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昭和26年の岡山県畜産に対する私の希望

参議院議員

島村軍次

一.朝鮮動乱の推移如何に係わらず本年は自立経済を樹立して,講和の実現を期し度い見地から先ず資本の蓄積は畜産からの「モットー」で県民に呼び掛けて貰いたい。
一.昨年行われた7県共進会の優勝を県内に保留して「畜産岡山」の声価を益々挙げて貰いたい。
一.食糧増産は「山野に飼料」を植付けてのスローガンで,肉,乳,卵を県民に豊かに供給する基本策を樹てて貰い度い。

参議院議員

江田三郎

 いろいろ希望があるが,その大前提として,子供に家畜に親しみ,畜産製品を食べることを教えたい。そのため学校に必ず小家畜を飼わせたい。そこから,雑草の改良のような基礎的政策が生きてくる。食生活の改善もできる。少々夢物語になるかも知れぬがこんなことを考えている

県会議員

川上光市

一.種雄牛の増設
 畜産を取り入れた農業がより一層農業経営を合理化するものであり,畜産の改良増殖を計る必要がある。このためには通有的欠陥を補正するに足る体型,資質,血統,能力を具備した優秀な国有,県有等の種雄牛を増設されることを望む。
二.生産費の軽減
 畜産生産物の価格を安くすることは畜産発達の根本原則であり,まず家畜飼料の自給を計るべきである。県は自給飼料生産対策により一層力をそそがれたい。
三.販路の拡張
 岡山県民は県外より購買に来県した客に対し金銭取引が終れば,その後輸送等に対し非常に不親切であるときく。これは販路の拡張をはばむものであり,今後県畜連,郡畜連等
主体となってあっせん員を設け,より一層販路を拡張すべきである。

真庭郡富原村農業共同組合

組合理事長 伊達知典

一.農村振興の原動力たる畜産の在り方はいろいろありましょうが,農家経営をより畜産化してゆくことの政策を希求します。
二.経済動物であるから県畜連,郡畜連にのみ依存しないで,もっともっと他県への販路を拡張するようにして貰いたい。(経済行為をしろとの意ではない)
三.県有種雄牛を少くも現在の3倍程度にする,その為の財源は農家が支出してもよい。

苫田郡香々美南村農業協同組合

組合長 田口朔太郎

一.畜産主体の農業経営方式の確立
 普遍的に畜産主体営農は出来ない畜産地帯の適正規模農家を指定して畜産主体営農の方式を指導すること。
二.和牛飼養農家の畜産利潤化観念への転換
 “百姓をすれば牛を1頭飼わなければ”と1農具としての和牛繋飼の観念を180度に転換しないと農業資本の重要な部分を占める牛にかけた資本利子も押さなくなる。
三.畜産指導機関の理念の統一
 県畜産課としては,県全体の畜産開発の理念を統一して,県畜連,郡畜連並びに県の施設と県農民代表と打って一丸とした改善方式の統一と改善努力の分担との明確を期せられ度い。

小田郡新山村

船橋恭四郎

一.岡山種畜場の内容充実に就いて更に一段の御努力がねがい度い。比の実を挙げるためには当局並びに後援会,その他関係団体等特段の協力を肝要とする。
二.特に乳牛については改良増殖は申す迄もなく肝要なことにて,これを達成するために蕃殖上の知識普及並びに飼養管理の適否によりて蕃殖に及ぼす影響等研究調査の方途を講ぜられ度い。上の項を実施するについては岡山種畜場を最高度に活用せられたい。差当って上の2項は今年度に勇ましく歩武を進めて頂き度いものであります。

英田郡江見町

松本 結

 従来の経験からして考えて昭和26年の県の畜産政策は最もめぐまれていない地帯へ重点的に力を注いで欲しい事,言い換えれば「レベル」の低い地方を向上さすことであるそれから県は地方の団体を援助してそのことに依り畜産の発展を図る。要するに地方団体を圧するのでなくて握って,団体をして実際の仕事をさす様にする。

小田郡笠岡町富岡

坂本節夫

 昭和26年初春全国乳牛共進会が催される年に当り乳牛に於いては日本最高水準を目標に県は指導,酪農家は改良すべき年なりと信じます。

苫田郡加茂町

木本 衛

 牛の体型資質に於ては昨秋の中国連合畜産共進会では岡山県が好成績で申し分がありませんが,更に一層の向上には工夫と努力を要しますがこの体型と資質を一般牛に及ぼしたいものです。県下至る処,かの優秀牛で飼育管理の行き届いたものが充実される様な時代が望ましいものです。
 綿羊が相当に行き渡り最早試験時代は過ぎた様に思われます。今日の様に洋服時代には看過すべからざるものと存じます。更に一層の飼育こそ望ましいものです。

久米郡福渡町

吉岡隆二

 岡山県畜産200年計画を樹立して自給度の高い県としたい。その計画は次の如くである。
一.本県の現在の家畜の頭数は家畜単位で約12万頭であるが200年後に45万頭にしたい。
二.山林の全面積は約50万町歩でこの半分25万町歩に治山治水の問題を解決した飼料林を造成して25万頭飼いたい。
三.耕地の面積は田畑合わせて約11万町歩で,雑種地を加えて栽培法を改善して,ここで20万頭飼育したい。
四.畜種は乳牛を家畜の中心に置きたい。
五.以上の計画を完成するためには互いに協力し誠実を以って推進すること。

邑久郡鶴山村

大崎綾太

一.養鶏の振興が誰のために,又誰のものであっても兎や角文句を言う筋のものではありますまいが,せめて農村のものとして完全に組織化された合理的な営農型態の1つとして,ガッチリ地についたものになる様本腰を入れての指導と育成が望ましいと念願して止みません。でなければ投機的商略的資本力のために飽くなき中間搾取の好餌とされて,決して農村のためにも,国全体のためにも寄与する事のない悲しむべき結果を招く危機に直面していると思うのは,私独りの杞憂ではないと信じます。
二.折角数に於いて充実された種鶏の質の向上のために1昨年から計画された3段構えの改良施策が種畜場の拡充完備によりこれを充分活用して是非本年は実現完遂したいと思います。

津山市津山口

山本友三郎

 最近種雄牛を官公庁又は団体有とすることの政策が取られる結果,次第に民有のものが少くなり,国県有のものが多くなって,そのため立派な種雄牛が揃った様に一応は思われるが,その実態はどうかと言うと,之は問題で,率直に言うならば殆んど個人有のみであった時代よりも地方によっては何だか牛が低下したのではないか,又牛持ちにも熱が失せ,活気が乏しくなったのではないかと思われる様な気がせんでもないそれはなぜかと言うに,官公有の貸下牛は個人有のものに比べて飼育管理の上に,何と言ってもまことの熱意が加わらないのが当然,従って共進会などに出品して優劣を競うと言う様な意欲にも欠けて来るなどのことが主因をなして居ると思う。だから私は県としては県有種雄牛の貸付と言う様な莫大な経費を払ってしかも効果の少ない,斯うした行き方は改めて成るべく民間個人有として優良種雄牛購入のあっせん(鑑識眼の高い人には自分で購入させる)や,またできるならば助成金と言ったようなものをだして,これを助け,各自をして自発的に趣味的に相互に競争をさせねばならぬような方向に導いて行くことの政策を取ることが県としても一番金もかからないし,しかも効果的な所謂賢明な方策ではないか。競争意識の欠けた処にものの進歩発達は有り得ないと言っても過言ではないと思う。
 以上は私多年の持論であって今も尚変らない。今私は現今の岡山県の畜産の上に立って遙かなる過去よりの記憶を辿り彼之比較考察した時に矢張りその感を一層深うするものであります。
 人工授精の如きも必ずしも官公や団体が巨額の経費をかけた立派な設備の下に行わねば成績が上がらないと言う訳のものではない。
 成る程宏壮な建築に完全な設備をしてやれば如何にも観ずら,聞面は立派ではあるが,先ず牛の飼料費をはじめ,その他の管理費や人件費や実に莫大な費用を要し,結果収支のバランスが取れなくなるのではないか,又経費などの関係かと授精所の個所を少なくすればその担当区域が広範となって自然手が届きかねる様な場合ができるために,授精の時機を逸しさせる牛もできて,却って増産の反対に減産に導く様なことも考えられるから,成るべく小区域に極く簡易な授精所を設けることとし,そうしてそれは民間の種雄牛所有者の手に委ぬべきである。又そうすることが,より多く目的に副う結果となるであろうことも私は信ずるものであります。
 以上が種雄牛政策に関する私の希望であります。

岡山県北部酪農組合

工藤恒三

 畜産の技術者は畜産を,農事の技術者は農事をと,技術者は偏在する傾向があり,ために農家とピッタリしない所があったのではなかろうか畜産も農業経営の一環であり,農業経営に立脚した岡山の畜産でなければならない。作州の如き立地条件の農業に於いては畜産を主とした農業経営方式を取らなければ,農業が成立しない事も亦周知の通りであって贅言を要しない所である。が,現実に於いては?農家は水稲なら水稲,牛なら牛,と単独の事を考え採算が取れるとか取れないとか,土地の条件,労働力の安ばい,資本の程度,等により綜合生産の増大を考えなければならない。耕地に飼料を栽培し,草生を改良し,山に草を作ることに畜産人は一段と研究指導し実践すべきではなかろうか,岡山県飼料施設補助金交付要綱が県公報に公示されてあるが大いに利用すべきである。而して作州農業の綜合生産の増強を計るべきである。
 作州に於ける酪農も,月を追い年を追って漸次頭数も殖え,経営も合理的となりつつあってその健実さを増して居るが未だ二輪車酪農の域を脱する酪農家少なく,今年は耕種の改善,飼料の自給,飼料の栽培方法蕃殖の問題,廏舎,廏肥の改善,牛乳の取扱等生産費の低下,経営の合理化について色々のことを研究する機会を酪農家に作っていただき又研究していただき,共に大いに研究し一日も早く綜合生産の増強を計り安定酪農へ,四輪車酪農へと脱兎(兎年)の如く驀進したいと思う。
 酪農組合としても合理的運営を期するために生産指導面に更に一段と関心を持っていただき,購入飼料の斡旋,乳牛の導入等を実施し生産の増加と製品の販路拡張,確保などを計るよう努めて頂き,県に於いても将来の酪農は山へ山へと寄る原則により作州の酪農に一段の御助力を願いたい。

浅口郡玉島町

議会議員 大本藤吉

 国を挙げて食生活の改善を計らねばならない時に当り畜産県で有る我岡山県としては先年全国に誇る活気的な種畜場の大改画が行われ,内容の充実しつつ有る事を年頭に当りお祝い申し上げますと共に全県民の福祉増進に努められん事を期待致して止みません。
 県畜産に関する希望と言えば大きく聞こえますが,各農家に取って尤も手近に取り入れられる養豚に付いて話して見たいと思います。中小家畜を各農家の副業に織り込んで行く事は,農業経営合理化の一助と成る事は今更申し上げる迄もございません。中でも肉の製造機械とも言われて居る豚は,飼料の利用性に富んで居って,極めて生育力が盛んで有り繁殖力が旺盛なるが故に,品種の改良と優良仔豚の生産は之又極めて大切なので有ります。
 幸い我が岡山県では種畜場を基本とした県指定種豚場が尤も普遍的に24ヶ所設置され,
品種の改良と優良仔豚の増産に努め,各農家1,2頭の飼育は台所や農産物の廃物利用に依り,尚飼料化を考える可く奨励普及を致して行く仕組は出来て居ますが,最初は何等かの予算を持って打立てられた種豚場も補助制度は打切られ,就中統制飼料の配給を受けて少しは恵まれて居ましたが,現在では数頭以上を持って品種の改良と優良仔豚の生産に努めんとする時種豚場の皆様と共に家畜愛に依り自己の犠牲を払わなければ其の実は挙りません。
 比時に当り県当局に於かれては,農村の実情を察知せられ種豚対策費の少しを組んで戴いたことは当を得たことと思って居た処,畜産税の通らなかった事に依り其予算を削られたことは甚だ遺憾に存じます。有畜農業奨励の面に対し,経済部長始め畜産課長の責任大いなるものが有ります。社会生活の原動力と成って行く農家への還元政策を県知事殿へ畜産便りを通じて切に御願いする次第であります。
 終りに望んで種豚場の皆様と共に本年こそ愈々心を新にして再出発に向わん事を誓って止みません。(県指定種豚場)