀釈)を数100〆施肥します。
赤磐郡農民 私の地方に吉井川がありましてこの
川瀬先生 レッド・クローバー,カモジグサ,オーチャードがよいと思います。
三井先生 荳科のみにしますと崩壊しやすいから豆科30%,禾本科70%位の割合にすればよいと思います。
久米郡農民
川瀬先生 松杉の下は露のために根瘤菌が殺されますので豆科のものは困難です。
コマツナギは強いと思います。
三井先生 肥飼料木により土地を肥沃にしなければなりません。
勝田郡農民
川瀬先生 9月頃播種します。カモジグサは永年草でありまして7月頃枯れた様になりますが8月頃から青くなり冬の間青く生育します,播種した場合発芽力は旺盛です。株分も行います。
上房郡農民
川瀬先生 小規模の場合は移植をやり,大規模では追播をしますが移植の場合が確実性があります。
久米郡農民
川瀬先生 ルーピンには毒素が含まれていますが私が緬羊で実験しました処によりますと他の食物があれば本草は食べませんが他の食物がないと食べます。
毒素の含有量は青花ルーピンに多いようで黄,白花のルーピンには少ないようです。しかし土壌その他の条件で毒素の量にも差があり,白,黄花ルーピン何れも多給しない方がよいと思います。
なおスイート・ルーピンと言って全く毒成分のないルーピンもあります。
赤磐郡農民
川瀬先生 ルーサン,スイート・クローバーがあります。
三井先生 夏から秋にかけては萩など,如何でしょうか。
倉田先生 アカシヤは3月中に開花し蜜源になると思います。
真庭郡農民
川瀬先生 玉蜀黍は弱いけれどもヒマワリは強いようです。
飼料用カボチャ,カブラ,ライ麦,キク芋,ザートヴィッケン等強いと思います。
惣津課長 時間になりましたので,皆様にはまだまだ沢山の御質問があると思いますがこのへんで終了したいと思います。
3先生に厚く御礼申上げます。