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虎より兎へ

津山畜産農場

△光陰矢の如しとか!!本年もはや師走の月を迎えるに到った。忘年会の計画もそろそろできているだろう。岡山においては忘年会計画で早々と部屋の予約をしておかないと計画が立たない様な状況だとか。下旬頃ともなれば虎年の名残りにふさわしい大虎,小虎の酔客が見られることであろう。

△当場も満3年9ヶ月の歳を重ね県の絶えざる指導と関係方面の御支援によって設備も順次整備し一通り纒った農場としての態勢を整えつつあるが日進月歩の世運と農村の実態に則応し当場がこの地に設置された使命を果すにはまだ将来大いに施設すべき幾多の事項がある。これは将来の努力に俟つの外なく年を重ねるに従って設備の拡張と内容の充実に努めたい。

△22年4月に誕生してから今迄まだ開場の御披露がしてなかったのであるが4月27日知事代理,県会議長,藤井前場長外御世話になった方々を御案内してささやかではあったが開場式を挙行出来たことは洵に嬉しいことであった。この時場員一同は更に感激を新にし一致結束して場の使命達成に努力する覚悟を致した次第であった。

△作州における和牛改良の殿堂としての使命を果すべく改良種雄牛の育成については鋭意努力を傾注した結果貸付希望は当場の育成頭数以上に達し何れも貸付先において和牛の改良に貢献し県より課せられた使命を完う出来たことは同慶に堪えない処である。種雄牛の取扱については従来色々と不便な点があったがこれも明年度から改善されることになるらしいのでこうなれば思い切って仕事が出来る様にもなると思うので一層優良な種雄牛の生産に努めもって本県和牛の改良に寄与したいと念願している。なお明年からは一定の種雄牛を設置して常時種付を行う予定である。

△ 作州における最近の乳牛熱の勃興は目覚しいもので当場としてもこれに対処するため種雌牛の充実を図るべく若干のものを淘汰し品質の向上を期した。当場飼育の種雄牛による人工授精をもって作州一円広範囲の乳牛の改良増殖を図るため種雄牛については常に意を注いでいるのであるが本年7月国有貸付の「サー、ガバナー,フエムコ,ローヤル」号が入場したことは何と言っても作州将来の乳牛改良上力強い限りであり県の配慮に深謝するものである。血統体型共に優秀なこの牛が明年から活動期には入るので最も有効適切に利用したい。11月には種雌牛の精鋭が1頭加わり種雌牛は7頭になったが,躍進する乳牛界に対処するには将来一層増加の必要があるので明年は3頭程度の増加を図りたいと思っている。如何なる年の廻り合せか,本年3頭出産したが皆「オンコ」ばかりでがっかりした。1つ本年は忘年会でも盛大(?)にやり又正月には景気よく(?)祝酒でもやって明年の出産には「メンコ」がよけいに出来る様祈りたいと思っている。然し今の懐工合では仲々そういう元気が出そうにもない。

△夏秋期に良質の草を充分に喰込ませ緬羊の健康を促進すると共に種付受胎の確実を期する目的で本年阿波村大ヶ山に試験的に移動放牧を実施したが,その成績は良好で確かに成功であったと思う。これらの御陰で本年は緬羊の健康もよいので明年は相当数の産仔が得られることと期待している。これと併行して明年は優良緬羊10頭程度を導入して更新を図り内容の充実を期すると共に羊毛加工施設の設置をなし農村婦人に羊毛の簡易加工技術の伝習を行い緬羊増加を推進したい考えである。近年養蚕とタイアップしての緬羊増殖方針により大分殖えてきているが,これを更に一層健実に発展させるため蚕業試験場と協力して養蚕残滓物の使用による仔緬羊の発育並びに採毛量等に関する調査研究を行い一般の指針と一致したいと思っている。

△養豚,養鶏,山羊についても農村経済の推移に伴いその需要は増加しているので当場としても遂次充実を期する方針である。

△飼料統制は殆んど全面解除となったが飼料価格は向上の一途である。これからの自由競争時代には「よい物を安く」供給するものが勝利を占めることになるので統制時代飼料がなかった時とは別の観点から将来は自給飼料の増産利用が必要だ。この意味において当場としてはその設立の趣旨に鑑み5町有余の農場を最も有効適切に利用し自給飼料の生産と有畜営農の実践に供し良好の成績を挙げてきたが明年は更に一層この事業を推進して行く方針である。ただ経費僅少のため農繁期にも充分の労力を投入することができないのと更に2町歩の耕地を必要としながら開墾が容易に進渉し得ない実情にあることは洵に遺憾である。出来得れば明年度は相当額の予算をいただいて,既定計画の開墾を完了したいと念願している。なお明年はこの外に一般有畜農家の指針となすため従来野草の調査並びにこれを用いての飼養,水田(湿田)における飼料作物の栽培,飼料作物の輪作栽培牧草の品種並びに混播試験等を行いたい予定である。

△寅より卯へ!!兎の年…畜産の年だ。
初日の出を迎え新進の意気をもって力強く進みたい。

〇働く農場
   県下農家の道しるべ
〇丸い輪を
   心でえがいて明るい場に

関係各位の変らざる御支援を切に御願い致したい。(12.2)