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卵の加工法と調理の工夫

農業改良課 木村技師

 鶏やあひるの飼育法も最近では余程進んで参り,かつては養鶏は家産を傾けると迷信的にいわれたこと等をよそに,各農家では殆んど養鶏が常識の域まで達して来ていることは,大変よろこばしいことであります。ところが切角こうして自家で生産出来る卵も自家の栄養資源の目的よりも,これの殆ど全部を現金収入の面にのみ考えている農家の方々を見かけることは少々なげかわしく感ずる次第であります。卵は乳類と肩を並べるすぐれた蛋白資源であることは申すまでもないことでありまして,特に栄養的に動物性蛋白質の不足をかこっている農家ではよりよく生産すると共に,最も大切な家族の健康を保つための食事にもっと利用して戴きたいと思います。
 これから4月から6月にかけては特に産卵率も増して来ると従って卵の価格も下って来るので,この時こそ種々な加工法で一部は加工して農繁期にそなえたり又自家の栄養にも廻して戴きたいものです。よく農家の方々に,何だか卵は味もうすいので食べごたえがしない。それよりこれを売って他に魚でも買った方が余程よい等と言われますが,栄養から見ても卵を売ったお金でより以上の蛋白源が求められ嗜好的にも満足がゆくならばそれで結構なのですが,辺ぴな地方では,人手を経て来たものより上手に自家生産をしたこのすぐれた蛋白資源を嗜好的にも工夫することの方がもっと有利になるのではないでしょうか,卵の調理法といえばお汁の中に落したり,ただ単なる卵焼き,又たまに茶碗蒸し位では物足りないと思います。そこで2,3の加工法と調理法について御紹介致しましょう。

1.皮蛋(Pidan)

皮蛋はその由来は余り明かではないが,支那揚子江沿岸地方で毎年5月から6月にあひるの卵の生産過剰を利用して製造されたものが創りといわれ,漸次地方に伝ったもので,鶏卵でも同様に製造される。特に北京地方のものが優良とされ,我国にも輸入され時々支那料理屋の店頭などに灰色のどろでかためた丸い物を御記憶の方もあると思います。最近では製法も研究されて我国でも製造されるようになりました。
 製法……種々地方的な特色もあるが,大略はあひるの卵殻面に葉の煎汁,食塩,石灰,木灰,土等を混合して厚さ3−4cmに塗りつけて,かめに収めて一定時間醗酵させるものであって,材料の配合割合を示すと,

(1)衣川氏法(卵10個当)
   生石灰  20匁(75g)
   塩    20匁(75g)
   炭酸ソーダ5匁 (19g)
   藁灰   1升5合(2.7リットル)
   葉汁   1合 (180t)
   籾殻   2合
   水    若干

 卵はきれいによく洗い,清拭して風乾かし,前記のものを水又は湯でこねて2−3cm厚さ均一に塗る。後籾殻をまぶしてかめ又は桶に入れて竹皮,油紙で密封して空気の流通を防いで,乾燥の過ぎないように又醗酵も適度になるようにする。湿度摂氏24−25度がよく,又一週間に一度蓋を取り卵を反転し,黄味の位置を正す。40−50日にて食用に供す。

(2)食塩  13匁(50g)
   生石灰 26匁(100g)
   炭酸ソーダ3匁(10g)
   木灰 1升7合(3リットル)
   赤土  26匁(100g)
   籾殻  小量
   水   適量

 混合して塗りつけ,かめに入れる操作は前記と同様であるが,温度を高めに摂氏30度に保つ。
 製品の性状……卵白は淡褐色又は黒褐色で,寒天,ゼラチン状を呈し,卵黄は茹卵のように凝固状を呈するが,内部は稍半糊状で,色は緑黒色(硫化鉄の関係)卵殻を割った直後は特有の硫化水素及びアンモニアの臭気が鼻をつくので最初は腐敗?と感ずる方もあるが,この臭気も漸次発散する。又卵白と卵黄の境い目に花紋と呼ばれる白色の針状結晶(蛋白の分解産物及び塩類の結晶と考えられる)による紋様のものの現れたものを支那では喜ばれる。(100g中の成分)

水分(g) 蛋白質(g) 脂肪(g) 無機質(g) 熱   量
(カロリー)
あひる全卵 77.25 12.42 13.21 1.07 174
皮  蛋(全) 68.33 15.59 11.65 5.28 172

 この他ビタミンでビタミンBはアルカリの為破壊され,ビタミンA・Dは新鮮な卵と同様に含まれる。
食べ方
 卵殻を破り,木綿で厚さ6−8mmの輪切りにして醤油等をかけて食す。1回に1個が適量で完熟したものを乾燥した冷所におくと数ヶ月以上貯蔵が出来るのでよい備蓄食品である。

槽蛋(TSAUDan)

 これも支那漸江省の名産で,酒粕,酢,塩を混じて漬けたもので食酢に食塩を加えたものに卵をつけ込み,数日後に卵殻の軟くなってボロボロと剥れるようになってから,卵10個当,酒粕1s位に食塩,食酢を各少量を加えて泥状にしたものにつけ込み,冷所に数週間置き,後70度位の温湯に5−6分水煮し,皮をとり割って食す。卵白は軟く白色,卵黄は濃黄色で雲丹のようである。
農家で簡易に出来るものとして

 1.酒粕卵……卵を普通に茹て殻をはづし酒粕に食塩を4−5%を混入したものに漬け込むと10日位で食べられる。
 2.味噌漬卵……卵を茹でて殻をとり白味噌又は赤味噌に漬けると3,4日で味が中までしみて美味しい。弁当の副食等によいものである,又味噌に唐辛子粉を混ぜたり,酒を少し混ぜると風味も変ったものが出来る。又黄味生だけを味噌の中にガーゼをのせて,卵の殻で卵黄の這入るだけのくぼみをつけこれに静かに入れて,約一週間程漬け込むと濃黄色の半固形状になり酒のさかなや温い御飯にも美味しいものが出来る。
 3.燻製漬……塩水(5%)に香料を入れたものに漬けて。これを茹でたものを燻製にする。これは保存がきく。
 4.塩漬……飽和食塩水に漬ける方法や,茹でてただ食塩水(7−8%)に漬けても簡単に味付けが出来る。
 卵は調理法が簡単なので農繁期の手の足りない時の最もよい食品であるが,農繁期前にこれらの用意をしておくと又変った風味で食卓も賑わうことでしょう。