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かね

◎「一頭の牛は数万人の人命を救う」こう書けば何事かと思う人もあろうが最近各地に発生し出した天然痘の危険性を牛痘の痘苗によって人間が救われていることを御存じの方が案外少ない。牛は使うもの,食うもの丈ではない。大切な人の生命迄も保障しているのだ。天然痘の予防ワクチンは牛の犠牲によって製造されている。牛の腹部一面に接種された病毒は牛を冒して腹部一杯に苔の様に発生しその為に牛は発熱して病状を呈してくる。之をヘラで剥ぎ取って減毒され諸々の操作を終った後人の天然痘予防用のワクチンとなるのである。つまり牛を苦しめて天然痘病毒が人を危険から救ってくれるわけだ。

◎牛の一生は生前労力や乳を提供し,肥料給源ともなり,死んで尚肉や皮を生産して人類に奉仕する上にまだこうした人の生命までも守っているのであるそのかれんなる一生を想うときせめて生前如何に之を愛撫しいつくしんでも決して罰は当らない。むしろそこらあたりにばつこしている邪教信心よりも生きた動物にそそぐ愛情こそ真の宗教的功徳とも言える。

◎愛情によって家畜は作られそして家畜はその愛情に報いるに生産をもってする。畜産の盛衰も国民の動物愛の如何によって大きな相関性をもつものだ。西諺に「動物を愛する者は善人なり」とある。
動物愛が心情に培養されて心豊かとなり動物に報いられて懐が豊かとなり世情が明るくなるとすれば之に勝る善政はない。
  一筆動物愛護週間に寄せて………