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冬期に於ける豚の飼養管理

岡山種畜場 池田森男

 一般に豚は他の家畜よりも強健であると考え季候に対する処置が放漫にされる傾が有るが,成豚が夏期に於いて暑気に極めて敏感であるのに対し,仔豚は寒気に極めて抵抗力弱く冬期には充分注意する必要がある。豚の適温は摂氏20−23度で,摂氏10度に下れば生活維持に要する熱量(エネルギー)は適温の時の1.4倍になると言われ,それ丈の栄養分が体の維持に余分に必要となり発育,肥育,泌乳等が阻害される事になる。

一.管理

 本邦の豚舎の多くは開放式である為寒冷な風が吹き込み易い。冬期には三方を藁蓆等で被い,床面附近の賊風(隙間かぜ)を厳重に防ぎ,南面は開閉出来る様にして日中は日光と清浄な空気を入れ夜間は閉じる様にする。
 外気の気温よりも賊風に依る影響が遙に大きい。又地方に依っては冬期全く閉鎖してしまう所が有るが後に述べる理由に依り日中は必ず日光を入れる様にしなければならない。更に豚舎内を清潔に保つ事は年間を通じ大切な事であるが,特に冬期に於ては成る可く毎日汚れた敷藁を取り出し乾燥した清潔な敷藁を充分に入れる事が大切である。湿潤な敷藁は舎内の温度を下げ,特に幼豚に於てはその為下痢を起こす事が再々有る。比の為豚が排泄した尿が直ぐ舎外に流れる様に床面を軽く一方に傾斜させて置くと尿が室内に溜まる事が無く敷藁の汚れを著しく減少させる。次に手入は大切な事で手入に依り豚は爽快となり,又運動不足の補いにもなり新陳代謝を促進して発育,肥育,泌乳に好影響を与え,且管理者に馴れ管理が安易になる利点がある。運動は出来るだけさせる事が必要であるが,酷寒の頃には日中晴天の日にのみ行うが良い。運動場で運動させる事に依り日光浴をし土を豚喰し,四肢を強健にし,妊娠,肥育の際に強健な体特に肢を作る事が必要である。(交配に際し雄豚を負重出来ない豚さえ多いからである。)運動場は排水の良い所を選び,必要ならば暗渠を作って排水を図り乾燥させる様にしなければ豚は常に泥まみれになって寒さを増し,又地上に横臥するのを嫌って一日中歩き廻る様になる。冬期は雨雪に依る土地の水分が蒸発し難いから特に留意すべきである。

二.飼料

 飼料は冬期は消化し易い栄養の多い物を給付し,必要以上の水分を飼料に混合しない方が良い。飼料の外に1日2−3回体温程度に温めた湯を好む丈飲ませる飼料は煮て与えるか,又は温湯で練って体温程度の温度にして与える事が好ましい。冷い飼料は食欲を減じ,且採食した飼料を消化器内で体温に温めるのに余分の熱量を消耗する事となり,又下痢を起し易い。これ等は幼仔豚に於て著しい。又時として妊豚を流産させる様な事さえ有る。青野菜,青草の給与は冬期では野草の為特に必要であって,大根,カブラ等の葉を生の儘与えると良い。野菜類の給与の大きな目的はビタミンCの補給と整腸であるから一般に行われる様に野菜類を煮て与えるとその目的は半減してしまう事になる。

三.種付

 11月末から2月上旬にかけては種付の適期である。豚の妊娠期間は平均115日であるから3月末から5月末迄に分娩する様に種付の時期を定める。寒期及び暑期の分娩は仔豚の発育及び母豚の分娩に依る衰弱に悪影響を与えるから3月彼岸頃から5月末頃迄に分娩させると仔豚の発育並びに母豚の衰弱予防に好都合である。妊豚には特に保温に留意し賊風を防ぎ飼料も冷たい物を与えぬ様に注意しなければならない。

四.分娩

 冬期の分娩は前途の様に仔豚の発育が容易でないから努めて避く可きであるが何等かの理由に依り分娩させる時には分娩の時期を誤らぬ様に留意し,夜半の分娩を見逃して寒気の為に斃死させたり,母豚に依り圧死させたりしない様に注意する事が必要である。分娩すれば直ちに乾いた布で完全に拭き臍帯を処置し柔い藁の袴を敷きその中に湯タンポを入れた取上箱の中に収容し仔豚を温めてやると後の発育が良い。始めの1週間特に3日間位は母豚に圧死される恐れが有るから充分注意する必要がある。これを防ぐ為に産室の一隅に末口3寸位の丸太を2本横に渡して母豚が入れぬ様にし、更にそのかこいの中に取上箱を横に倒し中に湯タンポを入れると仔豚は哺乳の時以外は箱に入って眠る様になる。湯タンポの代わりに取上箱の中に40−60Wの電球は丈夫な枠と金網を張り吊り下げると簡単に保温が出来る。尚入口には麻袋等を下げ一部に出入口を設けると良い。

五.疾病

 冬期に於ける疾病の予防の多くは呼吸器病である感冒,肺炎,豚疫等である。特に幼豚に於ては1度数日に恒る疾病に罹れば治癒困難となり,幸に治癒しても著しく発育を阻害して快復困難となり後々迄も禍するから特に留意し疾病の徴候が有れば直に手当をするか又は獣医に診療を受ける必要がある。感冒,下痢等は保温,飼料に留意すれば容易に治癒させる事が出来る。単純な下痢に対しては早期に少量の木炭末又は稲藁の黒灰を減じた飼料に混じて与えると直に治癒する。下痢を長引かせる事は非常に危険である。又春仔に比し秋仔は寄生虫の被害を受ける事が多い。然し他の多くの疾病同様栄養状態の良い強健なものには寄生少く,又例え寄生してもその被害は少いが虚弱なものには多数寄生し衰弱させるから仔豚を健康に育て抵抗力を作る事が第一である一旦寄生を受けた時は1月に1回位駆虫剤を与える事が必要である。被毛巻縮し発育不良な仔豚は寄生虫の疑が充分にある。
 以上簡単に冬期に於て特に注意すべき点を述べたが養豚に於て最も大切な事は販売の時期の選定である。多数飼育の場合は年間平均して出荷出来るから欠損を招く事は少いが農家に於て1−2頭飼育する場合価格の変動の烈しい豚の出荷はその時期の如何に依っては大きな欠損を作り爾後の養豚意欲を失ってしまう場合が少くない。一般に農家に於ては旧正月の前後に出荷を好む傾向が強い為例年2,3月の頃には相場が著しく低下し昨年の如きは大暴落を来し多くの養豚農家が大打撃を被った。本邦に於ける豚の価格の低落は決して長続きしないから相場が下ったからと言って売急ぎをする事は厳に戒めなければならない。
 従来本邦の養豚の発達しない原因は投企的に行う事に大なる原因があるのであるから不当に大なる利益を求めて投企的に行う事を止め着実な収益を上げる事に努力し重要な農家の副業として発展させなければならない。比の為農家に於ける豚の出荷の時期を再検討して仔豚の購入分娩,及び肥育開始の時期を誤らぬ様にする必要がある。