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採草地の草生改良

多田技師

 家畜の飼養において,従来濃厚飼料がなければならないと唱えられ,多量の濃厚飼料が消費されていたが,これは決して正常な飼養でなく,齊藤博士も指摘しているように,若い草は濃厚飼料に匹敵する飼料価値を有するものであって,濃厚飼料は殆んど不要である。若い草は有効蛋白質を含み特に荳科のものはその含有量が多い。
 又濃厚飼料の弊害について倉田博士は稲に秋落現象といって金肥の多用により土壌が酸化してその結果稲の生育がおち収量に悪影響を及ぼす現象がある,この秋落現象と同様な現象が家畜の場合においてもみられる,即ち金飼(麸,糠等の濃厚飼料)をもって家畜を飼養した場合に血液が酸化され又カルシウム分が不足し,その結果として馬は骨軟症となりその他の家畜は疾病に罹りやすくなり,又能力が低下する。この現象を牛落現象と呼んでいる。
 我が国の家畜飼養状況は前に述べたように本末を転倒した穀主草従であったが家畜本然の飼養形態である草主穀従に改善し今後畜産の不況に対処し飼料自給体制の確立のため草生改良を今一層推進し自給飼料の改良増産と合理的利用を図って健全なる畜産の発展を期せねばならない。
 以上の見地より草生改良は重要であるが,それではどんな方法であるか以下述べると次の通りである。
 草生改良は積極的改良(追播施肥等)と消極的改良(毒草不良草等の除去)にわけられる。積極的改良について以下その概要を述べる。

一.追播による改良

   1.優良野草の導入

 我が国の野草の大部分は冬季間は殆ど枯れるものとされているが「カモジグサ」「ウシノケグサ」等冬の間も青々と生育する草種があるのでこれを草地に導入することと草地の大部分を占めている禾本科植物に在来の荳科植物を導入して量的質的改良を図る。
 在来の荳科植物の内県下に普遍的に自生している数種について概略すれば

(イ)ヤハズソウ

 本草は我が国の原野路傍に多く自生しているよい草であるが一年生であることと草丈5−6寸位であって現在のままでは小型で収量が少ない欠点があるが酸性土壌に比較的強い。米国においてジャパンクロバーとして日本より輸入し赤クロバーの生育不能な個所にその代用植物として改良を加え主として放牧草として大いに利用されていると聞く。
 本草は稍々湿度を有する土壌を好み痩地や酸性土壌に耐え得るが故に栽培に際して石灰施用の必要は少ない。
 本草は家畜に嗜好せられ,過食によって鼓脹症の憂は少ない。非常に肥沃な処に栽培された場合には乾草を作るに充分な位繁茂して,良好な時は反当生草量600貫位に達する。

(ロ)マルバヤハズソウ

 本草は我が国のみならず満州各地の乾燥する原野に生育する一年草である。
 草丈6−1尺3寸位に達する,割合に葉の量は多く前者に相似の植物であるが稍々それより大きく,葉は円い。
 本草は耐寒,耐旱性に富み,脱落する種子により翌年再発芽し,各家畜に嗜好され又栄養分も多い。

(ハ)カラスノエンドウ(ヤハズエンドウ)

 本草は原野路傍等に自生している二年生草本で蔓を出して他の禾本科草等にからみながら伸長して行き,エンドウに似ているのでこの名前がある。
 草丈1尺5寸−2尺位に達し早春の緑飼として最も早く利用出来るものであって反当収量約500−600貫位あり栄養成分も多く各家畜に嗜好される。
 余り寒地とか酸性の強い処では生育不良となるが相当の有機質を有する時には酸性土壌にも栽培し得る。
 本草は県南部地帯の堤防路傍の笹の比較的密生しているような地帯においてもよく生育し相当自生力が強い。
 播種は9月上旬撒播してもよい。2週間位で非常によく発芽し収穫はよく出来た処では年2回位可能であって第1回は3月中下旬,第2回目は5月中旬頃,反当播種量初年度1斗翌年は3升位でよい。

(ニ)スズメノエンドウ

 本草は前者同様原野路傍等に自生する二年生草本でカラスノエンドウによく似ているが葉が一層細く草丈も短く収量が少ない欠点がある,栄養成分を多く含み各家畜に嗜好される。

(ホ)ツルマメ

 山野に野生している一年生蔓草本で,大葉のものと小葉のものと2種類あり草丈数尺に達する。
 発芽生育共によく,耐旱性に富み,8月上旬に開花する。
 本草は短期間に旺盛なる生育をなし,開花期長く,禾本科植物に纏繞してよく生育繁茂するも降霜に遭う時は直に萎凋枯死する。
 本草は茎葉柔軟で,茎葉の枯凋後と雖も各家畜は好食する。播種は撒播でもよく3月中旬までに播種し4月上旬に発芽する。
 本草の利用期間は6月から10月末頃までであって反当収量畑の場合は約3,000貫草地の場合は約500貫位あり種子は畑の場合反当1石5斗位採種出来る。

   2.牧草の導入

 牧草導入による草生改良については,既に度々記載されているので省略する。

二.施肥による改良

 1sの青刈ライグラスは1貫440匁の窒素と,600匁の燐酸及び2貫040匁の加里を地中より奪うといわれている。
 牧野草の改良には施肥を行う必要がある。これは他の作物と同様肥料を与えると草はよく繁茂するが肥料を施さず搾取のみ行う場合は減退して行くから草という観念でなく立派な生産作物を作るという事が大切で農家経済及び労力上許せば施肥による改良を実施すれば最も効果的である。
 放牧地においても家畜の糞尿のみでは充分でなく特に本県のように過放牧の現状では施肥によって収容力を増加する必要がある,採草地においては尚更多くの施肥が必要である。
 施肥による効果は,土地の肥沃度の維持,増加により牧野草は繁茂し収量を増加し,気候に対する抵抗力を強くし,生育期間を延長する他植生を良化する等施肥による効果は多く,これによって家畜収容力は増加され,健康を保ち,これに反して施肥をしないで毎年搾取を続けると草量を減ずる他牧草は弱って不良の雑草が増し遂に雑草地と化して能率を低下するのみならず肥料分の不足により家畜は病気に罹り易く,石灰の不足による骨軟症や燐酸の欠乏は家畜の骨格を弱めるようになる。

   1.基肥

 牧草を栽培する場合には他の作物と同様に基肥を与える必要がある。御承知の通り我が国の土壌は酸性土壌が多く有機質が欠乏しているから石灰と廏堆肥は基肥として必ず用うべきである。
 石灰の施用については荳科牧草を栽培する場合には特に必要であり又多量施さねばならない。従って播種前に必ず酸度を検定し,所要石灰の量を決定する。その計算方法については本畜産便り10月号(第11号)別冊自給飼料指針の第8頁に記載してあるアレニウス氏の計算方法を参照されたい。
 石灰を用いる時には,播種する直前に用いる事は避け少なくとも2週間位前に施用すること。石灰により土壌を中和すると同時に土壌に有機質を与え土壌の状態を良化する事が大切である。
 土壌が良ければ良い程牧草の収量は多く,長期間利用出来且つ良質の牧草を生産する事が出来る,このために廏堆肥は欠くことの出来ない重要性を有している。
 基肥として必要な廏堆肥量は土壌によって一概には決定出来ないが中等の処では反当300−400貫位で充分と考えられる。

   2.追肥

 追肥は牧草の維持良化上必要であって追肥により生産量を増加し,利用期間を延長し植生を良化して牧草の含有栄養成分を増加し家畜を健康に保ち,家畜収容力を増加する事は前に述べた通りである。
 追肥は多く早春又は早秋,晩秋に施用された基肥は遅効性の肥料を用いるのに反し即効性肥料を用いる。
 追肥として用いるものに普通次のようなものがある。

(イ)石灰

 土壌が酸性になると,荳科植物は少なくなり,含有栄養成分量は減少し,家畜に悪影響を及ぼし禾本科の雑草が増加して来るが石灰の追肥は土壌の酸化を防ぎ,牧草の養分として殊に荳科牧草は必要多く,荳科植物を繁茂して,牧草の栄養成分を増加する。
 追肥として用いる石灰量は,消石灰の場合は反当7−15貫内外,炭酸石灰の場合は2−3割多量に用いる,その施用期は3年−5年に1回位施用する所もあれば酸性土壌の所に於ては2年に1回位ずつ施用しなければならない場合もある。多くは早春又は晩秋に施用される。

(ロ)尿

 尿を牧草地に用いる事は,最も効果的な施肥の1つである,(尿は窒素と加里の給与原料として尊ばれる。但し石灰,燐酸量は少ない)尿を追肥として用いる際は,新しいものを用いてはいけない。その理由は,新しい尿は強度のアンモニヤを含有しているから,牧草が枯死するためである。
 少なくとも4−6週間程経たものを使用する方がよく,尿を撒布する場合は雨の後に,牧草が一面に濡れている時が最も効果が多い,乾燥時には水を用いて稀めたものを用いれば効果が多い。

(ハ)廏堆肥

  廏堆肥は有機質に富んでいて,窒素のみならず燐酸加里等を含んでいる有要な綜合肥料であって,その効果については先に述べた通りであって,これが施用にあたっては放牧地の場合は基肥として用い採草地に対しては追肥として用いる。

(ニ)窒素肥料

 窒素肥料は特に禾本科牧草に及ぼす影響が大きく収量を増加し又夏期の乾燥時の黄変を防止し,冬には遅くまで緑草ならしめ,且つ早春より成長を始めしめる即ち成長期間を延長し含有する栄養成分を良化する。
 窒素は普通において最も欠乏する養分であるから,その施用は,禾本科植物を主としたる放牧地,採草地には必要である。しかしながら窒素の施用は禾本科植物が繁茂し,荳科植物を圧倒するので荳科植物の繁茂を計る際は,単独施用は行うべきでない。
 窒素肥料中普通用いるものは硫酸アンモニヤで,反当施用量は3−8貫位である。

(ホ)燐酸肥料

 燐酸肥料は若き牧草を伸長させ,成熟を早め,牧草の品質を向上させる他含有成分を増加させる,又荳科牧草の根瘤菌生成上必要である。殊に荳科牧草は肥料によって良化し繁茂する。しかるが故に荳科牧草の単播の時には欠くべからざる肥料であるが,混播する牧草地においても燐酸の施用により荳科牧草は繁茂しこれによって多くの窒素が固定され,それを禾本科牧草が利用して,両者共に繁茂する。
 使用には他の石灰又は加里,もしくは窒素肥料と併用する方が効果は多い。
 普通過燐酸石灰が用いられ反当3−12貫位が適量であり,多くは晩秋又は早春に用いる。
 若し過燐酸石灰を追肥として用いた時は,施用後放牧地の使用は2−3週間は見合わすべきである。これは家畜が軽度の中毒を起す恐れがあるからである。

(へ)加里肥料

 燐酸と同じく荳科植物には効果が多い普通硫酸加里を用い,木藁灰も遅効性であるが,酸性土壌に用いて効果が多い。
 なお追肥によって飼料価値は著しく向上することは既に試験の結果明白となっている。しかも粗蛋白質は,施肥後2週間目以後3週間位の間が最高に達する結果が出ているから品質のよい牧野草を得ようとすれば刈取期の約2−3週間前に適当量の追肥を行えばよい。
 以上述べた如く,草生改良の重要性は濃厚飼料の不足に悩み,常にその一部を輸入に仰いでいる現在においては粗飼料の濃厚化を図ることは重要な問題であると考えられる。