ホーム>岡山畜産便り>復刻版 岡山畜産便り昭和26年5月号 > 馬の改良及び生産方針(農林省案) |
馬の改良及び生産については,既往の実績と需要の関係等を考え,各生産地の自然的,経済的条件に応じて用途別に夫々生産方針を樹て,次のものを改良造成するものとする。
各用途を通じて怜悧で性質温順,作業意思強く運動軽快歩様良く,作業能力に秀で持久力あり且つ体質強健,飼料の利用性に富み飼養管理の容易なものであることを改良の目標とする。
使役上の用途により農馬,輓馬,乗馬及び競走馬に区分し,各用途別の特徴を挙げれば概ね次の通りである。
農馬は我が国の農家に最も一般的に飼養される役馬で使役,乗馭に極めて便利で乗,輓,駄何れの用途には適したものであり,体高1.45米(4尺8寸)体重375s(100貫)程度のむしろ輓型に近く扶助に対する感応良く,歩幅の適度なものでこれに適当な種類は中間種を主とするが北海道では中間種及重種とする。
北海道を主とする経営規模の大きな農家で使役されるものは,大型で輓型のものが適用である。
経営規模の小さな農家又は特殊な地域で使役されるものは小型で背腰が短直で強く肢蹄が強健なものが適当であり種類としては在来種等も適当である。
輓馬は通常の輓曳作業に適したものであり体高1.55(5尺1寸)体重530s(140貫)程度,体量豊かで厚頸長躯強筋充実し,力量に富むものでこれに適当な種類は輓型の中間種及重種とする。
特に重量貨物の輓曳作業に使役されるものは,更に大型で体積に富み,関節堅牢で蹄質堅靱踏歩確実,歩様の良好なものが適当であり種類としては重種が最も適当である。
乗馬は乗用として適当なものであり品位に富み,長躯短背胸深く肩斜めで,後躯に力があり運動軽快,歩様の低伸濶大きなもので,これに適当な種類は軽種及乗型の中間種とする。
競走馬は輓馬を目的とするもので,その種類は軽種が最も適当であるが速歩競走用のものとしては,速歩能力に秀でた中間種とする。使役馬につき用途別に体型標準を示せば概ね次の通りである。
区 分 | 体 高 米 | 体 重 瓩 | 胸囲率 | 牽引力 | 摘 要 | |
農馬 | 農馬 | 1.39−1.52 | 330−470 | 116以上 | 41−59 | |
大型 | 1.52−1.60 | 470−530 | 115以上 | 59−66 | ||
小型 | 1.25−1.39 | 250−330 | 117以上 | 31−41 | ||
輓馬 | 輓馬 | 1.52−1.56 | 500−560 | 116以上 | 63−70 | |
大型 | 1.56−1.65 | 560−657 | 118以上 | 70−84 |
備考A.馬の用途別区分は前揚の数値のみに拠りがたい場合もあるので,実馬を観察して適宜判別する必要がある。
B.乗馬及競走馬については特に用途別体型標準を掲げない。
参考 現在及近い将来における用途別馬の需要につき,各地方の希望を綜合すると概ね次の通りである。
区 分 | 需要の比率 | 摘 要 | |
農馬 | 農馬 | 66% | |
大型 | 17 | ||
小型 | 7 | ||
輓馬 | 輓馬 | 6 | |
大型 | 3 | ||
乗馬及競走馬 | 1 |
地域別に樹てられた用途別の生産方針に基き,各用途に適合した型格,資質及優良遺伝質を備えているものを選択淘汰して種馬の改良整備を図るものとする。なおこれがために地域別の登録を普及促進すると共に共進会,品評会及競馬等を活用するほか必要に応じて各用途に適当な種馬の輸入を図るものとする。
種馬の選択淘汰は血統個体及産駒あるものについては産駒成績により行う。血統は近縁の馬の状況,個体はその外貌,資質,能力等産駒成績は産駒の状況及繁殖成績等について調査するものとする。
種馬については,それが改良の目標とする各用途の馬に共通して要求される前述の諸条件及各用途別の特徴を備えるほか,性相明かで体躯寛裕,対称が良く,筋健発達し,肢勢良く関節堅牢で蹄質堅靱であることが必要である。
種馬の用途別体型標準を示せば概ね次の通りである。
区 分 | 体 高 米 | 体 重 瓩 | 胸囲率 % | 適 当 な 種 類 | |
農馬 | 農馬 | 1.40−1.53 | 380−530 | 116以上 | 中間種 アングロノルマン,アングロノルマン系種,中半血種,軽半血種,重半血種,重種 |
大型 | 1.54−1.62 | 530−660 | 117以上 | ベルシュロン,ベルシュロン系種,重系種軽種 | |
小型 | 1.30−1.40 | 260−380 | 117以上 | アラブ,アングロアラブ,アラブ系種,サラブレッド系種,在来種,木曽,北海道の和種,その他 | |
輓馬 | 輓馬 | 1.53−1.62 | 560−660 | 118以上 | 中間種 アングロノルマン,アングロノルマン系種,中半血種,重半血種 |
大型 | 1.58−1.68 | 600−750 | 120以上 | 重種,ベルシュロン,ベルシュロン系種,重半血種 | |
乗馬 | 1.43−1.62 | 380−520 | 114以上 | 中間種 アングロノルマン,アングロノルマン系種,軽半血種,中半血種 | |
軽種 アラブ,サラブレッド,アングロアラブ,アラブ系種,サラブレッド系種 |
備考A.乗馬の体型については中間種のものにつき揚げアラブ,サラブレット,アングロアラブ等の種類の特性及体型の明瞭なものについては,特にここに揚げない。
B.前掲のもののほか,トロッター,ブルトン等も農馬及輓馬の改良生産に適当な種類と認められる。
登録は生産目標を同じくする各地域別に実施することが望ましい。登録は予備登録及本登録の2種とし登録書に記載する事項は,血統外貌及産駒成績とし能力を加えることが望ましい。
各地域における馬改良の目的を具体的に一般に理解せしめその関心をたかめるために共進会,品評会等を開催することが望ましい。共進会,品評会等における審査は外貌審査によるほか血統,産駒成績等による審査を併用することが更に合理的である。
各用途別に必要とする馬の頭数は,時代の推移によって変遷するものであり,今速やかにこれを確定することは至難であるが既往の実績及現状を勘案して,総馬数1,200,000頭を差当りの目標とし,これがために多年120,000頭の生産を期するものとする。
頭数の増加は望ましいことではあるがこれに諸種の困難が予想される現段階のおいては特に馬の経済性を増し利用度を高めるために,資質の改善を促進することが緊要であり,このために繁殖技術の向上と人工授精の普及発達を図ると共に各用途に応じて優秀な種牡馬を速かに整備し,これを活用することが必要である。