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馬の飼養管理

石原和夫

 皆様の多年にわたる経験によりその地方の自然的環境とか,人為的環境に応じた飼養管理をされているので,今更私が?々申し上げる必要もないと思いますが,古くからの慣習になれ,間違った飼養管理をされている場合も時に見受けられるし,又多忙の為の手入不足により疾病損徴をつくり獣医の来診を乞う様になり勝ですから,ここに一般的な心得を申し上げ参考に供します。

 ─飼 料― 農家は出来るだけ購入飼料を少なくし自家生産の耕作物,野草,自然収穫物を用いて馬糧として経済的に飼養することに努めることです。即ち生産飼料の状態を考慮して配合の適切を計り,又農産物の残滓物には栄養価値の高いものが少なくなく,その多くは必ずしも馬の嗜好に適しないものがあるから適宜のものと配合或は適切なる調理を加えて,視,触,嗅,味の改善に努め飼料価値を高めるよう着意がなければならない。
 飼料の判別は先ず視覚次で触覚,嗅覚味覚による。馬が上唇や舌で採食するとき先ず臭を嗅ぎ,次で咀嚼するとき味を知るものです。嗜好については,緑色を好み,香では若草のような緑臭を愛好する。又味では甘味を好むことは人と同じです。穀類などが変質すると臭味が変るので,これを水洗して与えねばいけない。又水槽が油臭のため水飲しなかったり,飼槽に腐臭があることによって採食せぬがこれを清掃すると同じものでも食する様になる事実は,味より臭の方が食欲の重要な役割をしている事を示しています。
 嗜好を増すためには味の転換が大切で,単調な飼料を続けていると食欲が落ちるもので,特に濃厚なものほどその傾向が強いものです。若しも飼料の転換が出来ぬ場合には,調味料である酢や味噌などを加え,又砂糖や食塩などを用いて味を変えることが効果的です。元来,馬は草食動物であるから塩分が生理的嗜好物です。草食は加里摂取の過剰を来たし,加里は循環系統に必ずしも良くは作用しないので,これを食塩が外へ運び出す大きな働きをしているのです。日本人が好んで塩分の多く含んだ食べ物を取りたがる理由も,このためです。
 天高く馬肥ゆる好季節ともなれば草の実が成熟するので,これを草と共に採食血となり肉として肥満し,やがて冬の枯草期に入るのに備える。自然的環境を考え草の実に等しい穀実が馬の嗜好に適するのであるが,草が常食で穀実が副食であるから穀実を主食とするときは,種々と故障が起き又草が不良のとき或は不足するときには完全な成育乃至健康の保持が出来ない。諺に「牛飲馬食」と言い,馬はいかにも沢山食べるように思えるが,馬の胃は体に比し甚だ小さなもので10乃至15リットル,平均5升位しかはいらない。従って牛程一時に多量の飼料をとり込むものでないから,日量は3回乃至4回に分与し(仮に朝,昼,夕,夜の4回とすれば,3,1,4,2の比率位)で,消化器の容積に程よいかさを与えることが肝要です。このかさを充し得るものは草より外にないのです。穀実を胃腸が充すだけ喰うと食い過ぎとなり命までなくなることがある。それ故穀実をやる時には草類を充分与えることが必要である。
 本邦に於ては稲藁が粗飼料の大部分を占めるものであるが栄養素の不足を招くのみでなく,ケイ酸,粗繊維を多量に含み,徒らに不消化成分の増加となり,消化管の障碍,栄養状態の不良,便秘等を招く虞あるのでこれが栄養価増進の1つの方法として藁の解化法を講ずるようになった。此の方法には単に食塩水を用いるか,或は苛性曹達,苛性石灰で処理する石灰藁及び曹達藁がある。その製法並びに注意は「畜産だより」の5号10頁を参照下さい。給与されることを特にお勧めします。

 ―水 与― 水は清潔なものでなければいけない水分は馬体の重量の10分の7を占め,生活上極めて重要で特に冬期乾燥飼料を給する時,労働後に於ては,屡々水分の不足を来すから,適時充分に水与することです。冬期に温湯を与える者もあるが,これはかえって馬を弱くする結果となるものですから寒冷(氷の入った水の如き)なものは不可ですが,でなければ水を与えてよろしい。水の適温は摂氏13乃至15度内外を最も良いといわれています。

 ―廏 舎― 馬を保護休養し飼養管理を便利にし,疲労をいやすところです。場所は許す限り放飼に適する自由逍遥場(日光浴―骨軟症,予防治療上にも必要)を設け,これに廏を連接し,天候,気温に従って馬が自由に出入し得るよう開放的なのが強健性を増進するためにもよいことです。廏舎を密閉するのはかえって害が多く,開放的のは寒い時保温のため体力の消耗はするが,粗飼料の給与さへ完全に行えば別に心配なく栄養も失われない。

 ―敷 藁― 厳寒の候,雨雪の多き時季のため放置するか又採肥の都合上,汚染藁の上へ新しい藁を増す習慣が一般によく行われいる。(但糞のみ取り出す)これは保温良好で,馬は常に横臥休息できるが,ややもすれば糞尿に汚染,湿潤になり下層は醗酵して温室的環境となりその上悪臭を発散し不衛生不愉快な状態となり,春先農繁期に事故(骨軟症等)の多発する一因も,ここに潜在するといえる。もし敷詰をするのなら尿の流通の良い籾穀,玉蜀黍,稈類を利用すること,仮令廏肥の生産が飼育の目的の半面であるとしても廏肥舎で堆肥をつくることにしてもらいたい。

 ―手 入― 労役後直に廏に入れることは放熱,換気(馬は特に暑熱と湿気に弱い)に不利であるから短時間でも馬具装着部,発汗部,四肢等を藁束で按摩し,蹄の手入れを忘れず実行しなければいけない。そうすることが馬の労を労うことになる。又同時に馬体を点検して疾病,損徴の早期発見につとめ,これが予防保護に心掛けることが肝要です。
 以上くどくどしく一般的なことを申し上げましたが「咽喉もと過ぐれば熱さも忘れる」主義でなく,農閑期,農繁期を問わず適切なる飼養管理をし又罹患の時の馬に対する神すがりの気持ちをお忘れにならぬ様,ふだんの愛馬心の涵養と馬事について御研究を望むものです。