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昭和26年 畜産岡山の抱負 
昭和25年を回顧して

 昭和26年の新春を迎え,皆様の強い要望に応えるべく,ここに昭和25年を回顧すると共に,昭和26年の抱負の一端を係別に分けて御伝えし,皆様の御協力を願う次第であります。

大家畜

和牛

 天下の名声を誇る岡山の和牛。歴史は回る1951年にバトンを引継ぎ新たなる希望と抱負を乗せて躍進してゆく,されは牛の涎のごとくそして長く………
 岡山県の和牛の現在頭数は(昭和25年2月1日農業センサス調)110,384頭で前年頭数103,000頭に対し7,000頭強の増加で岡山県畜産増殖5ヶ年計画の水準を上廻り逐年数的に上昇の一途を辿りつつあることは慶ばしいことであるが頭数は県下農家戸数より検討するとまだ増加の余地はあると考えている。今後の在り方は増産を消流の均衡を図り更に形質及び能力の伴った増産であることが望ましい。
 和牛の改良は多年に亘る年月と一貫せる計画と方針の下に完成するものであって其の方法としては次の点について配慮すべきであろう。

 一.種雄牛政策について。其の地帯の和牛の実情を調査し通有的欠陥を補正するに足る体型,資質,血統能力を具備した優秀な種雄牛を配置し人工授精により普く交配せしむることが必要である。殊に種雄牛の選定に方っては自県産自郡産の狭き門よりの採尺のみでなく所詮良牛に国境なく真に改良の基礎として望ましい種雄牛を選定しなくてはならない。

 二.登録について,御承知の通り昨年10月13日より其の制度の改革を見たのであるが今までの表現型より因子型に転換し所詮仔出しを見てから登録する制度となり殊に乳徴肢蹄歩様等の特に改良すべき部位に重点がおかれるようになり一方閉鎖鎖式登録で上から落ちるものは受止めるが下から上るものは受入れない。即ち登録資格のないものは末代まで登録牛となれない,ここまで徹底してこそ真の改良が期し得られるので厳正公平な登録検査が望ましい。

 三.蔓牛について,蔓牛は優良牛で体質強健悪癖なく性質温順で蕃殖力旺盛(雌は連産すること)長命で失格を有しないことを基礎条件としている。
 本県の蔓牛は170年の歴史を有する日本最古の竹の谷系統を始め大赤蔓,亀屋蔓,大田大赤蔓,花山蔓,神集蔓,土用蔓,野土路蔓,川上系,構屋系,アイデ系,ゴンボー蔓,高橋系,しんもり系等の系統牛及びこれ等の分れ蔓があり大部分は雑駮化し影薄しの感を免れないが中でも竹の谷系統牛は羽部,土屋両氏を始め地元民の熱意により調査が進められ公認の蔓牛組合を結成し熱心な再興意欲に燃えていることは同慶の至りである。竹の谷系統以外の前記系統牛についても系統を調査し蒐録の必要があると思うが実施については余程の困難が予想される。

 四.共進会について,遠大な目的として全体的な改良水準を引き上げる為に共進会も唯単に競争意欲にとらわれ又お祭騒ぎに終るのみでなく開催方法についても改善の要があり真に共進会のもたらす効果を昂揚し明日への改良の糧となることが必要と思う。
 以上の通り和牛が経済動物である以上絶ゆまざる改良がなくてはならない。和牛は製糞牛でもなければ骨董や盆栽や床の間の飾りものではない。日本農業に適合した和牛本来の使命を最高度に発揮するような体型資質能力に改善しなくてはならない。
 斯く考える時岡山の和牛も昨年連合共進会に覇なれりといえどもなお幾多改善の余地があり畜産家斎しく不断の努力が必要であると思う。(渡辺技師記)
 かえりみる牛の啼く声に仰ぐ新春

乳牛

新日本の農業は酪農から

 乳牛は終戦以来時代の脚光を浴びて急速に増加戦前の3千有余頭に及んだが昭和25年は酪農最良の年でなく終始難航を続けた試練の年でありました。
 憧れと希望に輝く新春を迎えたが2月には飲用牛乳。4月には大部分の飼料統制が撤廃され一時飼料事情は好転したが主穀の統制と供出は依然存続しているので飼料価格は暴騰した。それに乳価は逆行下落目先の早いものは乳牛を手放し,輸入バターの声が取り上げられた。又その上流行性感冒が襲来して多大の損耗をうけた。中には経済的の打撃をうけて愛する酪農と惜別するものもでた。10月には牛乳新規則が厚生省から公布されて一大転換を要することになった。数々の試練を克服し又背負って越年する酪農界も仲々多事であり容易ならぬものがありますが確固たる不撓の努力をつづけられて昭和26年を邁進ありたい。(松尾技師記)

中家畜

緬羊

 昭和25年度に於て287頭山形県より導入致しました。
 主なる導入郡は勝田郡の61頭を最高に苫田,川上,小田,御津,久米其の他の郡となっておりまして,殆んど養蚕農家へ導入致しました。
 現在の飼育頭数は約2,000頭でありますが,これは養蚕農家及び普通農家合計しての飼育頭数であります。養蚕農家は県下に7,000戸ありますのでかりにこの2,000頭が全部養蚕農家が飼育していると仮定しても未だ5,000頭の緬羊は飼育出来る可性があることになります。
 来年度も本年同様先進県より相当数の優良種緬羊を導入する計画でありますが特に量より質ということに重点を置きたいと思っております。導入に際しましては,一町村に必ず少くとも10頭以上集団的に導入して頂きたいと思っています。
 理由としては,第一緬羊を増殖するについても,集団的でありますと共同種付を実施する時も少数飼育より繁殖率を高めることが出来ると共に生産された仔緬羊を販売するについても好都合であります。第二に緬羊の生産物である羊毛を処理する場合即ち自家加工の場合でも共同にて機具を購入出来るし,また共同にて加工も出来るし,委託加工の場合も,余剰羊毛を販売する場合にでも一括して相当数量を集荷,処理出来る。第三に飼養管理,剪毛,羊毛加工等の技術の指導とか相互の経験を練磨することも出来る,第四に各緬羊飼育地帯に緬羊協会又組合を設立して緬羊飼育者の連絡を密にすることが出来る。
 以上の様に今後も養蚕地帯を根拠として緬羊を導入して緬羊の改良増殖を図り県下に普及したいと思っています。

山羊

 山羊は昭和25年度に於て,長野県より種雄山羊を10頭導入致しまして御津,和気,吉備,英田,川上,久米の諸郡へ貸付し,津山畜産農場へ1頭保管転換致しました。
 県下の山羊飼育頭数は1万頭以上でありまして,山羊を飼育していない町村は皆無の状態でありまして,主なる飼育郡は勝田,真庭,久米,苫田の諸郡となっております。
 来年度に於ては必ず山羊登録事業を実施し品質の改良を図り,種雄山羊として供用出来ないものは去勢し,又老廃山羊も肥育して岡山種畜場に於て,肉加工等の委託加工に応じたいと思っております。
 山羊乳は自家利用に農山漁村の乳幼児病弱者の為に普及したいと考える。
 県下の飼育頭数は申述の如く恐らく中国地方でも最も多いのに拘らず質において劣っておりますので,積極的に改良を加えて,中国地方に於ける種山羊の供給県としたいと思っております。

 現在県下の飼育頭数は大約6,000頭でありまして,その分布状況をみると,浅口,小田,都窪各郡の南部地帯が主なるものであります。これら6,000頭の原動力となる県指定種豚場は県下に24ヶ所設置されておりますが,来年度におきましては之等種豚場の価値ないものは整理し再検討したいと考えている。各種豚場には必ず登録種雄豚及び種雌豚を常時繋養し,優良仔豚を一般農家に供給し得る種豚場として再出発する方針であります。先進県より優良登録種豚を導入し之を改良の基盤として強力に推進し優良仔豚の生産配付を行いたいと思っております。
 共進会についても,特に中小家畜に主眠をおいた共進会を開催し技術指導をあわせて,肉製品,毛製品,毛皮製品の展示等を行い中小家畜の普及宣伝を行いたいと思っております,一方1−2頭の雑豚を飼育する農家においては,岡山種畜場その他適当な加工場において委託加工に応じ,随時必要時に還元をうけ,過去の仔豚生産の浮動的,変則的経営を是正し,農家食生活改善に密接なる関連を持たしめたいと思います。
 更に進んでは簡易肉加工による食生活改善のため,或は飼養管理の合理化のため,あらゆる機会を捉えて,これら諸般の講習会を開催し,養豚経営の有利性を再認識し,農業経営の一環として,堅実な発展を期したいと思っております。(小島技師記)

小家畜

養鶏

 昭和25年の養鶏界は春期卵価の暴落と課税攻勢に端を発し誠に多難を予想されたが飼料統制の撤廃を契機とし広く零細養鶏家にも飼料の入手が容易となり又社会情勢の変動により秋期卵価は予想外の高値に維持されたため副業的な採卵養鶏の復興は著しいものがあった。
 一方種鶏経営も1単位の繁養羽数が増加し昨年秋期種鶏検査には10万羽余が確保され本春孵化開始を目前に控え万全の準備がなされつつあるが種鶏の羽数は既に戦前の域に到達し県内孵卵能力を充足するに充分であり今後は鶏種の改良事業に一層の拍車をかけなければならないし又採卵養鶏の勃興と相俟って個々の経営改善はもとより町村農業協同組合又は養鶏農協を中核とした共同事業の推進を図り産業養鶏の基盤を確固たらしめねばならない。

一.種鶏の改良

(1)農林省兵庫種畜牧場,及び岡山種畜場生産の原種雛の効率的活用を図り得る改良機構とする。
(2)民間における種鶏改良を助長するため孵化場を中核とする原種鶏場を指定確保する。
(3)原種鶏場は原則として現場検定(年間産卵能力調査)を実施するものとする。
(4)種鶏検査を実施し原種鶏場は少くとも年2回これを実施するものとす。
(5)種雄鶏の共同育成を助長する。
(6)公認種鶏10万余羽を確保したので種卵を厳選し強健多産の初生雛の生産に当らしめる。

二.採卵養鶏対策

(1)余りにも零細な養鶏経営は経済観念に比較的乏しく非生産的なものが多いので50羽程度の副業養鶏の育成に努める。
(2)飼料配合,駄鶏淘汰等に重点を置き経営改善の指導に当る。
(3)多産にして粗飼料の利用度に富む一代,交配種の普及を図る。

三.共同事業推進

(1)鶏卵対策
 鶏卵は戦中戦後著しい品不足から養鶏家は居乍らにして高価に販売することが出来たが生産増加と共に僻地においてはその販売方法に苦慮する場合も出来ることは必至であり,又交通の便なる地区においても卵価の変動による損耗,或いは中間資本の介在を未然に防止するため町村単位農協を中心とする生産団体の共同出荷を推進しなければならない。
 なお鶏卵取引の慣習である産地買付を消費都市の荷受機関と直結した委託販売制度に切換え真に鶏卵を需給関係に適合した安定商品となし又生産者においては規格の統一,荷造りの改善に意を払い商品価値の向上に努め既往の岡山鶏卵の名声に鑑み信用取引の回復に努めなければならない。
(2)養鶏飼料の共同購入対策
 飼料統制撤廃以来飼料の出廻りは良好となっており(社会状勢の変動により必ずしも楽観は許せないが)特に養鶏必需の玉蜀黍は本春は相当量輸入の計画が進められておる。又雑穀類の統制撤廃等の気配から考慮して今後は相当悪質飼料商が出現する虞れもあるので町村農業協同組合等の実需団体においてそれぞれ飼料の荷受体整を講じなくてはならない。
 幸い中央には全国養鶏家の要望に応えて日本養鶏購買農業協同組合連合会が設立され養鶏必需の玉蜀黍,魚粕類の確保導入に努めている。(小郷技師記)

カナリヤ

 戦後我が国のカナリヤの輸出状況(本省の調べ)は一昨年1,500羽,昨年は6,000羽程度であって本年は業者間では,昨年中に多数の種禽が国内に残されているから5万羽程度の輸出は可能と見ており,極く内わに見ても2万羽程度は出るのではないかと見られている。
 価格については一昨年は1羽(雄のみ)2ドル50セント(国内買付450円)昨年は3ドル30セント(国内買付1,050円)程度であったが本年は国内買付(横浜着雄1羽値)は

  11月15日迄 710円
  同16日−30日迄 740円
  12月1日−15日迄 770円
  同16日−30日迄 800円
  1月1日−15日迄 830円
  同16日−31日迄 860日

 と発表実行されていると聞く。
 なおカナリヤの輸出について畜産情報に農林省畜産局の係官は大要次のように語っている。
 カナリヤの輸出は今まで西欧,特にドイツから毎年米国へ向けて60万から100万羽も出ていたのであるが,その輸出がとまったことから,日本のカナリヤ事情を知っていた米国より日本に注文して来たもので,本年2月オール九州カナリヤクラブからトルーマン大統領とお嬢さんに一羽宛贈ったのがその後の品評会に優勝を得たことから忽ら名声を博し,それ以来照会が急激にふえて,50万羽欲しいという声もある程である,今後はドイツも復興して来たし昨年は相当良いものを輸出しているといわれ競争相手が出たのであるから,日本としてはドイツ以上に安価に生産して出すことを考えなければなるまい。
 本年度県としては斯様に平和使節として可憐なカナリヤが農村と都会の別なく何れの処でも比較的簡単に飼育並びに増強が出来て遊休労力を利用する副業として又外貨獲得に資するため展示品評会を開催し斯業の健全なる普及啓蒙を目的として畜産便り第12号に登載した通り岡山及び倉敷においてそれぞれ開催した。
 明26年度においては輸出適格鳥の増産により外貨の獲得に資する予定である。(多田技師記)

養兎

 恐らく家兎が鶏における如く日々目に見える生産物を人間に提供するならば,鶏のように多額の飼料費を要せず又飼養も比較的容易である等からして多くの人々に飼養されたろうにと思うが,造物主の不手際か不幸にして日々の生産物は我々の目に映らず,そのためにか,うとんぜられ,たまさかの時代の景気にもてあそばれる程度が関の山であり誠に悲惨な現状である。
 私はかかる兎の鶏に対する立場が乳牛に対する和牛の立場と何かしら似通っている様に思えてならない。
 そうして地味な立場にある和牛が本県畜産の大宗をなしていることを思えば,このことから帰納出来ないまでも地味ではあるが小規模な副業経営に適する兎が鶏と張り合う位になったとしてもそれは決して偶然ではなく,不手際かに見えた造物主の意のある処であり,「存在するものは合理的なり」という一面を如実に示した以外の何物でもなかろう。
 折角の御努力を願ってやまない。
 本県における兎の飼養頭数は大約6万5,000頭で内アンゴラ兎が5,000頭或はそれ以下と推定され短毛兎は6万頭前後である。
 飼養分布状況は久米郡の9,000頭を筆頭に勝田郡の5,000頭がこれに次ぎ大方の郡に2−3,000頭が飼養されている。
 これを先進諸県に比すれば決して満足すべきものではない。
 すぐる日のアンゴラ兎における投機的経営の崩壊が養兎全般に亘って人々の関心を沈滞せしめその発展に大きな抵抗をもたらしていることが否定出来ない現在県下6万5,000頭の家兎とこれを飼養する熱心な人々があることは来るべき飛躍の一段階として対岸の燈火の如き感を与えている。
 誤れる養兎の観念を一掃し真の副業的価値を見出し優秀なる家兎の飼養と共同組合による運営の妙味を発揮し斯界の発展を希う次第である。(三秋技師記)

養蜂

 従来蜜蜂は県下各地へ無計画に転飼して昨年は相当混乱状態を呈しこのまま放任すれば本県養蜂の自滅を招来するおそれがあり且つ他県においても上のような混戦を除ぐため既に取締条例をもって蜂群の配置を実施している。
 本県においても上に鑑み本年3月31日付をもって岡山県蜜蜂転飼取締条例を公布した。この目的は蜜源の分配調整の適正化を図り高度に蜜源を利用して養蜂事業の健全なる発展に資するためであって,なお岡山県養蜂協議会を設置して蜜峰転飼の適切な運用をはかっている。
 本年度現在までにおける他県より本県に転飼許可した群数は約3,200群であって,この外に無許可入地者7名(県内者2名を含む)に対し撤去命令を発動した。
 なお越夏蜜源調査のため県畜産課並びに県養蜂協議会は8月下旬県北部地帯の共同調査を実施した。その結果は畜産便り9月号(第10号)に報告の通り好成績を収めた。
 26年においては県養蜂協議会委員の任期が12月末で完了になるので来春蜜源の割当は新委員によって本年度の経験をいかし一層適切な運営を図ると共に本県未開地の調査を行う予定である。

牧野

 本年5月牧野法が公布になったことは畜産便り7月号(第8号)で法の要旨を御説明したように,この法律は治山治水から始まって地方の維持培養国土の緑化まで考慮した国土保全と効率的利用によって健全な畜産の発展を期するためでありますから折角出来た法律の空文に終らないように牧野に対する認識を新たにすると共に立派な牧野に育てて行くため本年度は先ず管理規程設定地(管理牧野認可申請のもの)並びに保護牧野の調査を行う計画であります。
 なお管理牧野に対し本年度は国より若干の測量費の助成がある見込みであります。
 明26年年度におきましては25年度に引継き管理牧野設定地並びに保護牧野指示予定地の調査による指示を行うと共に具体的牧野改良計画の指導を行う外国よりの助成として本年度と同じように若干の測量費がある見込みであります。
 牧野の改良事業は国においては27年度より実施する予定であります。これがために27年度実施の具体的改良計画は来年5月末までに本省に報告して国において予算的措置が決定すれば27年度よりいよいよ牧野改良事業に着手することになります。
 従って管理牧野設定の計画ある市町村(財産区を含む)においては上考慮の上知事の認可(指定)を受けるようにする要があります。
 なお保護牧野についても指示を希望する者は一応当課まで御連絡願い,法に基き実施して国の助成を最大限に利用するよう準備すべきであります。
 管理規定案作製にあたり改良事業費負担区分には管理牧野設定市町村においても一部負担するように計画予算的措置を考慮すべきであります。(多田技師記)

競馬及び産馬

競馬

 競馬は戦前は馬の改良増殖と,馬事思想の普及が大きな目的として認められて来たのであるが,戦後昭和23年からは競馬法の改正に伴って国営は農林省,地方は県又は災害市町村が財源の確保,スポーツ,畜産振興策としての目的のための競馬を主催して来た。
 さて,昨年の競馬界を展望して見ると次のとおりである。

 一.巷間競馬の民営に移す移さぬと風評が飛んでいるが,国営競馬は本省としては相当慎重検討されているので,次期国会にこの法律案が出されるのでなかろうか,だが地方競馬はまだ民営移管の状態に達していないし,現状の儘で行くものと思う。

 二.の問題は控除率の引下げで競馬の控除率は3割5分の高率で競輪より1割高であるが,このことが競馬不振の一原因と認められており,本省としても第9臨時国会に議員提出により上程されているので,近く決定されることと思う。

 第三は中国地方競馬の運営上競馬組合の設立が望しいので,各県共本年設立することとし,研究努力していたが組合設立となると自然経費の増額となるので,現状の成績では組合移行は困難なためこの儘でゆき,時期を見て設立することに決定した。

 四.売上面について
 県営春季競馬は前年の不振を挽回しなければと第1回3月上旬,第2回4月下旬から5月上旬,第3回5月下旬に開催した,結果は先ず可成の売上高を示した。秋季は県共やら6県共進会やらで日取り決定に悩まされ,終に致し方なく福山競馬と期を同じくして開催の破目となり,馬の勧誘に苦心し,どうなるかと思って幕を開いて見ると予想外の売上を見せた,この成績は一つには競輪の中止が幸したと思われる。

 昨年改善した事項あれこれ

 建物の改善ではスタンド修理,検量所,下見の?の設置,審判台の新設を行った外,家畜診療所の新設工事を1月中完成の予定にしている。
 昨年から競馬奨励の趣旨で農林大臣賞の授与及び福引券が出せることとなり,競走馬に華をそえることになった。又岡山市が年4回の開催がゆるされる事になったのと,連勝式は6頭までにすることになっていたのが全面的に復活されることになった。ファンは矢張り連勝式に躍り連勝式に満足することによると思われる。

希望

 競馬は地の利の良いことが第一条件であり,しかも良い時期に良いレースを行うことであることは,競馬界の誰もが認めているのであるが,岡山競馬場は位置として良いとはいえないし,設備においても施設が古く改善を要する点が多い。将来は移転の問題も起るだろう。次にレースについての研究改善が行われて来たのは何より喜ばしい,今後優秀駆歩馬をもっと維持し,他の競馬場と日取りが一致しても開催出来る体制としたい。
 ファンの方がもっと法の主旨を了解され洗練されたファンとなっていただきたいし,騎手,馬主が不正の行為を起こさないよう自主的に努めるよう要望して止まない。地方競馬ももっと明るい感じのよい設備とし,和やかなファンの娯楽場として一日の慰安場となるようにもって行きたいものと念願している。

産馬

 午歳ならぬ寅年25年も愈々終った。昨年の産馬界の1年を顧みよう。馬は廏肥の給源と労力の基礎として農業生産増強のため一役をかっている事は動かぬ所である。今戦前の馬と対比すると馬産第一主義で手厚い保護を受けて来たものが,今日では嘶く声もなく過去の栄華の夢を追って見るばかり,秋にも肥える元気もないのが現状であろう。昨年の総馬数は5,328頭一昨年より僅かに増加しており農家戸数の約3%の割合である。一昨年発足した馬の登録も第3年目をむかえ,どうやら軌道にのって来た。先般種畜法の改正によって組織変更の手続を終り,本格的に乗り出すこととなった。現在391の加入者を獲得している。種雄馬は一昨年購いそびれたが,昨年は2頭を北海道から購入し上斎原と千屋に配置され,26年から第一線で活躍することになっている。種雄馬購入が萎靡沈滞の産馬に相当の刺激剤となったのは何よりうれしい。今後種雄馬は国の派遣がなくなって県で補充する外ないので種雄馬の悪いものは整理し,優秀のものを最少限度保持し,有効に拡大種付しなければならない。それには人工授精の適用も必要となろう。本年淘汰した種雄馬は高野の共進,豊田の山緑,西大寺の冠師及び勝山の厚龍の4頭で,現有種雄馬数は13頭に整備した。尚種雄馬管理者の負担緩和を図るため,飼養管理費と種付所維持費を補助し,馬産安定の一役としている。26年の計画として1月中,馬去勢講習会を岡山市で開催し,これが知識普及に努める外,北部4郡各1ヶ処を選定して生産育成について講習会又は研究会を催し度い計画でいる。
 種雌馬は種雄馬と共に馬増殖上の根幹であるので,本年においては優良蕃殖馬の充実整備のため,出来得れば北海道より共同購入斡旋を行いたい。その他登録事業の充実,人工授精の普及を計ると共に,畜力利用(育成,馴致,使役,畜力農具)について講習会を開催する予定である。(花尾技師記)

家畜衛生

昭和26年において重点的に実施する事項

 A 生産率の向上

 (1)人工授精の実施指導
 家畜改良増殖法にともない人工授精師の養成を行い,県下を全面的に人工授精を以って遂進の目標の下に家畜保健衛生所,団体営及び民営の人工授精所を計画的に実施し実践指導を行う。

 (2)蕃殖障害の除去
 蕃殖障害除去講習会の開催を実施すると共に家畜保健衛生所並びに人工授精所に於いて極力検出に努め発見したものについては徹底した除去を行う。

 B 予防衛生

 (1)牛のブルセラ病の検診

 県北部の常在地を重点とし且つ種畜検査の成績を勘案して種雄畜の勢力範囲内の種雌畜の検診を実施し本病に対し知識の啓蒙を図る。

 (2)牛の原生虫「トリコモナス」病検診
 種雄牛の勢力範囲内を基準として蕃殖成績不良地帯を重点的に検診を実施して撲滅をす。

 (3)馬の伝染性貧血の検診防遏
 競走馬を重点的に行うと共に県下一円に実施する。検査方法はヂデロチーテンの検出,トウマツアイツ氏血球計算法,白血球像,ウスターグレン氏法及びそれ以外の補助診断を応用し早期発見を期し吸血混虫駆除のためD・D・T撤布の実施指導と知識の普及のため講習会の開催を行う。

 (4)馬の流行性脳炎の防遏
 県南北部の密集飼育地帯の馬及び競走馬に対して予防注射を実施D・D・Tの撤布,吸血混虫駆除の実施指導を行いこれに附随して家畜脳炎について知識の普及を図る。

 (5)雛白痢の防遇
 県下の各種鶏場の採卵前検診を実施し,その陽性率並びに施設によって原種鶏場,普通種鶏場を決定し且発生鶏舎の消毒指導をなす。

 (6)豚コレラ防遏
 近時各県に散発しているのでその浸入を防止するため飼養密集地帯の予防注射を実施する。特に他県の隣接海岸主要飼育地帯に重点的に実施する。

 (7)牛の流行性感冒
 昭和25年北海道,東北地帯を除き全国的に大流行をみた本病は予防液が北里研究所で製造に成功すれば全県下計画的に6月下旬迄に予防接種する予定であるが対称的予防法として廏舎の保温即ち寝藁を多量に与え賊風(すきまかぜ)を防ぎ又栄養を良くし抵抗力増進に努めると共にポスター,リーフレットで知識の普及向上を計る。

 (8)牛疫防遏
 具体的防疫計画により本病防遏に努め,県下一般獣医師に対し知識の向上を計るため講習講話会開催の予定である。

 (9)寄生虫の駆除並びに骨軟症予防
 家畜保健衛生所単位に骨軟症並びに寄生虫に対し予防的知識の普及を図ると共に寄生虫病は定期的に糞便検査を実施する。

 (10)牛の結核検査
 乳牛及び種雄畜に対し年1回結核検査を実施する。

 (11)種畜検査
 種畜検査の際衛生検査として「ブルセラ」病,「トリコモナス」病,結核検査馬については馬の伝染性貧血,「パラチブス」病の検診を実施する。

 (12)気腫疽の防遏
 県北部常在地各村を巡廻予防注射を実施する。

 (13)其他
 緬,山羊の腰麻痺の予防のため予防注射を実施する予定である。
 農林省主催の基本講習会,綜合講習会特殊講習会に職員を受講させ技術の向上並びに修得を図る。
 家畜衛生試験所(県庁内)の設備の充実を図り家畜伝染病の病理細菌学的診断及び其他の試験を行う。
 其他家畜伝染病発生の際は速に予防的措置をとる。

 C 家畜保健衛生所の増設

 現在6ヶ所設置されているが,更に家畜の緊急増殖と改良の促進を計り,健全なる畜産の発達を期するため家畜の生産率向上と損耗防止並びに改良を目的とし昭和26年3月迄に赤磐郡周匝村,久米郡倭文村,勝田郡北吉野村に夫々設置される。なお今後益々充実を計り人工授精の実施に努め蕃殖障害の除去,家畜伝染病の予防措置に万全を期するべく計画中である。(石井技師記)

昭和25年に於ける衛生係の成績

 衛生係の元来の本務は各種伝染病の予防防遏ですが,遂次生産面にも相当力を入れる現在となっているがここでは本来の伝染病の防遏面について本年中に実施した主要業務について述べる。今年の新しい仕事としては阿哲郡野馳村に発生した炭疽及び真庭郡に発生した家禽「コレラ」と流行性脳炎の吉備郡真症1頭真庭郡及び御津郡の疑症夫々1頭である。
 その他年中業務として下記検診検査を実施した。

一.牛の結核病検診

  期間 自昭和25年1月12日
     至〃 2月14日
 検診頭数 2,793頭
 健康牛 2,649頭
 疑症牛 110頭
 病牛 34頭
  殺済のもの 27頭
  未殺のもの 7頭
 以上は乳牛全県下の検診頭数でその他に種畜検査に附随して実施した種雄牛の結核検査をしたものが約600頭で陽性牛の殺処分も当業者の認識と協力により非常に順調に進捗している。これが検診に対しては尚一層の徹底を期し牛属界から病牛を根絶しなければならない。一層の御協力をお願いする。

二.炭疽血清注射

  期間 自昭和25年1月30日
     至〃 2月21日
 阿哲郡野馳村大野部 26頭
 県共進会に於いて,牛19頭,馬3頭,山羊2頭,山羊3頭に対し実施している。26頭の注射は該地に炭疽が発生したためにその附近へ急拠実施したものであり,県共に於けるものは6県出品のものに対して農林省及び民事部からの指示に基いて実施したものである。

三.気腫疽予防注射

 自6月1日 
 至6月20日 間 210頭
 自7月20日
 至7月27日 間 134頭
 自7月24日
 至8月25日 間 906頭
 県共進会牛19頭,緬羊2頭,山羊3
 主として県北部に対し畜産サービスセンターたる家畜保健衛生所に於いて実施し,県共に於けるものは6県出品のものに対し指示に基いて実施した。本年はその発症は皆無であった。

四.豚コレラ予防注射

 自6月20日
 至6月29日 間 309頭
 自7月7日
 至7月13日 間 253頭
 自7月26日
 至8月25日 間 514頭
 県共 3頭
 豚の価格の低下に伴って昨年より注射頭数は減じたが発症予想地帯に重点を集中したので発症を見なかった事は幸甚である。

五.家禽コレラ予防注射

 自6月3日
 至6月5日 1,471羽 真庭郡
 真庭郡久世町に家禽コレラが140羽発症したため急拠したものでその蔓延被害の少なかった事は不幸中の幸と言わねばならぬ。

六.馬の流行性脳炎予防注射

 4月 248頭
 6月 525頭
 8月 132頭
 主として2回注射し発症予想地に対し3回注射を実施したが真症1頭疑症2頭いずれも死亡を出した事は非常に遺憾で今後共最も早い時期に自から進んで注射を受け1頭の犠牲をも出さない様に努めて貰いたい。

七.ブルセラ病

 7月 287頭 病牛7頭
 8月 253頭 〃 5頭
 主として種雄牛に対し実施したもので本病は現在の処治療も不可能とされているので今後尚一層検診を徹底すると共に合理的な方法により絶滅しなければならない。

八.馬のパラチプス

 県共進会に於いて3頭に対し3回実施したが指示に基いて実施したものである。

九.馬の伝染性貧血

 3月競馬 46頭 疑症馬 4頭
 5月〃  96頭
 10月〃 (前回) 151頭
 10月〃 (今回) 15頭
 本病は馬界に非常に広く存在し又これによる犠牲も非常に多いので特に馬を接進し又過労を荷する競走馬は3ヶ月毎に検診する事になっており民事部側も非常な関心を以って居るものでありますから今後尚一層徹底的に実施する。現在も有効検診症がないと競馬に出走出来ない事になっている。

十.雛白痢検診

 10月11月12月 88,500羽
(実施中につき推定を含む)
 本年は稍遅れ勝ではあったが全県下に亘り各種鶏に対し実施した。病鶏に対しては150円程度の補償金が12月中に支払われる予定である。

十一.トリコモナス症

 赤磐 142頭
 上房 2,516頭
 川上 1,706頭
 阿哲 420頭
 真庭 1,853頭
 勝田 115頭
 御津 239頭

 上に対し検診したが今後は人工授精により交尾伝染病は解決される事を希望する次第である。
 衛生係の検診及び予防注射等の業務は大体以上の如くであるが今後尚一層の徹底を期し伝染病の発生を見ないようにしなければなりません。ついては畜主の方の格段の認識と努力を切望して止みません。
 以上の外に本年は牛の流感の大流行を見,県関係に於て1万数千頭の検診治療を実施していますが今後共係る大疫病に対しては全力を傾注し防遏に努める覚悟で居ります。(題府技師記)