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羊買いの記

加本技師

 新聞で濠州羊毛がふだんに輸入される。今年の冬は純毛の服がはんらんする。………
とひと頃報じた影響で昨年の緬羊の高値がガタ落ちとなり一頃は略々1/4位の価格に迄なった。従って県下でも緬羊を飼って毛を採ろうなどと考えるよりは毛糸を買った方が手っ取り早いと言うのか飼養熱はサッパリの有様で東北方面で仔緬羊のせり市が初り良いものが安く出揃っている時には見向きもされなかった。ところが濠州羊毛が意外の高値となり輸入量が少なくなる。国内での需要は予備隊の装具等のため大口に割かれると言った按配で又晩夏から秋口頃にかけて緬羊の高値気配が伺われた。この調子では冬期になれば羊毛の高値必至だから早く導入を計ろうと八方手を尽くしてみてもポツリポツリの呈でさっぱり食いつきが悪い。おしまいには無理強いの勧誘でやっと8月に2車程の数を揃えて導入の段取りとなった。夏の動物輸送程危険な時期はない。殊に緬羊となれば密生した毛皮に被れている上,1車内に数十頭押込めて山形から岡山と4−5日も運ばねばならない。万全を期しても昨夏は4頭もの損耗を出したので此度は更に細心の注意を払い輸送途中車内の温度を下げる為絶えず氷を買い込んだりした。それでも尚全部103頭中1頭が熱射病の偽斃死したことは今後夏期輸送に対する工夫を要するものであろう。第2回の購買は前回と比較にならぬ申込みで押すな押すなの盛況と言おうか……締め切っても後から後から殺到して遂に予定頭数をオーバーする程となった。ところがこの時期が既に11月,うなぎ昇りに羊毛,毛糸が上がっている為に前回に比べて1頭当りどうしても千円高となっている。然かも良い緬羊はすっかり売れているか残ってるものは不売品とあって我々の入手可能なものは先ず三流品と言ったものでなければ集まって来ない。注文の数を揃えるのがやっとこで合計164頭もようやく出来たと言う有様だった。
 配布先で色々と苦情もあろうと思われたが時期が遅すぎた為万止むを得なかった。
 第2回の輸送は途中の心配はなかったが恰度野菜の出廻り時期と特殊用務の為の絶対的な貨車数不足に災されて配車が極めて不円滑で色々と手を尽くして間に合わせ全貨車共2階送りにして輸送した。2階造りにする材料費は材料によるが3千円−5千円位で済むので1車(ワム15トン)の輸送費1万8千円とすれば概ね1万3千−4千円は節約出来る。大体ワムで80頭は積めると思う。
 購買に当って断片的に所感を述べてみよう。

 私は勿論県吏員として家畜の売買を斡旋する時に常に感ずる事だが売り方に立った場合は買い手の気持ちになって誠意をもって資質に応じ価格を定め,又輸送の問題等を当ってくれる程買い手にとって有難い事はないがややもすればものをごまかし不当に高く売りつけると言う悪徳商人の様な類もないではない。然しこの点では山形は極めて良い方で前後2回に亘って先ず買い方の我々の立場も便宜もよく理解して順調に購買出来たことを感じている。
 この点は勿論山形の農民の純朴性から現れている県民性とも考えられるが当岡山県民も売り方に立った場合他県の得意先に好印象を与える売り方をすることに努力しなければいくら販路拡張の諸施策を目論んでも効果がないことになると思う。
 今1つは県の関係者と非常に協調している点でこれは考え様によっては従順過ぎるとも思われる程で県,団体,農民との間にゴツゴツした感じとか反目とか優越的態度とか言った風が見られない。テンポはのろいが確実に仕事が運ばれていくのもこうした協力の故だろうとも感じられた。又山形は農業県ではあるが営農規模は零細であり又経営形態に多角性が乏しいとも見られたが畜産の浸透は緬羊を初め乳牛,馬,牛,アンゴラ兎等仲々普及して居り農家の現金収入を助け又純朴な県民性が愛畜心を育てて将来益々発展性を期待されると感じた。