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巻頭言

春日随想

惣津 律士

 荒涼たる冬から漸く開放されて,一雨ごとに春の装いが山野に見られるようになった。百花咲き乱れ,酔客随所に見え,選挙運動まさにたけなわであった4月も終ってここに5月を迎えた。
 一方朝鮮戦線は依然として不気味な空気をはらみ,講和の構想漸次明瞭化しつつある時,マックアーサー元師の退陣が突然発表された。我々は毎日に大いなる変化と意義をまのあたり見ながらずるずると既に1951年の4半期を過さんとして居る。感慨1入無量なり。
 草の萌え出と共に家畜も元気な姿を戸外に見せ始めた。先般牧野状況調査のため米国国務省牧野経営部長ワルト・エル・ダットン氏一行が来県され,阿哲郡千屋村の花見牧野を視察された。牧野の改良が終戦後次第に朝野に認識されて,昨年5月牧野法の制定まで見ているが,この裏付の予算措置が政府に於て何等講ぜられて居ない,かけ声ばかりである。本県には山野原野の13%にあたる4万7千町歩の牧野があり,更に甚だ遺憾ながら県南部に3万7千町歩の禿山がある。
 牧野の現状は御承知の如く無計画な経営のために荒廃の一途をたどって居る。まことにいたましい事である。この現状を1年放置する事は,改良にこれ以上の年月に亘る努力を要する事となるが,この改良は一朝一夕に出来るものではない。
 ダットン部長は先ず牧野利用者が団結して自主的に計画を樹立して改良に乗り出すべき事を強調され,更に国,県,村当局がこれに対し財政面と技術面の援助を行う必要のある旨をのべられて居た。ともあれ,牧野の改良,利用如何が今後の畜産を支配する重要要素である事は論をまたない所であって,国土綜合開発上からも重要な意義をもつものである。ダットン部長は全国の主要牧野を視察後,政府に重大勧告をされる予定だから,それによって政府は一層本格的に乗り出すものと思われるが,本県に於ては県民の心からの援助に依って,一日も早く牧野開発計画が実施されて,明るい県民生活が樹立される事が望ましいものである。
 牧野を愛し育成する国民は平和を愛する国民であり,真の愛国民である事は歴史が明かに物語って居る。僅少なる国土に8千万の人口を収容する我国としては真剣に考えて善処すべき問題であろう。而もその中心となるのはあくまで畜産関係者でなければならない。