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多産鶏の改良

兵庫種畜牧場 川口宏平

 多産鶏の改良繁殖を行うに当り是非考えなければならないことは遺伝と環境である。遺伝と環境は相互に密接な関係があり如何に環境が良くても遺伝的に不良なもの,或は逆に如何に遺伝的に優れたものであっても環境が十分でない場合は何れも希望する能力は期待出来ない。それでは十分な能力を発揮させる為には遺伝と環境が夫々何の程度に作用するかと言うと,之は仲々困難な問題であるが,アメリカのカリフォルニヤ州にある有名なドライデン農場の最近の発表によると21の因子を想定し,夫々について両者の比率を出して居り,遺伝の影響の最も大きいものは卵の形,卵の色,雛の羽毛新生速度で何れも100%,次で卵殻の組成,卵質に血斑のないもの,産卵強度,就巣性等で遺伝90%環境10%となって居る。又環境の影響の最も大きいものは多産性で70%次で全般的な雛の生活能力と発育,孵化能力,産卵,鶏舎に於ける全般的生活能力等で環境,遺伝共に50%となって居る。又これ等21因子の総平均は遺伝74%,環境26%となって居る。これ等は如何なる基礎で決定されたかは早急には知る由もなく又中には了解出来かねる様な点もないではないが兎も角遺伝性を考えないでは繁殖は出来ないと言うことである。
 さて産卵性の遺伝については既に古くより種々研究されて来たがパール氏による伴性遺伝説は今日に至る多産改良に多大な貢献をした。この説とは,多産性を決定する因子は2種あり,何れも優性でその中の一つL1は常染色体に,他の一つL2は性染色体に占位し,この二つの因子が共存することにより,はじめて最高の能力を出すと言うのである。鶏の性染色体は♂は二つ,♀は一つで,♂は常に両親から一つ宛の性染色体をうけるが,♀は親♂のみから性染色体をうけることになるからその性染色体に占位しているL2因子も同様に遺伝する。従ってここに或一羽の優秀な♀があるとすれば,その♀のL2因子は仔♂には伝わらないで仔♂にのみ伝わることになる。パール氏の説による産卵性能についての理論上の因子型の分類は♀で6種類,♂で9種類となり,その中で最も優秀なものは一羽である。♀の性能は産卵数によって容易に判定出来るが,♂については♂自体についての判定方法がないので仔♀の後代検定による他なくこれが改良上の最も困難な事項となるのである。
 次に一羽の優秀な♀が見出された場合に,これによる形質の固定を伴性因子のみから考えられる改良原理図によって説明する。第1回に於いてこの♀に或♂(能力は普通とする)をかけると♀の能力は仔♂のみに伝えられる。この仔♂に更に優秀な♀を配して行くと第2図に示す様に仔♂仔♀共に2種類のものが出来る。♀の方は産卵能力により3種類を区別出来るが♂については更にそれから仔♀をとってその仔♀の能力により判定する以外に方法はない。図のA・B2種類の♂ではBを利用すべきであってAを利用する限り永久に第2図の様式を繰返し,形質の固定は出来ない。第3図は後代検定によるA・B♂の判定法であってB♂の場合であれば♀1♀2の何れを配しても仔♀は全て優秀なものが出るがA♂の場合であるとこれに配する♀の如何に拘らず仔♀は優劣半々に分離する。この様にしてB♂が見出されるとこれに優秀な能力の♀を配することによって優秀な形質が固定されるわけである。更にこのB♂の常染色体に優秀なる因子がホモの状態に存在して初めて完全に固定されたものとなるものである。尚このB♂の出現の可能性については必ずしもA♂と半々に出来ると言う訳ではない。第2回の親♂の2つの性染色体は受精に当り夫々独立して卵子と結合するのであるからどちらの組合わせが多くなるかは分らないのである。AB♂の数が少ない程どちらかに遍在する危険性は増大する。従って多くの♂をとって全てについて後代検定するのが安全確実な方法であるが実際繁殖する場合には極めて複雑で面倒なことになる。
 以上産卵性を支配する主因子の伴性遺伝について述べたのであるが産卵性を支配する要因は他にも種種挙げられている即ち早熟性,産卵速度,就巣性,産卵持続性,長年月の持続性,活力,成長速度,我が国では見られるかどうか分らないが冬季休産性等の要因があるが,これ等については又の機会に譲ることにして最後にこれ等全ての要因を総合した上での多産系統の作出法即ち優秀な形質を固定するには具体的に如何なる方法が考えられ又実行されているかと言うと増井博士は一羽の優秀な♂があってそれが遺伝的であると言う推測が得られたならばこの♂をその娘に交配し,その中より最も優秀な且つ活力の旺盛なものを選びそれを更にもとの親雄に交配し,その子の中最も優秀な活力旺盛なものを選択して兄妹間の交配を行う方法を述べられている。又英国のキャプテン・チャートレス氏はこれとは逆の場合即ち一羽の優秀な♀が得られた場合には,この♀を仔♂に配して孫♂をつくり更に孫♂にこの♀を配して♂♀をとり,その兄妹の交配によって優秀形質の固定に成功している。これ等は何れも3回にわたる戻し交配の応用である。又岩谷龍一郎氏は前期増井博士の方法を裏書する様に優秀な♂については4〜5回の戻し交配により形質の固定をはかって居り又優秀な♀についてはその♀を中心として3〜4代の兄妹交配による方法を実施している。
 要するに優秀なる形質の固定には近親交配を行わねばならないのであり,ここに紹介した諸方法は全て非常に高度のものであって理論的に正確な後代検定により,実際面には多年の経験による感と言った様なものにより十分慎重に実施することによって求める成果が得られるのである。

参考(岩谷龍一郎氏種鶏血統書より)

♂A160' 19−901の活用

♂A160と♀A−204の活用
(之は完全兄妹である)