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飼料作物の冬作の設計

冬作飼料作物の意義

 我が国農家の家畜に対する大きな欠点は冬の飼料を用意しないことで,冬は稲藁があるからこれで飼育すれば良いと考えている農家が多いが,これは決して好ましい家畜飼養ではなく,冬期の飼料として,乾草,サイレージ,青刈作物は是非とも用意しなければならないものである。処でこの各飼料を栄養価値的にみると前2者は青刈作物に劣るのである。
 即ち齊藤道夫博士によると,ヴィタミン含量において乾草は日光で乾燥するためカロチンの1/2−9/10まで破壊されるため,ヴィタミンAの損失が,サイレージにあっては,乳酸醗酵の結果ヴィタミンB1の損失が認められる。又養分の点でも乾草では蛋白質が少なく,澱粉価の低いものが出来易く,サイレージでは総養分の10−20%の損失があると言われる。
 又,カルシウムが青刈飼料に多量に含まれ,アマイド含量も20%以上である。妊畜や幼畜にヴィタミンの補給は極めて必要で乳牛においてはヴィタミン20万単位が要求されるのである。
 妊畜や幼畜にヴィタミンの補給は極めて必要で乳牛においてはヴィタミン20万単位が要求されるのである。
 かかる意味において冬期とかく不足勝ちのヴィタミンの給源として,又養分含量の極めて多いこの青刈飼料の栽培は最も肝要なことである。

冬作飼料作物の受入れられるべき土地

一.麦作付裏作畑と休閑畑の利用

(イ)冬作として麦類を作付する畑地において,飼料作物を間作することは,その間作物の収穫時期を誤らなければ主作物に悪影響なく飼料を生産することができるもので,今日の食糧事情において,最も考究の上実施を要する問題である。
 間作物として最も適当なものは,青刈蚕豆であり,その他に青刈菜種,青刈碗豆コモンペッチ,小松菜等もあるが,その地方において最適のものを組み合わすべきである。
 青刈蚕豆の場合その栽培は10月下旬に中耕,土寄の関係を考慮して麦の播巾に接近して播種し,麦の生育に支障を来たさない4月中,下旬に青刈として利用するのである。

(ロ)休閑畑における飼料作物の作付は土壌中の肥料分消耗緩和と収穫物の飼料的価値を高める点において,更には気候或は病虫害に対する不時の障害を緩和すること,又草丈が高く伸びる上繁草と草丈が低く繁茂する下繁草を混ずることにより空間を有利に利用すること等から禾本科その他と豆科作物との混作を行うべきで特に青刈類の栽培には必要なことである。勿論混作に豆科作物を用いなければならないということは,何も休閑畑に限られた問題ではない。
 各地において行われている混作例としては青刈ライ麦,その他の麦類と青刈碗豆,コモンベッチ又はヘアリーベッチとの混作。
 青刈玉蜀黍又はスーダングラスと青刈大豆,カウピー,又は菜豆との混作。
 青刈向日葵と青刈菜豆との混作。
 オーチャードグラス,チモシーグラスその他の禾本科牧草と赤クローバーとの混作等がある。何れにしても畑地に麦作を作付する場合においては混作物が播種の翌年において最高収量に達するものを選ぶべきである。
 燕麦,ライ麦とベッチ類との混作は草丈が高く倒伏しやすいベッチ類が支柱として順調に生育しこれにより麦類も倒伏をまぬがれ成績がよいものであるから荳科作物としてコモンベッチ,ヘアリーベッチ,禾本科としては青刈燕麦,青刈ライ麦が適当であり今後行うべき混作例ではあるまいか。
 栽培方法は播種量の点を除けば草作の場合と別段変らないもので,青刈用飼料作物は牧草類は撒播し,牧草以外の一般飼料作物は畦間を60ミリ内外として条播するのである。
 播種期は作物の種類により異なるも収実用に比較すれば一般に適期の中が広いものである。牧草類は9月−10月上旬麦類,ベッチ類は10月−11月で寒地ではこれより幾分早目とする。
 播種量は反当り麦類1貫−2貫,ザードウィッケン1貫−1貫800匁,ヘアリーベッチ600匁−900匁が標準であり刈取はベッチの開花期が適期である。
 以上の混作例のほか,青刈麦,青刈燕麦と赤クロバーの混作や,レープと紫雲英の混作も行ってよいものと思う。普通レープは水田裏作などに作付する場合は直播法による事が多く,容易に混播しうるものである。

二.水田裏作の利用

(イ)麦作付水田裏作の利用

 県下邑久郡国府村の牧野勉氏は水田酪農の飼料対策として水田輪混作栽培並に水田転換年間飼料畑の経営を行い,合理的な飼料栽培計画を確立していることは我々の周知のことである。
 牧野氏の水田輪混作栽培における水田裏作の混作は「紫雲英と裸麦」区,「紫雲英と裸麦,燕麦」区,「蚕豆と裸麦」区の3区に大別され,この混作が3年毎に輪換するのである。水田転換畑地における冬作としては9月から12月の間に家畜用カブラ,10月中旬から3月中旬までアラスカ碗豆,10月下旬から4月下旬まで蚕豆,12月から4月下旬までレープが各畑に作付られている。
(詳細については県畜産課発刊の自給飼料指針を参照されたい)
 この裏作利用が全県下に適応性を持っているか否かは疑問であるが,青刈蚕豆,紫雲英,レープ等を麦の混,間作としてたくみに組み合わすことが望ましい。

(ロ)休閑裏作水田の利用

 冬期間水田が休閑に附される大きな原因は,家族労力並びに土地事情によるものであろうが,休閑田とすることが決して,農家経済を豊かにするものではなく是非ともこの休閑田の効率的な利用を行うべきである。
 かかる事情により休閑とされた水田に容易に入りうる作物は,緑肥,飼料作物であり,ある程度の湿田地においても排水をはかることにより,相当の成績をあげうるのである。
 排水操作としては,最も理想的なことは土地改良によることであろうが,排水の余りよくない土地において裏作を仕付けようとする場合は止草の当時からその心構えで進み排水と地固めとを図るのである。
 即ち止草を塗上げ式に行い直ちに落水して,地固めをなし且,足が落込まぬ程度に土を締め付ける。かくして穂孕から出穂期に水を引入れるが湿田ならば構わず潅水を止めてただ排水の一途を考えればよい。即ち早きは穂孕当時,おそくとも穂揃期において田区の周囲一株通りを堀上げて排水路となし,田区内にも幾筋かの排水溝を作り滞水を搾り出すようにする。
 その場合堀上げた稲株の結実如何と案ぜられるが湿地のことであれば枯死するような憂は全然なく立派に開花,結実するものである。裏作水田に用いられる作物としては紫雲英,ベッチ類,ウマゴヤシ,青刈蚕豆,青刈碗豆,セラデラ,ルーピン等があるが特に注目すべきは紫雲英とベッチ類であろう。
 紫雲英,ベッチ類などの秋播のものは温暖地では栽培容易であるが,寒害や雪害に罹りやすいものである。
 しかしヘアリベッチは寒土に対しても強いもので,又紫雲英も富農選7号,24号,山形1号,2号等の品種は強く寒冷地や積雪地にも作ることが出来る。
 湿地に対して強いものは,ウマゴヤシ,紫雲英,ベッチ類の順で特にベッチ類は幼動物のときに甚だ弱く紫雲英より一層排水をよくしなければならない。排水不十分のときは発芽出来るが,発芽しても枯れてしまうことがあるのでこの点注意が肝要である。又紫雲英,ベッチ類等の荳科作物は根瘤菌の寄生により空中窒素を利用するものであるから,これら荳科を作ったことのない土地には根瘤菌が繁殖していないので根瘤菌を接種してやると収量が増加する。
 根瘤菌を接種するには,その作物の純粋培養根瘤菌を水に溶かしてこれに種子を浸すかその作物を作ってよく出来た処の土を反当15−20貫撒布することが大切である。
 同時にこれ等の荳科作物の種子は確実といって,種子に水を透さない層があるから播種前砂等と混じて種子表面に傷をつける必要がある。なお荳科は概して酸性土壌を嫌うものであるから石灰の施用は,これ等作物の旺盛な生育を助成するため極めて大切である。
 栽培方法は紫雲英,ベッチ類は稲の立毛中に即ち9月中旬−10月上旬に撒播するのが普通である。
 播種量は紫雲英反当2−3升,コモンベッチ3−5升,ヘアリーベッチ,2−5升で刈取は開花初期から5分咲の頃が適期である。
 以上の作物のほか本県においては,レープも有望で9−10月に苗床に播種し11月−12月に稲の刈取後に定植し,翌春青刈とするのである。
 最近これらの単作をするかわりに紫雲英と種実用菜種又はレープとの混作も行なわれている。

(ハ)苗代予定地,春馬鈴薯植付予定地の利用稲刈取後苗代,春馬鈴薯植付予定地は,とかく休閑地として放任され易いもので,この期間飼料作物特に荳科作物を導入するということは後作に対しても好影響を及ぼすのであるから,是非とも試むべき問題である。
 苗代における種籾の播種期は県南部において5月上旬,北部で4月中下旬であり,馬鈴薯植付期は普通3月上,中旬,寒地では4月中旬から5月上旬であるからこの頃までに十分生育するものを選定しなければならない。普通用いられる飼料作物としては,既に水田,畑地の利用において記した如く,青刈燕麦,青刈ライ麦,青刈大麦,レープ,青刈蚕豆,青刈碗豆,ベッチ類で荳科のものと混播することが好ましい。

三.果樹園の利用

 果樹園が傾斜地に設けられる場合は勿論,平地の果樹園でも急激な降雨のために表土が流失し,細根が土面にあらわれる様になり,土中の養水分の吸収がさまたげられて樹勢の衰退の大きな原因となるのである。
 このことは既設の果樹園は勿論のこと果樹園初期の土壌管理においても同様でこの土壌防止対策は厳に考慮すべき問題でありこの防止としては被覆作物の栽培が最も望ましい。
 又樹根が土中に広く延び土中養分を効果的に吸収する為には土壌の物理的性質が根の活動に最適でなければならぬ事は当然で,この点から堆廏肥等の有機質を投下する必要があり,更に堆廏肥の施用が肥料費の節減にもなり,果樹園経営を有利に展開しうる根源となるのである。
 処でこの被覆作物(土壌保護作物)とは小土壌の侵蝕を防ぎ,(2)土壌中に有機質を加え,(3)土壌改良に役立つ作物であって,これは主として飼料作物特に荳科及び禾本科牧草が最も重要なもので,かかる被覆作物の栽培は,家畜を通して,廏肥源ともなるわけである。しからば如何なる被覆作物を選ぶべきであるかは種々の条件により異なり又作付方法の決定は果樹園,経営における労力関係,並びに薬剤撒布との関係を知り行うべきである。
 一般に,余り乾燥しない粘質土壌には碗豆,蚕豆などがよく繁茂し,火山灰土においてはベッチ類ルーピン等がよいと言われているが大体ベッチ類が最もよく次で青刈碗豆,蚕豆,ラヂノクローバー等であり土地条件さえよければルーサンを用うべきではあるまいか。
 栽培は普通樹幹から3−6尺程度はなれて2尺位の畦巾をとり播種する。石灰の施用,根瘤菌の接種等は一般荳科牧草の栽培要領と同様である。
 以上の様にして果樹園の合理的利用を図ることが必要であるが荳科植物は果樹に窒素を供給するが燐酸を消費するからこの場合は燐酸分を多給しなければ果実の味に影響するから注意を要する。

四.桑園の利用

 桑園における間作は緑肥作物が相当以前から栽培されている。
 冬作飼料作物として主なるものは,青刈燕麦,青刈ライ麦,青刈大麦,蚕豆,ベッチレープ等があり特にベッチ類,青刈蚕豆類は成績がよい。
 しかしこの間混作物の種類も桑園初期或は成熟した桑園などとその桑園の年令によって異なり夫々の客観的事情とにらみ合せて作物を選び作付方法を決定すべきである。
 栽培は普通畦巾2尺に条播或は点播するのである。

五.野草地の改良

 我が国農家1戸当りの耐地面積は非常に小さく,耕地における利用度を増進し飼料作物を作付することは肝要のことであるが,これと平行して耕地外の土地即ち牧野,畦畔,堤塘,河川敷等の野草地の改良と山林の利用は極めて緊急且重要事である。
 特に野草地における草種,草生の改良就中冬期間青々として生育する耐寒性の優良野草,即ちカモジグサ,ウシノケグサ,イヌムギ,スズメノカタビラ,イチゴツナギ等或は牧草類を追播することは,この頃の青草不足を緩和する点において又ヴィタミン給源等の観点より冬作飼料作物栽培に劣らず必要である。
(草地の改良については前述の自給飼料指針を参照されたい)

結び

 以上飼料作物の冬作が取り入れられるべき身近に横たわる2,3の土地を指摘し且,そこに栽培される飼料作物の概要を記した次第であって,個々の土地において個々の作物の栽培の具体的な内容をこの稿にもることは,紙面の都合上許されなかったが,何れ機会を捉えて農民各位の御批判,御叱責をあおぎたいと思っている。
 ぎこちない拙文を閉じるに当り,ドイツの「多くの飼料,多数の家畜,大量の牛乳,多額の金額」という言葉に,もられた畜産の在り方を吟味し玩味し,貴重な土地を高度に利用して単位面積よりできるだけ多くの養分を収穫する様に各自が研究し,努力し,無理のない飼料作物栽培計画を確立すると同時に,野草地の改良,利用に一般の関心を昂揚し,地についた畜産の発展を願ってやまない。