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外から見た岡山の畜産

片山省三

褐牛の生産も欲しい

 岡山県を去って13年,偶には県内を旅行するでもないのに,岡山県の畜産を語る資格は毛頭なく,強いて述べれば所謂盲人像を撫すの類となり,もうろく振りを嘲られるとは知りつつも乞わるるままに,現実に立脚して勝手な希望を忌憚なく一言するとせば,岡山県でも何処かの一角で褐牛の生産をやって貰いたいことである。牛の大需要地である関八州及び信越地方は群馬を除き,大多数の農家は褐牛を要求しておる,若牛で同年同型なれば赤は黒に比して2割は高く買われる,後牛でも素牛でも褐牛のない時は半年位待つという有様,仮に黒牛を買っても間もなく交換を要求される。日本の黒牛が5反8反の小農に恰好のものとして改良された世界に誇る農牛であることを説明しても,赤牛に執着あり魅力を感ずる所以は吾々に不可解であり取るに足らぬ漠とした理由(?)であるが,何しろ赤牛は暑気に耐える。夏期断然舌をださぬ涎をながさぬ,丈夫で仕事をよくする。黒牛よりも蝿は遥かに少ないなどというのである。
 鮮牛を使役して来た永年の体験が伝統的に褐牛を要求するのは事実であるが,又一面東北地方産が多分に交わりて導入せられ,使役に不向きのものを飼った体験宣伝も手伝っておる,甚だしきは牛は赤毛なりと心得,黒牛を見て珍奇に感じ,殊に市街地の輓曳牛は殆ど褐牛である,然るに赤牛の産地は非常に少ない,熊本,高知,香川,福岡地方から来る褐牛は随分値が可い,岡山県でも和気倉敷辺の市場に現れる褐牛はよく売れておる。芝浦に集る新牛の8割肉牛の6割は褐牛である。日本の馬は東に産れて西に,牛は西に産まれて東に流れる,牛が農家に生産され売品である以上需用地の声も参考にされたい。黒一点張りの鹿児島県,大分県でも熊本県境に赤牛地帯が出来,近時出水郡直入郡には見るべき褐牛が相当に生産されて声価を博しておる,岡山県では山陽沿線など好適の地はないものか。由緒ある黒毛も和牛の産地に,事もあろうに赤牛を入れるなど,全く痴人の寝言と怒罵されるを覚悟で,敢えて草す。多謝妄言(筆者は全国畜産株式会社社長)