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放牧の注意

 長かった舎飼いの季節も終り,5月の初めから和牛の放牧が始まります。青草の伸びた自然の牧場へ放される牛の群は実に幸福であると思いますが,この放牧の行い方が悪い為に年々多数の事故が発生していますので放牧を行う為の注意を2,3申し上げてみたいと思います。
 先ず準備飼育でありますが,舎飼いから急に放牧しますと青草に餓えている処へ急に御馳走を見せるようなもので牛は青草を飽食しますので,この為に鼓脹症を起し胃の中で発生したガスの為に急死するようなことがありますから注意しなければなりません。
 従って放牧季節が近づきましたら近所の青草を刈って与えて青草によく馴らし放牧しても一時に多量の草を食べないようにすることが大切であります。又出来得れば綱をつけて4,5日間位青草のある処で繁運動をしてやることも1つの方法であると思います。
 それから放牧の初期はどうしても過放牧になり易いものでありますから初めの4,5日間は昼夜放牧にしないで放牧時間を制限して夜は家に連れ帰り,一応馴れてから昼夜放牧にして頂きたいと思います。次に放牧を開始する前には一応放牧場を巡回して放牧柵や道路の修理をしたり,危険な場所には柵をしたりして事故の防止に努めなければなりません。特に県の北部の積雪地帯では雪の為に山崩れがあったり,道路が破損したりして思はぬ事故を起すことがありますので放牧前に必ず修理して頂きたいと思います。
 又放牧中の事故に備えて必ず家畜共済に加入するように致しましょう。今日の様に牛の価格が上って来ますと一寸した事故でも農家の経済には大きく影響しますので御注意願います。
 放牧の初期特に5月中旬頃にはよく霧酔病が発生して牛が倒れて思はぬ損害を受けることがありますが,この病気は早期に発見して適当な手当をすれば殆んど快復しますから,放牧初期は特に監視人を増加して巡回をよくし,病気の早期発見に努めるようにしたいと思います。
 放牧が進みますと牛は食塩が不足して来ますので人を見ると集って来ますが監視人は巡回の時は忘れないで必ず食塩を持参して給与して頂きたいと思います。出来れば仮小屋でも作って食塩を常備して自由に菜食出来るようにしてやれば1番良いと思いますが,それが出来なければ巡回の時必ず持って行って給与してやって下さい。この様によく注意して放牧による事故を極力防止して頂きたいと思います。