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輸出カナリヤについて

都窪郡加茂村 藤井順一郎

 本志6月号で「カナリヤの今昔と飼育について」と題し駄文を記述したのでありますが,その後の研究と新読者の御希望もあり,相変らずの拙稿ながら再び記述することと致しました。聊かたりとも初心者諸賢の御参考となれば幸甚とするところであります。
 先ずカナリヤとは如何なる鳥か,参考書から拾って見ると,鳥類学の部門では燕雀目の雀科に属し,形態はほぼ雀位の大きさで,嘴は円錐形をなして,羽毛は普通黄色であり,羽毛の美と転鳴の美声とによって愛せられる小鳥であります。我が国室町時代の頃既にヨーロッパ諸国に於いては,籠鳥として盛んに飼養せられ原産とは著しく羽毛色の異るものを生ずるに至り,その後我が国にも輸入されて広く飼養愛翫せられるに至ったものであると云われています。カナリヤの原産地は,北大西洋にある群島で,スペイン領に属し7つの主な島と多くの小島とからなる,カナリヤ諸島でありまして,カナリヤ鳥の名の起りはこの島の名がそのまま名づけられたものとされています。

 カナリヤ飼育発達。

 カナリヤは今から500数十年前ヨーロッパに輸入されて以来,各地に於て盛んに飼養されるに至り,幾多の品種が作り出され,今日見るような多数の優良品種が生み出されたものであり,尚将来一層の進歩発達を遂げて,優良品の傑出に期待せられる大なるものがあるでありましょう。
 我が国へカナリヤが輸入されたのも非常に古くされたものらしく,当時は雄のみが輸入されたために繁殖が出来なかったようでありますが,天明年間今より170年前に雌雄が長崎に輸入されるに至り,巣引したのを始めとして漸次に国内に拡まったものであると言われています。

 カナリヤの品種。

 現今我が国に飼養されているカナリヤの品種は,鳴,色ローラーカナリヤ,巻毛,細及び普カナリヤ等であり,その中最も多いのが色ローラーカナリヤ中のオレンジで,羽毛の美と鳴きは輸出鳥として最適のものでありましょう。

 アメリカに於ける需要状況。

 アメリカ人はカナリヤを愛好する国民であって,戦前は主としてその主産地であった,ドイツ方面から年々80万羽以上が輸入されていたもので,カナリヤ船が着港するや全国の業者が押しかけ忽ちにして売買取引が成立すると言う盛況振りを,長年輸送に従事していた老船員が筆者に語っていたことを記憶しています。当時我が国からも年々数万羽が輸出されていたのでありますが,昭和16年日米の国交が断絶したため輸出中止となったのであります。

 輸出の再開。

 戦前の主産地であったドイツ本土は一時戦場の巷と化した結果,カナリヤの減少はむしろ絶滅に近いものであり,殊に敗戦後その主産地は鉄のカーテン内に鎖されているのであります。長期に亘る戦争中1羽の鳥も輸入出来なかった,アメリカは全く喉から手の出ると言う状態で,終戦後僅か3年可憐なカナリヤを我が国へ需め来り,待望の輸出は再び開始されたのであります。
 輸出再開以来の羽数と価額を述べて見ると,昭和23年度は僅かに1,500羽で1羽2ドル40セント,24年度は約8,000羽,1羽3ドル30セント更に2月に入り300羽,1羽4ドル10セントでありました。尚本年度は35,000乃至50,000羽と推定されるが,未だ需要の20分の1にも達せない実情であって前途は実に洋々たるものであります。又一面我が優秀なるカナリヤは近き将来世界市場に進出するものと期待されているのであります。
 我が岡山県は古くより全国屈指のカナリヤ生産地として知られており気候風土がその蕃殖に適していて自然的飼育による鳥の健康と鳴方はアメリカの最も好むところなのであります。最近新進飼鳥家の増加は目覚しいものがあり,巣引成績に於いても見るべきものの多々あることは悦ばしいことであり,力強き限りでありまして,今後も一層当局の御指導を得て研究会等も開催し益々優秀品の増産に努力すると共に,バイヤーの県内誘致にも努め一致団結し健全な輸出産業として育成させたいと念願するものであります。
 下に筆者10余年間研究に依る飼育法を列記し初心者の御参考に供します。この飼育法によれば多年の経験上,1雌平均7羽乃至10羽の成績は挙げ得られるのであります。一番の種禽にて20羽以上30羽の雛を得たと言う向きもありますが,これは極く稀れで宝くじに於ける100万円の夢と解すべきであります。尚よく質問されることでありますが,副業として10箱乃至20箱の飼育であれば朝1,2時間の管理にて出来るのであります。

飼育法

一.飼育箱の構造と附属品

 飼育箱の大きさは前後を1尺3,4寸奥行及び高さは1尺4,5寸位のものが最も手頃である。前面を金網張りとし,その向って右側下部に附属品の自由に出し入れ出きる縦4寸5分横4寸位の上下開閉式の戸口を作り,底には深さ3寸位の抽斗を附ける。又箱の前面金網の部分へは障子を嵌め込む仕組にして蚊の侵入と寒気を防ぐ。亦箱の中央奥板に着けて巾3寸5分位の巣棚を作って置く。
 附属品は餌入,水浴兼飲水器,菜差し,ボレー入れ,巣鉢又は藁巣及び1箱に2本宛の泊木が必要である。
 なお金網は荒目のものを用いると蛇が侵入するから2分か2分5厘の角目のものがよく,泊木はウツ木,ニワトコ等を用いると足を痛めず又糞虫の発見に便利である。

二.種禽の選択

 種禽はなるべく体格,毛並共によい健康鳥で,雄はよく鳴き挙動活発なもの,雌は落付きのあるもので下腹部の毛を吹いて見て腹部の縦横共に広きものがよい。(大卵を産み雛も大きくよく育つ)止むなく体格小さき,よれ毛の鳥を使用する場合は,有覆輪(毛並体格共によく毛先の白い鳥)と交配すること,尚種禽は輸出の将来を考え毛色の美しい橙,黄又はこれらの派手な斑を選ぶこと,又種禽の入手は成るべく早目に行い,飼育場と管理に馴せることが肝要で,巣引成績に影響することが多いので遅くとも2月中に求め3月以後の購入は危険と思う。

三.飼料の配合と給餌法

 飼料を粗飼料,普通飼料,濃厚飼料,副飼料とに区別する。

 1.粗飼料 粟,黍,稗のみとし10,11月頃完全換羽後から翌春入巣予定日の3,40日前までこれを与えると脂肪過多とならず発情産卵が順調となる。
 2.普通飼料 粟,黍,稗等8割菜種,荏胡麻2割とし入巣予定日の3,40日前粗飼料と替え約20日間与え,又抱卵中も与える。
 3.濃厚飼料 粟,黍,稗等6割,菜種,荏胡麻4割とし,入巣予定日の10日前位から産卵終了まで又雛の孵化の日より離雛,更に次回の産卵終了日まで与え以後同様に繰り返し給与する。なお親を離した雛にも本毛に換わるまでこれを与える。但し稗はなくても良い。
 4.副飼料 青菜,ボレイ,腐蝕土,木炭末,鶏卵等である。青菜は消化を助けると共に色素の作用により毛色をよくするから色素の多い大根葉,体菜,キャベツの青葉,龍舌菜等が最もよく年中与えなければならない。
 ボレイ(カキ殻の細いもの)は消化を助け骨格を作り又卵殻となり,木炭末消化と糞の調節をする。腐蝕土はアルカリ性分を吸収して骨格を丈夫にするものであるから常に切らさぬように与えて置くことが必要である。
 次に鶏卵は動物質飼料として発情,産卵を促すとともに,育雛中絶対必要である。その給餌方法はゆで卵を皮ごと切るか裏越しにかけ白味,黄味共に与える。量は入巣日より産卵終了日まで16分の1乃至12分の1位で(抱卵中は不要)雛の孵化翌日より10分の1位与え成長するに従って増量給餌する。又親を離した雛も尾羽の充分伸びるまで与えると毛並及び体格がよくなる。なお卵は早朝与え前日の残りが有れば取り棄てる。

四.交配

 交配には単式と複式がある。

 1.単式とは巣引中雌雄同居させる方法である。この方法で巣引きする場合雄の性質のよいものは雌雄共に雛に餌を運び,しかも育雛中次の産卵をなし,雛は雄が育て,雌は抱卵するので育雛回数多く,年間20羽以上の雛を得ることもできるがこれは極く稀れである。カナリヤの雄には種々の悪癖がある。例えば巣を毀すもの,卵を毀すもの,抱卵中の雌に交尾したり追い廻すもの又は雛を傷付け,巣から喰え出すもの等であり危険率が多いのである。

 2.複式とは1雄にて2雌又は3雌に次々に交配するもので,その方法は発情早き雌を選びこれと交配し3個以上産卵するのを待って雄を取り出し次の雌に交配するものである。従って唯一羽で育雛するので孵化後暫くは発育が遅れるものも,見受けられるが次の発情が遅れるため離雛期まで充分餌を与え大部分の雛が大型鳥となり,又離雛後雄を配し母体が回復して産卵するので次回以後も充実した雛が生れ発育もよい。私は10余年間2様の研究を試みた結果,後者を是として実行し初心の人々にも勧めている。なおこの方法に依れば少数の雄を飼養することになるので経済的であり,又余分の雄は輸出に振り向け外貨獲得が出来る訳である。

五.入巣の時期と巣の作り方

 入巣の時期は温暖地と寒冷地とでは非常な差があり,飼育場の寒暖又は設備に依っても異なる訳で,温度は45度を最低限度とし,2月中旬より4月上旬までの間その場所の温度を見て定むべきで,決して急がぬことが肝要である。
 巣は巣鉢でも藁巣でもよく,巣鉢を使用する場合は古叺を適当に丸く切り,鉢の中に敷きその上に太い縄を動かないように丸く嵌め込み巣棚を乗せて置く。藁巣の場合は棚板に丸い穴を開けて動かぬように嵌込む。そしてしゅろうをよくほぐし2寸5分位に切ったものか,藁芥を軟らかくしたものを適当に箱内に入れてやると営巣を始める。なお寒冷期の営巣には綿を少し混ぜてやるとよい。

六.産卵と抱卵中の管理

 営巣が終れば産卵を始める。(稀には遅れるものもある。)産卵は朝6,7時頃であるから,予め擬卵を作って置き,毎朝これと取り替え全部産卵した朝抱卵さすのがよく,産み流しにして置くと雛が揃わないので,小さいものはへい死することが多い。又抱卵後5,6日経過すると有精卵か無精卵かがわかるので,電燈又は日光に透して検卵し,明るいものは無精卵であるから取り出す。若し無精卵多き場合は全部取り出して,更に交配産卵させる。

七.孵化後の管理

 入卵の日から14日目に孵化する。孵化後1昼夜は腹中の卵黄が消化し,消化器が健全に整う期間であるから餌を与えない方がよい。

 1.餌付け 孵化の翌早朝ゆで卵,青菜,濃厚飼料を与える。殆んどの母鳥は1度自分のそ袋に入れ消化液を混じて雛に与えるのであるが,稀には哺育することを知らない鳥もいるから,念のため給餌後1,2時間経過して巣を取出し雛のそ袋を調べて見る。若し全部の雛に餌の入っていない時は,早速青菜と卵黄をよく摺って,小筆の先で少しずつ差餌してやる。回数は1日7,8回で1日か2日与えていると,親が与えるようになるものであるからその後は親任せにして置けばよい。

 2.リングの嵌め入れ ローラーカナリヤにはリングを嵌めなければならない。その時期は発育状態に依り多少相違するが孵化後,7,8日頃がよく,早過ぎると脱落し,遅いと嵌込み困難となる。方法は右手に雛を持ち前指3本を揃えて嵌め,右手指先で雛の指を軽く握り,左手指先でやさしく嵌め込み肘の近くまで入れて,後指を戻すのである。

 3.巣の取り替え 孵化後13,4日経つと脱糞量が増え巣が汚れるから,別に巣を作り入替えてやると気持ちよく,寄生虫の予防ともなる。なお7月以後は暑さのため雛がよく蒸せてへい死するから,周囲から空気の流通する藁の粗巣を作り孵化直後それに移してやると元気に育つ。

 4.巣立及び離雛 孵化後20日前後で巣立ちする。全部の雛が巣立したら,直ちに巣を取り出して母鳥の発育を抑えなければ雛の発育が悪くなる。それでも発情して雛の羽毛を抜くようであったら,綿を丸めて泊木へ固くしばり附けてやるとよい。離雛前に交配産卵させる向きもあるが,概して雛は栄養不良となり次の腹も不成績に終ることが多いから必ず離雛後入巣,交配産卵させる。若し産卵するようであったら1回分棄てるのである離雛期は発育状況により一定しないが孵化後25日乃至30日位で,餌を自から喰べるのを見てから離雛し,決して急いではならない。

八.病虫害の予防と手当

 カナリヤは管理に注意さえすれば非常に健康な鳥であるが,万一病気した場合は,早期発見し手当をせねば小さいものであるから回復が困難である。

 1.脂肪過多症 下腹がふくれ元気なく眼が細くなる。この症状になると産卵しない,原因は濃厚飼料の与え過ぎである。療法としては粟又は稗を多給し,青菜,ボレイを切らさぬようにし日光浴をさせる。

 2.胃腸障害 羽根を下げ頭をすくめ,泊木に休んだ侭動かず,尾を汚しているもの,又は羽根をふくらせ常に餌をあさりながら著しく肉が落ち,糞が軟らかく尾を汚しているものは胃腸障害である。手当としては早期なれば鶏卵とカナリヤ・シイドを与えると回復するが,可成り重症のものはヒマシ油を筆にしまして2,3滴飲ませるとよい。

 3.風邪 夕方まで元気でいた鳥が,翌朝羽毛とふくらせ首をすくめて,呼吸が荒くなっているのは風邪である。予防としては寒風に当てないことであり,温暖の場所から寒い所へ移転する時など注意しなければならない。手当としては少量の人参湯又は清酒を2,3滴飲ませ風の当らない所で温めてやる。

 4.卵つまり 巣を作った鳥が朝目をつむり羽毛をふくらせ苦しんでいるのは卵つまりである。原因は青菜,ボレイの欠乏した時又は2つ卵の場合である。手当としてはヒマシ油を飲ませ,肛門へ油を塗ってやると産卵する。予防としては産卵時には特に青菜,ボレイを多給する。

 5.寄生虫の予防 糞虫と言って昼間は箱の接目や泊木の穴に隠れていて夜間出て吸血する虫でこれが発生すると雛は衰弱して育たず親鳥まで落命することがあり,飼鳥家として一番恐れられているものである。これを発見するには泊木の穴を手のひらへ打って見ると,すぐ判る。予防としては良質のアース等の殺虫剤を3月初めより5日置き位夕方室一体へ噴霧すれば発生しない。

 6.蚊害 カナリヤは他鳥に比し足の弱い鳥で,蚊に咬まれると熱を持ち爪や指が落ちることがあるから,夕方蚊の出ない内に障子を嵌める。若し咬まれた時はヨードチンキ,赤チンキ又はオークワン等を塗ってやると落指しない。

 なお足に糞の固着することが,よくあるのでこれを放任して置くと落指するから,ぬるま湯で洗い落してやることが肝要である。爪や指の落ちたものを爪傷と言って自家種禽に使う場合は差支えはないが,処分する場合は安価であり,輸出には取らぬことになっているから充分注意すべきである。