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勝馬検討

石原和夫

 去る2月2日昭和26年度県営第1回岡山競馬運営委員会が開催され,競馬の開催日程は3月18日,19日,21日,22日,24日,25日,と決定,小口10円券を撤廃し,100円券の1本立となり,又皆様待望の控除率も35%より24%と大巾引下を断行することとなり,従って払戻金の増額となります。1万,2万と言う大穴をあてられ陶酔されることも度々かと思います。どうか3月競馬に期待下さい。又明瞭活発なる競馬を行なうため,発走の御不満もスターチング(発馬機)により一気に改善致す予定にして居ります。
 競馬は損をするものであると頭から思われる人が多い様ですが,余りにも単調なお考えだと存じます。それと言うのも唯単に,あの馬は公認下りだ,姫路の競馬で引張りぎりでチャンピオンを獲ったから,あの騎手は間違いない,63のカブが好きだとか,誰も買ってないもので大穴狙いや,玄人が大口で買ったからと特にひどいのになると,あの騎手は男振りがよいからと言う様なナンセンス的買い方をなさる人が応々見受けられる。又的中しないため,急いで少々自棄気味になったり,折角当って儲けているのに次のレースで気が大きくなって,ついつり込まれ投票して失敗に終る如きは,競馬を楽しむのでなく,賭博と同じものである。競馬は文化国家の最高スポーツであって国民大衆の健全娯楽であることを忘れてはならない。競輪は感情動物たる人間が肢さばき1つで決するものであり,競馬は馬と言うものが仲介しているため馬の上り,下りその日のコンディション天候,馬場の条件,騎手及び馬の癖等色々な要素があって始めて勝敗が決するものであるからサイコロ式には絶対行くものではない。それがためには軽率に他人の尻を付けまとわず,勝馬の検討を十分にやって確信を得てこれぞと思ったレースのみを買って行かねばならない,かくてこそ競馬の真の面白味を満喫することが出来る。馬が下見所に牽出された時,先ず第1に馬の出来不出来を見分けることが大切である。
 最初に見るのは気合である。馬が下見に出て来た瞬間或いは,馬場で馬が廻っているのを見た瞬間,毛艶がよく歩様が元気に見え,腹部に助骨が見えるように隆々としていて,眼光が冴えていて悠々と歩いている馬はまず出来がよいとしてよい。(一),栄養。つやつやと光って見えるのは栄養が十分で内部疾患もなく健康なることを示している。毛艶がなく毛がボサボサ立っているのはよくない。(二),歩様。肩から蹄先まで全体が弾力性ある連びをして捻転廻転せず真直ぐに,脚を上許り上げずに頭を下げて大股軽快且つどっしりと歩くのがよい。前肢をカチャカチャあげて歩くのやあまりジャンジャン焦れこんでいるのはよくない。どこかの欠陥のために跛行しているものは絶対に避けてほしい。跛行診断が出来だしたら一人前である。曳馬の時後肢をヒョクンヒョクンさせ,次第にその程度が薄らぎ本馬場に出た時は異状がなくなるのは飛節円腫と言う病気であって素人がよく判断に苦しむことがあるがこれは余り差仕えない。(三),頭頸部。種類の特徴をよく表わしているもので,耳は余りピンピン動かさず敏捷に正しく動かすのがよい。眼は瞼が張り気味で冴えて光っているのがよい。瞼がゆるんでどんよりしているのは不健康である。頸は頸さし即ち頸筋の下部で溝の様になった所の肉がつきすぎずすっきりしているのがよい。頭頸が全体から見てわざと付けた様でなく付け根がしっかりとしていなければならない。(四),前?。胸は巾と深さがあるものがよい。
(五),腹部。腹が捲き上ったり細くなり過ぎているのは調教過度採食の悪いためでよくない。殊に雌馬の細過ぎるのはいけない。又太過ぎていても調教不充分で成績がよくない。助骨はほんの少しバアッと透けて2,3本がかすかに見える位がよい。(六),腰。筋肉が全体に一杯ついて只膨らんでいるのでなく,隆々として弾力性があるのがよい。特に後から見て筋が出張っているような時がよく全体としてトモが寂しいようではいけない。(七),発汗。鞍下の白く泡立っているもの,内股に流す様に又頸筋が汗ばんでいるのを見るが馬によって一様に言えないが頸すじがしっとりと汗ばんでいるのが一番よい(八),排糞。下見所や馬場で糞をするのはよくない。又糞が軟かいとか小さく固いのや,尻こばねするのは特によくない。大体以上のような諸点と従来のタイムの検討が馬券鉄則であるから比較検討して後,更に騎手の検討をする必要がある。人馬一体というように如何に馬の出来がよくても乗り手が悪るければ良いレースは出来ない。特にゴール直線などでは騎手の頭脳,作戦の良否で決定するわけである。騎手によってスタートの上手下手又奥のない馬を始めから鞭で打って追いぱなしたり,ゴール前鞭拍車でその馬に効果が現われるか現われないか判断なく何時でも,どの馬にでも使用して失敗したりすることもある。又その日の天候,馬場の状態を考慮せねばならぬし,馬場の土質もよく知っておかねばならぬ即ち競走馬には道の悪いのを非常に嫌う馬と平気で走る馬とがある。馬によっては露が溜まっていても嫌ってそれる時がある。
 一概に言えないが,雨馬場の朽拙な蹄の形即ち平で大きいのは滑るために上手でない。然し調子のよいのぼり馬等は少々の雨馬場や上級の馬と走っても勝ち続ける故馬の上り下りをよく調べておく必要がある。以上の外,距離,枠順,負担重量,血統等を考慮検討して決すべきで競馬場行きのバス内で聞くファンの声や廏舎の生じつかな情報等噂に迷ったり,穴場の人気に支配されてはならない。特に数多くの予想やが何の根拠もなくお口上手にものを言わせ,成程御尤なニュースをとして発表している。殊にひどいのになると,草原に小便に行ってピックニュースだのと伝えているのがある。過去のタイムや前日の成績等をよく調査し朝まだ暗薄き頃より各馬の練場状況を見て発表している予想新聞屋の如きものを資料として前記の自己判断と対照して始めて穴場へ歩む心得が必要である。
 以上の様な心掛けを以って春の競馬に臨まれ,他では味うことの出来ないスリルを御満喫下さい。