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ニューカッスル病発生警戒を要す

▼ニューカッスル病について

 ニューカッスル病は本邦においては従来家禽ペストなる病名の中に包含されているのであるが,本病と家禽ペストは免疫学的に病毒の種類が明かに異なるものであって諸外国では全然別個の疾病として取扱われている国が多い。
 本邦における家禽ペストの流行は大正14年,大正15年に千葉,東京,神奈川一帯に約1,500羽の発生を見た後,昭和6年同7年には群馬,長野,東京一帯に約150羽,昭和11年同12年同13年には群馬,東京,神奈川,新潟,石川,富山,岐阜,愛知,滋賀,京都,大阪,兵庫,山口の各地に約47,600羽,昭和18年同19年同20年には京都,大阪,兵庫,奈良,福岡,佐賀,長崎の各地に約7,000羽の発生を見,過去10回の流行が起っている,この中大正14年同15年の2回の流行は千葉系病毒による家禽ペストで,他の8回の流行は佐藤系病毒による家禽ペストであると決定された。
 本邦において佐藤系家禽ペスト病毒と呼ばれているこの病毒がニューカッスル病毒に一致するものである。昭和26年1月埼玉県宮寺村に発生した家禽ペスト様疾患の鶏からニューカッスル病毒に一致する病毒が分離され,埼玉県では3月現在に至る迄その流行が続いている模様で,その罹患鶏凡そ5,000羽と推定されていて,今尚東京都の境に接する川越市附近に発生を見ている。
 本病は今後共蔓延が考えられるので,本病の大要に付てお知らせする。

▼歴史

 ニューカッスル病は1926年英国のニューカッスル地区に初めて発見されたのでこの病名が付せられているのであってその後欧州中東南アフリカ,米合衆国印度,支那,朝鮮,日本,セイロン,オーストラリア,フィリッピン等に認められている,最近米国のカリフォルニア州において大流行をした鶏の肺脳炎と呼ばれていた病気も本病の病毒と同一のものによって起るものであることが明かにされた。
 従来のニューカッスル病と鶏の肺脳炎とは,その病原体において,免疫学的に両者一致するものであるが流行学的には多少異なった点が認められている,従来認められたニューカッスル病は罹患鶏の90−100%が死亡している抱らず,肺脳炎は雛において,平均死亡率35%高い時でも60%で,成鶏では死亡率5%以下であると言われている。

▼病状

 本病の潜伏期は2−14日或はそれ以上で平均5日のものが多い,生後数日から数週間の雛は初め呼吸困難の徴が認められ衰弱し,屡々昏睡状態に陥り,2−3日の間に頭をかしげたり,頸が曲ったりする。こんな症状が現われて1−2日すると死亡する。
 死亡した雛を解剖すると気管に滲出物があり,気嚢膜は混濁し急性ものでは脾臓が腫張し腸管の充出血が認められる。
 老鶏や成鶏では初め呼吸異状が認められるが殆んど何の病状も示さないで急死するものもある。
 症状として認められるものは羽毛の逆立,遅鈍食欲不振で渇を訴える。水様の下痢を起して,時に血液を混ずることがある。喘ぐような呼吸のし方は伝染性喉頭気管炎に似ている,流涎や粘膜炎等も認められる。
 急性のものでは多く1−5日で死亡し,病勢の長びくものは羽を垂れ,旋回運動をしたり盲進したり,麻痺を起したりする,神経症状が認められるが多くは10日位で回復し後遺症を認めるものもある。
 死体を解剖すると消火器の出血を認めるのが常で,特に砂嚢の入口附近には著明である,腸はカタールを起して小さい潰瘍を脾臓,肝臓には灰色の斑点を認めることがある。
 然しながら最近米国に流行している肺脳炎の型では腸管の出血が認められず,腸や肺に病変が認められ今次埼玉県の病例も肺脳炎の型に似ているようで気管枝移行のセリー状物による閉塞腸管のカタール並びに軽度の出血等が認められるが生前に神経症状,下痢を特徴としている。

▼類症鑑別

 ニューカッスル病は鶏の他の疾病に似ているものが多いので,本病を確実に決定するためには病毒の分離が必要であるが血清中和試験や血液凝集反応等により大体決定し得ると言われている。現在本邦には本病類似疾病として原因不明の下痢症や伝染性気管枝炎等が流行しているがニューカッスル病の特徴は生前において,その病鶏群の中に必ず神経症状を伴う病鶏が現われて来ることである。

▼蔓延経路

 本病は鶏の他に七面鳥,すずめ,鴨,からす,雉,鳩等にも感染することが明かにされているので野鳥からの感染も考えられ又病毒が風で運ばれることもある。
 然しながら多くは直接間接の接触感染であると考えられ,特に感染鶏の産んだ卵には病毒が含まれているので病毒は短時間の内に遠隔地へ運ばれる可能性が多いのである。

▼予防法

 本病を耐過した鶏には強力な免疫力が出来るので有数な予防液の製造が可能であり,現在家禽衛生試験場,日本生物科学研究所等で準備中である。
 然しながら本病の蔓延経路から考えて接触感染が重要視されるので病毒を他に散逸しないような措置を講ぜねばならないそれには次の様な措置が考えられる。

一.本病に似た症状を呈する鶏を発見した時は直ちにその鶏群を隔離し県庁の畜産課,最寄りの家畜保健衛生所,家畜衛生試験場,家畜防疫委員又は開業獣医師に急報し,その指示を受けること
二.本病と決定され,それがその地方における初発生であることが確認される場合は専門家の指導をうけて病鶏群の殺,物品の焼却埋却を徹底的に行うこと
三.本病の蔓延状況が不明であるから各地方において徹底的に調査しその結果を農林省へ報告すること
四.本病鶏の卵には病毒が含まれているので,最終発生後少なくとも1ヶ月以上はその移動を停止すること
五.移動停止は市町村単位とすること
六.本病発生地から種卵雛餌料等を購入しないこと
七.種卵雛飼料等は防疫上信用あるとこから購入すること
八.鶏舎を消毒し,鶏舎への出入には必ず手先の消毒を厳重にし,みだりに人が出入りしないこと
九.鶏舎,孵卵器の消毒にはクレゾールホルマリン,アルカリ消毒剤を使用する
十.発生鶏舎は特に厳重に消毒し飼料袋等はホルマリン消毒をする事

 本邦に発生している原因不明の下痢症は本病と病因学的に異なるもののようであるが,或はこの中に本病も混在しているかも知れないのでその調査を充分に行い,若し病鶏群の中に神経症状を呈するものが認められた時はニューカッスル病を疑う必要がある。