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これからの農村養鶏

 飼料統制の撤廃と農家経済の逼迫が転機となり昨春以来農村の副業養鶏熱が擡頭し,昨秋卵価の予想外の高値が更に之に拍車をかけ本年の養鶏熱は各地に烽火の如く勃興しているが,これらの中には一時的な生産物の騰貴による収入面のみに眩惑され,自己の農業経営を顧慮することなく一挙に大羽数飼育による一櫂千金の夢を追う者も見受けられるようである。戦後の養鶏がインフレ景気と生産物の絶対的不足から鶏卵は異常の高値に維校されたため,養鶏家は羽数の確保のみによって有利に経営が展開したのであるが,飼料事情の好転により逐次飼養羽数が増加し,昨春来より鶏卵出廻時期には卵価の暴落を見るようになり,戦前において苦杯を賞めた養鶏家は既に飼養羽数を自己の農業経営に適合すべく整備しつつあることは,これから養鶏営農を計画する者にとっては見逃せない事実であり又戦前における我国の養鶏が輸入飼料に極度に依存し,輸入杜絶と同時に完膚なき迄崩壊した結果に徴しても農業経営における養鶏が飼料の自給計画の基盤に立脚して,卵肉を生産し食生活の改善と,現金収入の確保,鶏糞利用により金肥節減を図り,経済的にも文化的にも養鶏営農による恩恵を受けなければならないことは今更喋々する必要もなかろう。
 上のような趣意に基いてこれからの農村養鶏が如何なる構想で展開されるべきか順をおって検討を加えて見たい。

一.飼養羽数の決定

 前述のように飽く迄も農業経営に適合した飼養羽数でなければならない。
 即ち自己の耕地面積により自給飼料及び肥料利用計画を考慮に入れ更に自家労力を勘案し適合羽数を導入して,飼料事情,卵価の推移により微動だにしない経営型態としなければならない。

(イ)飼料自給計画と飼養羽数

 養鶏飼料中動物蛋白質と少量の糟糠類は購入しなければならないが,使用量の大半を占める穀類,緑餌等は自給計画に織込まなければならない。
特に昨年統制撤廃になった甘藷,馬鈴薯は栄養価から見た反当収量も他の穀類より郡を抜き茎葉も栄養に富んでいる。穀類の代表的なものは小麦であり表作としての甘藷と裏作としての小麦の輪作による自給飼料計画が好調なものといえよう。
1日1羽当りの飼料給与量並びに配合例と10羽年間所要量及びこれが自給計画は下表の通りとなる。

品 目 1羽1日当
給与量
10羽年間
所要量
左記に必要な
作付面積
摘       要
甘藷又は 10匁 36貫500匁 0.211反 反当500貫
馬鈴薯 (生なら30匁) (生109貫500匁)
小麦 10匁 36貫500匁 0.570反 反当4俵
糟糠類 6匁 21貫900匁 自家精米精麦により自給不足分購入
魚粉 4匁 14貫600匁 購入又は蝗淡水魚により一部自給
無機質 若干匁 若干匁 購入(貝殻末骨紛食塩等)
30匁 109貫500匁 甘藷養鶏においては蛋白質と無機成分
の配合を特に重視すること。

 上の表によって判るように甘藷及び小麦の反当収量を各々500貫と64貫にすると,拾羽飼養に必要な作付面積は甘藷においては約2畝1歩小麦においては5畝7歩となる。しかし麦類は現在なお主要食糧として供出枠内にあるから反当収量の約6割を養鶏飼料(10羽分)として割愛することは至難であるが反当5羽程度の導入は比較的容易となる。しかし自給肥料(鶏糞)の利用による麦作の増収,及び屑米その他農場副産物の活用,裏作休閑地の馬鈴薯作付等の工夫により反当拾羽程度の導入も不可能ではない。
 又食糧事情が更に好転し麦類の供出が自由となれば導入羽数の範囲は更に拡大され,自家生産原料をもって高度な栄養食品として再生産の方途を講ずるよう配慮すべきである。

(ロ)自給肥料確保と飼養羽数

 反当50貫の鶏糞利用により金肥の節減を図るためには1羽当鶏糞(乾物)生産量5貫−7貫として反当7−10羽程度の繁養を必要とするが飼養羽数は飽迄も自給飼料計画を先決として之を決定しなければならない。因みに鶏糞の肥効価値について附記すれば1羽当生産量5貫は金肥に換算して,硫安700匁,過燐酸石灰800匁借加里塩120匁に相当する。

(ハ)自家労力と飼養羽数

 農繁閑の均等化に老幼婦女子の遊休労力活用に養鶏は好適であるので積極的に農業機械の導入により可及的余剰労力を派生せしめ管理の完璧の図ることが肝要である。

二.養鶏経済の確立

 農村養鶏の目的が自給肥料と現金収入の確保に重点があるのであるから,如何に自給飼料の購入代と自家生産飼料の時価々格及び資材費等と収入面が均衝がとれた………少くも経済的に成立するものでなければならない。
 即ち現金収入の主たるものは鶏卵の販売収入によるものであるから,経済的に見た年間産卵数の目標を立てる必要がある。下表により年間150箇の産卵が経済的限界であることが明らかとなるから今后の農村養鶏においてはあらゆる角度から検討して年間50%(180個)の産卵率を確保するよう努力しなければならない。

種  別 1日1羽給与量 金   額 単価(貫当)
いも類 10匁
(生いも30匁)
90銭 生甘藷
30円
小麦 10匁 1円30銭 130円
ぬか類 6匁 36銭 60円
魚粉 4匁 60銭 150円
無機質貝殻末等 1.5匁 4銭 25円
31.5匁 3円20銭

(備考)

「飼料費は飼育費の7−8割を占めるから1日1羽の飼育費は約4円となるので1羽年間飼育費は1,460円となり従って鶏卵1個10円として146個分に相当する」
 以上説明した産卵目標180個の確立のため如何なる方策を講ずべきかというと技術上の問題は次回に稿を譲ることとして大体の要点は
(一)優良初生雛の購入,(二)育雛技術の向上(三)飼料配合給与の適切(四)駄鶏淘汰の励行(五)予防衛生の徹底等に留意すれば初年鶏なら本県種鶏の資質,能力等から考え,左程困難事ではない。特に今度農村において改善すべき事項は飼料配合給与の合理化と駄鶏淘汰の励行であろう。
 しかし初産後2ヵ年目からの年間産卵数は初年度の概して2割方減産するから経済的限界である150卵となり,2年度は収支トントン(勿論鶏糞利用による収入面を一応度外視して)になるわけである。
 春雛であれば初産后満1ヶ年后は恰かも換羽期に当面し減産期に相当するから点燈養鶏を実施し換羽を抑制し翌春迄,群産卵目標5割を確保し卵価の暴落期に食鶏として淘汰する。換言すれば鶏の経済寿命2ヵ年を1ヶ年半に短縮し半ヵ年の飼料を節減する一方点燈により短期間に収益を取得する一方策も今後採り入れられるべき事項であろう。

三.本県における農村養鶏の現状と将来にたいする一考察

 本県の農家戸数(177,078戸)の69%が養鶏農家(122,054戸)で飼育農家1戸当平均飼養羽数は4.4羽総農家戸数より算定した平均飼育羽数は3羽で昨年1月31日(農業センサス)における産卵率は44%である。
 以上の飼養状況からして将来農村における蛋白質補給源として或いは自給肥料及び現金収入源として全農家1戸当平均10羽程度の飼育は是非確保したいものである。
 今仮に全農家1戸当平均10羽を飼養すれば県下総羽数は177万780羽(現在羽数の約3.3倍)となりこれが増加に伴う自給飼料作付計画は藷類と麦類の輪作として現在における麦,いも類,各々の作付面積(いも類8,717町歩,麦類53,558町歩)の麦類においては18.8%(10,093町歩)いも類においてはその42.8%(3,736町歩)を割愛することによって実現されることになるが,実際的には稲作における屑米,粃,畑作における雑殻類その他農場副産物を飼料として充当することにより自給飼料圃の必要面積も右割合以下に縮減することも可能となろう。(小郷技師記)