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鶏の飼料 配合の要領

 最近何処の町村でも,養鶏を始めるという人が非常に多くなった。安価な鶏卵が出廻り各家庭の台所を賑わすのも程遠くないことであろう。
 本年より始める人の中には,昨秋の卵価に眩惑されて,鶏を飼えば必ず利潤があがるという安易な考えでいるらしい。物価の変転は予測を許さない上,現状より察して,飼料は先高見込みとするのが至当であろうから,自己の農業経営規模なり,労力,飼料面のことを十分検討し,周倒な計画の上で,堅実な歩みを進められる事を希望する。
 鶏のように小家畜で毎日相当の生産をするものなどその飼養は,困難でその管理にも細心の注意が必要となってくる。事実鶏程飼料や外界の影響を受ける家畜は少いので,飼養技術の如何により儲かりもし,損もするのであるから,糠や麸に菜ツ葉を混ぜて与えればよい式は,大いに認識を新にせねばなるまい。
 養鶏には卵肉等をその生産の目的としているが,一般に卵の生産を主目的とするので,卵の生産を基礎として鶏には如何なる飼料を与えたらよいかを説明してみよう。
 飼料の給与は鶏の種類,体重,個性,気候等により栄養素の必要量に差違があるが,これ等の相違よりも各個体の産卵能力の相違による栄養素の必要量の差の方がより大きいので,飼料の配合もこれが給与も,飼養鶏の産卵能力を基準とすることが有効適切な飼養法といえる。
 鶏の大小によっても異なるが,鶏は毎日鶏糞中に蛋白質にして3.75gを排泄しており,卵1個の重量を60gとすれば,その内容物の蛋白質は7.14gであるから,鶏が摂取した飼料が10%利用されるとすれば,3.75gと7.14gの計10.89gの蛋白質を与えればよい事になるが,どんな飼料を与えても10%の利用は出来ないし,又摂取した蛋白質が鶏体や卵の蛋白質になるまでに損失があるので,これ等を計算に入れると1日22−23gの蛋白質を必要とする事になる。
 成鶏は,1日100gの飼料を食うから毎日1箇産卵する鶏には,蛋白質を22−23gを含んだ飼料を与えるとよいことになる。
 兼用種のように1日100g以上飼料を食うものについては,それだけ蛋白質の含有%を少くすればよいことになる。
 次に鶏の必要カロリーであるが,成鶏(2s)は,1日142カロリーを必要とするとされているが,このカロリーを澱粉のみにより補給するとしても33gで足ることになり、1日の飼料摂取量を100gとすれば鶏は,毎日ありあまるカロリーを取っていることになる。従って鶏の飼料においては,蛋白質のみ考慮に入れ炭水化物,脂肪等については,一応考えなくても差支ないことになる。

 産卵率による蛋白質の1日摂取量

産卵率(%) 1日1羽当り粗蛋白質必要量(g)
100 22.5
90 21.0
80 19.5
70 18.0
60 16.5
50 15.0

 ここで注意せねばならないことは,蛋白質の質と価格である。栄養素中最も高価なものは,蛋白質であるから優良な蛋白質を多量に含有し,しかも割安の飼料を購入することに努めなければならないと共に,飼料の給与に当っては,ヴィタミン及び無機物が不足せぬよう,又飼料が卵,肉の品質に影響することに留意しなければならない。
 要は飼養している鶏群に相談し,その能力を見極めて,能力に合致した飼料配合をして,生来の能力を十二分に発揮せしめるような方法をとればよいことになる。
 前述のように蛋白質は,高価であるが蛋白質はすべて一様の価値をもつものでなく飼料の種類によりそれに含れている蛋白質も千差万別であるから,飼料別の蛋白質含有量に,その栄養価値を一応承知しておく必要がある。
 次の各種飼料別の粗蛋白質含有量の表はその大略の平均数を示すもので,実用上さしたる支障はないと思う。
 分析表或は分析者毎で,その供試材料も区々であり,従って含有量にも相当差があることを承知の上,この表で蛋白質含有量の大略をつかんで,飼料の購入或は使用の時の参考にされて,能率的で,科学的な飼養方法にきりかえされたいと思う。

 各種飼料の粗蛋白質量  

種類 粗蛋白質含有量
小麦 12.2
大麦 9.0
裸麦 11.0
小米 10.0
7.0
玉蜀黍 10.0
7.0
高粱 9.0
16.0
芽在 17.0
大麦一番糠 8.0
同 二番糠 11.0
裸麦糠 11.0
米糠 14.0
大豆粕 45.0
魚粉 50.0

 蛋白質の栄養価地は、飼料の種類により異ることは前述の通りで,動物質蛋白質は栄養価値が最も高く,荳科植物のもの,即ち落花生,大豆等がこれに次ぎ,穀類の順になる。
 ここで注意を要することは,養鶏家に重宝がられる玉蜀黍,高粱の蛋白質は,その栄養価値は非常に低いことである。もちろん玉蜀黍,高粱を単用せず魚粉等に併用すれば,その蛋白質の欠陥も補なわれるので,ここに飼料配合の必要もあるわけである。
 各種飼料の蛋白質の栄養価値を図示すると別表の通りとなるからこの表を参照して,購入しようとする飼料価格を,その蛋白質含有量で除して,蛋白質の単価を算出して購入の可否を決定するようにしたい。
 例えば,玉蜀黍,高粱共に10貫当1,200円とすれば,10貫中に含有している粗蛋白質は,前の表より算出すれば,玉蜀黍1〆,高粱900匁となり,粗蛋白質100匁当りの価格は玉蜀黍では120円,高粱では133円となり両者の蛋白質の栄養価値は,別表でほぼ同様であるから高粱より玉蜀黍の方が経済的な飼料と言える事になる。

 以上により飼料の配分要領は十分納得できたことと思うが,これを取纏めると次の10項目となる。

 1.飼料の栄養価値及び市価特に蛋白質価格に注意する。
 2.飼料の配合に当っては鶏の嗜好を考慮に入れて実施する。
 3.飼料の配合は,鶏の能力を基礎としてその摂取量に注意する。
 4.鶏の種類,年令,気候,飼養目的等を観察する。
 5.飼料の急変をしない。
 6.飼料中には少くとも10−20%の動物質飼料を加える。
 7.鶏の嗜好,栄養素等の関係より多種類を配分する。
 8.卵肉の品質と飼料とは直接関係があるから注意すること。
 9.ヴィタミン無機質に注意する。
 10.飼料中に繊維質を多くしない。

 以上飼料配合の大略を述べたが,要は飼養している鶏を相談しながら経済的で栄養素を豊富に含有した飼料を,能力に相応して給与して,天与の能力を100%発揮さすよう努力することが,飼料配分の要訣であると共に,養鶏経営のコツといえる。