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岡山県の養鶏

 戦後の跛行的畜産の発展も生産費の激騰に反し,生産物の割安に直面して畜産の危機すら叫ばれる時期が来た。専業畜産家といわず有畜農家といわずいままで辿って来た戦後の復興畜産形態を充分反省し,ここらで根も葉もつけてどんな台風が来ても動じないだけの経営形態にもって行きたいものである。
 養鶏についても全く同じで鶏を飼いさえすれば儲かるものと考え自個の農業経営規模なり飼料事情について全然考慮せず一途に飼養羽数の増加を図ったように思われる。
 然し家畜の増加することは食糧の総合確保に偉大な貢献をもつことは御承知の通りで栄養豊富な畜産物の消費により所謂一升飯党を根絶したいものである。
 世界各国の状況をみても畜産の発展しそして畜産物の大消費国は文化国家であり列国に比して優位にある等の点より考えて我が国も畜産面より考えれば戦後この線に近づきつつあるといえよう。戦後の畜産復興において最も早いものはなんといっても養鶏であり,養鶏生産物中特に卵は国民の日常の栄養食品としてなじまれ国民生活の必需品の域にまで達している。
 それでは本県の養鶏状況はどうか,その過去及び現状を考えて見る要がある。
戦前においては関西以西きっての養鶏県として自他共に許し,その飼養羽数実に百数十万を擁したのであるが戦時中の食糧事情の逼迫により,養鶏飼料の殆んどが食糧に供されその上鶏肉出荷の強制等により激減に激減を加え,終戦当時は種鶏の維持すら危殆に瀕した状況になったが前に述べたように戦後の畜産黄金時代の到来により回転の早い養鶏に着眼された上,肥料不足がこれに拍車をかけ,早急に戦前の地位を取り戻すことができ又その質においても格段の進歩をとげ県下はいうに及ばす本県移出の雛を愛育される他府県の養鶏家に対し偉大な貢献をしていることを断言してはばからない。
 全国主要養鶏県の飼養羽数は「別表」の通りで,本県は数においては第8位にあるがその質においては全国に冠たることは疑いの余地がない。
 本県養鶏の質的向上に何が招来したかその改良組織の実態を分析してみよう。
 県には養鶏審議会があり,この会には養鶏に関する高度の知識や経験のある者の中から適任者を選び,知事の任命した委員が25名おり,これら委員は鶏の改良はもちろん県の指定種鶏場の基準,組織を始め本県養鶏振興の具体策等鶏全般に亘り真撃な研究討論をして種鶏資質の向上に不断の努力をしている。この会は知事の諮問に答申すると共に意見具申をするのであり,県は右に基づいて具体的実施方法を研究の上養鶏家の皆さんと一緒に鋭意資質の向上に努力しているが,養鶏事業を左右する最重要事項はなんといっての養鶏を改良し,資質優良な雛を配布することである。種鶏の改良については専門的な知識と経験を必要とするので審議会に改良部会を設け県下有数の知識経験者をもって組織し改良の方法及び改良された優秀種鶏の浸透方法を研究している。以上の審議決定によって県は指定種鶏場を次の段階とし,雛の配布を円滑にすると同時に改良された種鶏よりの生産雛を県下はもちろん全国に配布することに努めている。

 種鶏場段階別雛配布の系統

国立種畜牧場 県種畜場→県指定原種種鶏場35戸系種鶏約7,000羽→県指定種鶏場659戸約10万羽→一般養鶏家

 鶏の改良は困難な事項であり養鶏家の協力が肝要であるので,県の種鶏検査を厳にすると同時に養鶏家も不断の改良に専心している。県下各地に改良を目的として研究会や講習会が定期的に或は随時に開催され,その度数も漸増の一途にあることは以上の事実を裏書きするものでその進展も大いに期待される。
 昨年一昨年はアメリカよりの輸入種卵種雛も血液更新に或は改良に大きな役割を果たしていることも特筆に値する。
 鶏の改良及び雛の配布系は以上の通りであるが,これときりはなして考えることのできないものに孵卵業がある。
 本県の孵卵事業の現況は孵卵業者41名,その収容能力実に150万卵に及び本年の生産鑑別雌羽数は120万羽以上となる見込みで県内需要と県外移出と相半するだろう。これらの初生雛は前述の県指定種鶏場において生産され,厳選した種卵から生産されていると相埃って全国の孵卵業界において最優位にあると同時に質的に安心して飼養願える強健な優秀雛であることを確信している。
 次に養鶏そのものの本質について考察してみたい。
 養鶏事業の特異性からいっても又現下経済の動向からしても特に養鶏には是非強固な団体的活動の必要は誰しも肯定できる。この点については最近本県養鶏団体の強化策が協議されているので近くこれが新発足をし,養鶏振興の一大原動力となることを渇望している。
 現在の団体組織は次の二本建てとなっている。

 県販連―単位農協―養鶏家
 養鶏協会―郡市単位程度に支部―会員(養鶏家)

 即ち団体においては県販連の販売を主たる業務とするものと,鶏の改良面に或は関係官庁等に対する接渉等その活動範囲を拘束されない養鶏協会とになっている。前述の審議会及びその改良部会で審議決定した事項等についてその実施上の研究をしてこれが県下に早急にあまねく浸透することに努めている。
 然し団体組織については兎角の批評もあるが要は外見上の形態よりもその運用の如何にあるといえよう。
 以上が本県養鶏の概況であるが,養鶏関係者も又指導面に当る者も現況に満足することなく本県養鶏の質的,量的発展に御尽力され養鶏王国岡山の実現を期するよう御願いする。

別表 鶏飼養羽数調 (2月1日現在)

県  別 飼養農家数 飼養羽数
昭和25年 昭和22年 昭和25年 昭和22年
鹿児島 205,990 183,863 951,527 156,540
北海道 121,944 106,334 762,365 1,099,912
愛知 124,482 191,538 700,557 443,016
茨城 151,808 132,199 636,325 753,994
千葉 135,589 117,710 619,718 838,643
福岡 121,583 112,254 612,608 694,021
長野 144,194 100,480 567,424 418,962
岡山 122,054 106,867 534,796 464,222
熊本 117,370 114,346 483,901 628,698
新潟 105,720 61,475 477,580 294,528
全国 3,754,245 3,021,974 16,545,210 15,369,084