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鶏の蕃殖の実際について

 9月17日岡山市において本邦改良蕃殖家の第一人者岩谷龍一郎氏を迎え盛大に鶏種改良研究会を開催し県下種鶏人の好評を博したが都合により聴講できなかった養鶏家各位の為同氏の講演概要を登載し参考に供することとした。
 なお講演内容に誤謬の点があるかも知れないがこれは全く筆記者の責任であるから予め御諒承願います。(養鶏係)

岩谷龍一郎述

 鶏の飼養目的により改良目的もそれぞれ異って来るが大方の養鶏家の主要目的である産卵を目標とした改良について述べることとします。産卵を目的とすれば必然的に産卵数及び卵重に主体を置くことは当然であり,これらをより多く生産させるには血統,飼料,管理,その他環境によって支配されるものであるが中でも鶏自体のもつ多産性は数多くの遺伝因子に関連を有するものであり,その諸因子は大体次のような因子によって成立っている。

 (1)性成熟(2)連産性(3)持続性(長期多産性)(4)周期性(普遍性)(5)換羽性(6)卵重(7)杭病性(8)耐栄養

これらの諸因子を如何に配合し如何に優良因子を累積して行くかが我々のいう蕃殖である。日常一般の養鶏人が多産鶏と称しているものは年間を通じて産卵数の多いものを経済的に見て多産鶏と称しているが遺伝的乃至は改良面から見た多産鶏とは必ずしも前者に一致するものでなく例えば一定期間中特に超多産或いは連産する個体についてその性質そのものについて多産鶏と称しその活用を図っているので,このような点についても深い注意を払わねばならない。
 以上述べた産卵性主要因子の遺伝的特性を知ることが蕃殖実施上,骨子となるのである即ち

(一)多産性は仔雄を通じ孫雌に遺伝される。
(二)性成熟の早いものは多産性をもっており雌雄両性より遺伝するも雄鶏に支配力が大である。
(三)産卵の持続性,連産性は雄により後代に遺伝される。

上のように多産性については遺伝特性がある関係上,特に種雄の選択は重要であることが推知せられるのである。
 今ここに血統的に望ましい個体を得たならばその望ましい優良形質の後代における累積,つまり近親蕃殖を行い純粋度を高めて行くわけである。良雄ならばその娘鶏,孫娘と数代に亘り交配(バック,クロス)を累ね種雄の優良形質の固定を図るのが常道となっている。又優良種雌発見の場合はその種雌を中心として兄妹交配を重ね母雌の優良形質の固定に努める。(兄妹交配はバック,クロスに比較し分離が約2分の1程度で比較的短期間に形質の固定に成功する)
 大体バック,クロスは4−5代兄姉交配は3−4代迄累代実施すると分離は大体終り求める形質が固定するものであるが,この内部交配により求める形質は得られたが他の形質において劣ることが出来た場合は望む形質をもつ,なるべく遠縁の系統を交配(外部交配)することにより望む形質を得られるわけである。この欠点,補足のための外部交配も当初において求める形質を固定するため数代の内部交配により純粋度が相当高度化しているため外部交配による著しい分離は認められない。
 要するに蕃殖の要点をなすものは選択でありこれは因子的には血統及び後代調査により表現的には多年の経験による直感によりそれぞれ取捨選択し優良原鶏を確保したらこれらの優良形質を掘下げて行くこと,即ち近親交配を実施し,望む形質の累積を図るのである。この間における分離による弊害因子は所謂選択により淘汰することが最も肝要なことである。
 なお当初において原鶏の選択を誤り若し弊害因子を伴う場合は後代において下の通りの結果が現れる。

(1)先天性ロッコ(劣性因子)
雛は頸を背方に曲げ嘴を上方に向けて倒れ脚を上げて暫くして立上るこれを反復して死ぬる
(2)粘性胚(単一劣性因子)
胚は浮腫になり羊水及び尿水が粘稠となる。骨は石灰質が欠乏し軟弱,肢骨は湾曲している孵化後3日間に死亡するのが普通である。
(3)匍匐性(劣性因子)
肢が異常に短縮し腹部は殆んど地面に接する。匍匐性をホモに持つ場合は発生期中に悉く斃死する。
(4)先天性麻痺症(劣性不完全因子)
麻痺のために起立することができなく体を震わしている。孵化1週間以内に死ぬるが稍長く生きているもの又は稀には成鶏になる迄発育するものもある。

[近親交配の例]

以上説明した産卵性の改良について実験例を挙げ参考に供することとする。

卵重に関する改良の一例とこれに関する考え方

父♂C148 産卵個数 卵   重 産 卵 数 卵   重
母♀19〜372 273 55.3 3羽 252 57.0gr
♀19〜232 254 56.1 6羽 244 60
♀19〜722 248 55.4 2羽 257 57
♀19〜 78 268 55.9 1羽 255 63
♀19〜 36 274 51.8 3羽 226 60.8
15羽平均 247.4 59.89gr
父♂1256 C−148の仔雄 産 卵 数 卵   重
母♀19〜372 (産卵個数及び卵重は上表による) 4羽 264 62.8
 19〜232 3羽 253 63.7
 19〜722 2羽 263 61.7
 19〜 78 3羽 261 60.2
 19〜 36 0羽 0 0
平均 260.5 62.1gr

[♂C148の血統]

※♂1256の利用はC376にBackcrossするのがよい。

 以上の実験例からして卵重に関する改良は産卵数の改良と併行されねばならないことと卵重に関係するものは主として遺伝的に種々の遺伝因子であり,いいかえれば血統であることが明白となる。しかし従来より卵重は個体の体重によって支配されるかに解釈されていたがこれは反って飼料の消費が大となる結果,経済的に損失を蒙る場合が多い。要するに必要以上の体重過大を避け産卵数及び卵重の増加を図るよう改良すべきである。
 なお個体の卵重能力は年間平均卵重をもってその能力とすることは不適当であり一定期間(卵重の最高頂)の卵重をその個体の能力とすることが適当である。

長期多産性に関する実験例

 初年度において300卵の産卵があっても,次年度130卵であっては経済的に経営が不安定である。我々蕃殖家の望む目標は2ヶ年平均「250卵」の確立つまり長期多産性の因子累積を図ることである。

雌番号 ♀C60 ♀C−394 ♀C−295 ♀416 C−233 平  均
配雄番号
♂B1370 4羽平均
265ケ
4羽平均
260ケ
4羽平均
259ケ
3羽平均
266ケ

15羽平均
262ケ
♂C 588 2羽平均
265ケ
1羽平均
263ケ
3羽平均
268ケ
6羽平均
273ケ
5羽平均
267ケ
15羽平均
269.3ケ

※備考 (1)上表産卵,個数は総べて2年間平均個数である。
    (2) C−588はC575の兄鶏である。C575は3ヶ年間300卵以上の成績を収めた。

早熟性に関する実験例及びこれについての考え方

産卵数 250卵以下 260 270 280 290 300 330 330以上
初産日数
130日 3羽 4 3 4 3 4 5 0
150日 1羽 8 11 10 16 8 24 3
180日 2羽 17 6 7 11 4 19 1
210日 7羽 5 2 3 2 3 4 0
240日 2羽 4 0 0 0 0 0 0
試験羽数 15羽 38 22 24 32 19 52 4

(一)初産日令は150−180日間が最も産卵能力が大である。
(二)早熟性は産卵能力に関連をもち,雌雄両性より遺伝するも母より雄の方が支配力が大である。
(三)早熟性は飼料により相当支配される。即ち動物蛋白質の過給は異常に生殖腺の発育を促進し,体躯の発育不充分にも不抱,初産を見ることがあるが,これは長期多産を望むことはできない。
(四)早熟性を合理的に求めるには因子的に雄を求め,外面的には飼料の調整により初産期を抑制する。

早熟性と飼料との関係

 飼料成分中特に関係するものは蛋白質であり,育成期間中における蛋白質給与率は下の通りが適当である。

餌付後1週間…………5%
7日−21日…………30−35%
21日−45日………25−35%
70日−100日……20%
(雌で体重270匁程度)
100日−130日…15%

 100日以後において動物蛋白質の多量給与は生殖腺を異常に刺激するから魚粕のみに偏在せず蚕蛹,大豆粕等を併用し過度の早熟性を抑制し体躯の成長を速進するようにする。特に蚕蛹は蛋白質ばかりでなくB2を含有し初産雌の産卵持続性を助長する。
 なお初産開始より蛋白質飼料を逐次20%程度に増量する。

体重増加量と産卵能力との関係

 体重増加量の産卵能力に最も適量の増加率は初産第1日から30日間の1日平均1匁である。
体重増加率(自初産 至30日間)の1日平均 産卵に及ぼす順位

0.5g    2位
1.0g  最適1位
1.5g    3位
2.0g    4位

初産後第1年間後における体重推定法

初産第1日の体重+初産1日より30日間の増加量×2.5=1年後の体重

卵重能力推定法

初産後30日目の卵重−初産第1日の卵重+30日目の卵重=卵重能力