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有畜養蚕経営

蚕糸課 武藤良一

 農業経営において有畜は不可欠の要件であるが唯漫然として畜産を加味すれば可なりとするが如きは是正しなければならない。有畜経営は飼料の自給化によって成立つものである。最近耕種農業の外に養蚕と畜産の有機的経営の必要性が大きく採り上げられつつある所以である。即ち蚕糞沙の飼料化,或は桑園に牧草を間混作することによる飼料の自給と,家畜糞尿の増産,畜力利用による農耕労力の節減等と共に不離一体の循環経営こそ今後の飼料の自給状況を見るに,大体粗飼料である蚕糞沙が多いから牛,羊の飼育が行われるのが普通であるが,更に桑園の高度利用の面(間混作)から考える場合は濃厚飼料の自給が可能とされ豚,鶏等の飼育も経営の中に織込んで経営を一層多様化し有利にする事が可能である。

一.家畜飼料作物の桑園間混作

 桑園の畦間に家畜飼料を間作して自給化をはかり桑園の高度利用を行うことは有畜養蚕経営中最も意義ある問題で,唯蚕児飼育の残滓物(蚕沙)のみを利用し家畜を飼育する場合は結極購入飼料の増加を来し前述の飼料自給化による有畜養蚕経営の意に添わない事になる,故に飼料作物を栽培し飼料を自給し下の通り間混作により家畜飼料が自給出来てその上桑葉収量は普通桑園に比べて大差がない成績(山梨県蚕桑試験場)が得られている。

種   別 播種期 収穫期 反当収量 用  法 給与動物 畦間播種条数
6尺畦 9尺畦 12尺畦
大麦 10月下旬 6月中旬 35.6貫 子実 牛,鶏 1条 3条 5条
小麦 10月下旬 6月下旬 28.4   〃 1 3 5
玉蜀黍 4月中旬5月上旬 9月上旬10月中旬 25.7   〃 2 3
馬鈴薯 3月上旬 6月下旬 226 塊根 豚,牛 1 3 5
ザートウイツケン 10月中旬 5月中旬 530 青刈 緬,山羊,牛 1 2 3
カキ菜 9月下旬 3月下旬6月 380 緑餌,茎葉 2 3 5
春菜 9月下旬 3−4月 350   〃 2 3 5
秋大根 8月下旬 12月上旬 550 茎葉根 鶏,豚,牛 2 4 6
青刈燕麦 10月下旬 5月中旬 570 青刈 緬山羊,牛,豚 2 3 5
青刈大豆 5月中旬 7月上旬 290 日乾 2 3 5
青刈玉蜀黍 4月中旬5月下旬 8月上旬9月中旬 580 青刈 1 2 3

二.各家畜の飼料自給関係

(一)蚕糞沙の飼料化

(イ)生産量

 桑葉反当400貫とすれば掃立卵量40gとなりこの飼育によって生産される蚕糞沙は大体240貫で家畜より生産される厩肥を桑園に還元し,桑園経営の有機化と共に高度化利用を図るべきである。桑園の畦間は間混すべき飼料作物の種類により一定しないが,概ね根刈仕立にあっては6尺−9尺,高刈仕立は9−12尺株間2,5−3尺の寄畦形式が最も適当である。
 間作物の種類と収量その他下表の通りこれを日乾すると80貫となり,エンシレージにすれば170貫の飼料が得られる。

(ロ)蚕糞沙の飼料的価値

大麦 大豆粕 米糠 蚕沙
澱粉価 78 74.9 68.5 48.1 38.5
大麦に換算(指数) 100 96 88 62 50

 即ち蚕糞沙の飼料的価値(澱粉価)は大麦の1/2であって麩と大差がないのである。乾蚕沙10貫は大麦5貫(1斗9升)に比敵するが故に桑園1反より得られる乾蚕沙80貫はこれを大麦に換算すれば1石5斗2升(40貫見積価格約6,000円)に相当する。
(ハ)反当生産蚕沙による動物別飼育日数,麩の代用として乾蚕沙を緬羊,山羊に給与する場合緬羊8ヶ月,山羊1ヵ年,牛は3ヶ月,豚では根菜類の代用としてエンシレージを給与すれば40−50日程度の飼育が可能である。

三.桑園間作物の飼料化

 桑園の畦間に家畜飼料を間作する場合一定の間作様式を立案しなければならない,それは経営内に織り込まれる家畜の種類によって決定されるもので,今一例をあげると
 牛,羊用には,「青刈玉蜀黍−青刈燕麦」。「大麦−青刈大豆」。「青刈大豆−ヘアリーベッチ,ザートウィッケン」。「カウピー−ヘアリーベッチ,ザートウィッケン(大小麦)」。豚には「馬鈴薯−20日大根−秋大根」。「青刈大豆−ヘアリーベッチ,ザートウィッケン」。
 鶏用には,「小麦−20日大根−秋菜カキ菜」。「春菜−大小麦」。「玉蜀黍−大小麦」。
(備考)以上の様式中青刈大豆,ヘアリーベッチ,ザートウィッケンの如き荳科植物は乾草とし,その他青刈類はサイロに積込みエンシレージとする。この場合蚕糞沙を混積すると乳酸醗酵が良い。以上の様式を以って桑園に家畜飼料を間作した生産物から家畜の飼育日数を計算すると牛30日,緬羊45日,山羊50日,豚30日,鶏(10羽)50日の他に冬期の緑肥飼料を自給出来る。左の飼育日数は下表の農林省畜産試験場の家畜飼料消費量表に基づき算出した。

乾  草 荳科植物 穀  類 油粕類 魚  粕 蚕  沙フスマ 根菜類
9,000匁 - 匁 400匁 - 匁 - 匁 400匁 - 匁
420 1,000 100 100 1,100
緬羊 1,000 300 200
山羊 500 300 200
成鶏(10羽) 40 570 240 250 100

四.桑園の残桑の飼料化

 以上の外秋季落葉直前の残桑が反当40−50貫得られ之を採取して飼料に供用出来る。以上の蚕糞沙,桑園間作,桑園残桑を利用する事により緬羊は約10ヶ月,山羊は1ヵ年,牛4−5ヶ月,豚は2−3ヶ月,鶏(10羽)は4−5ヶ月の飼育が可能である。
五.蚕沙間作飼料等の給与により得られる厩肥の生産量肥料成分

動物名 養蚕よりの自給飼料給与期間 厩肥生産量 同左の含有肥料成分 同左と化学肥料相当量
硫 安 過 石 塩 加
4 月 600貫 2,580匁 780匁 2,220匁 12,900匁 4,680匁 3,550匁
10 月 200 680 320 800 3,400 1,920 600
山羊 12 月 200 680 320 800 3,400 1,920 1,280
3 月 156 1,076 475 468 5,380 2,800 736
鶏(10羽) 5 月 20 360 580 170 1,800 3,480 272

有畜蚕経営と労力関係

 自家労力の合理的活用と連用とは1年を通じ各種各様の仕事の繁閑なく過不足なく最大の能率を発揮し経営全体を有利に導くことを目標として計画されなければならない。労力関係は各環境により差異があり一概には言えないが基準的なものは大体次の通りである。

(一)桑園労力
 反当1ヵ年所要労力は大体15人程度であるが畜力を利用すれば下表の通り節減出来て6.6人でたりる。

作業別 人力を100とする指数 備          考
冬期耕耘 525 畦の中央に溝を掘り堆肥を入れ覆土す中耕5回通過
夏期耕耘 400 株際に土を寄せる。2回通過
中耕除草 625 中耕2回通過
緑肥土寄 417    〃
肥料運搬 196 駄載に依る

 家畜飼料を畦間に間作する場合は間作物の管理の際除草中耕等主な作業が兼ねて行われるから労力はその割合に増加しない,大体26人程度で充分である。

(二)養蚕労力
 反当収繭20貫とすれば30−35人程度を要する。

(三)各家畜の飼育労力
 各家畜の管理(草刈飼育,厩肥取出し)に要する労力

69.6人
16.5
緬羊 23.6
山羊 30.5
鶏(10羽) 17.3

 上の通りであるが乾蚕沙又はエンシレージの使用により上の労力は相当節減し得られる。
 以上を総合すれば桑園1反歩より乾蚕沙80貫を得られ澱粉価換算により大麦1石5斗2升(約6,000キロ)に相当しこれをもって家畜を飼う場合緬羊8ヶ月,山羊1ヵ年,牛3ヶ月,豚1,5ヶ月,の飼料となり,尚桑園間作飼料及び残桑を加えれば緬羊10ヶ月,山羊14ヶ月,牛5ヶ月,豚3ヶ月,鶏(10羽)5ヶ月の飼料が自給出来るばかりでなく家畜管理の労力(草刈・調製)を節減することが出来る。なお家畜飼育により桑園労力は無家畜の場合の約4割の労力で充分であり,且家畜糞尿(厩肥)の増産増施は勢い桑園能率の増進となり,養蚕収益の増大と家畜自給飼料の増加となり両々相伴って農家経済の向上に資することが出来るのであって有畜養蚕の循環経営こそ今後農家のありかたでなければならないと信ずる次第である。