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家畜伝染病と予防方法

 毎年一番多く伝染病が発生する季節が参りましたので,病気とその手当について考えて見たいと思います。
 家畜を飼育されている方々にとって家畜の病気程関心をもたれているものはないと思います。昨年のこの季節からどんなに病気により農民諸氏が苦労されたかは今更申すまでもないことであります。伝染病を未然に防止することにより,経済上,精神上の負担を軽くして,その被害を最少限度に止めて戴くために主だった病気について下に登載しましたから,これにより本年の病気予防の一助にしていただきたい。

家畜の腰麻痺

 腰麻痺は一般に原因の如何を問わず腰がフラフラ(腰抜け)した症状に対し言われているがここに言う所の腰麻痺は蚊の発生する頃によくきく寄生性の腰麻痺であります。
 寄生性の腰麻痺は家畜では馬,めん羊,山羊に多く発生しますが,本県では主としてめん羊,山羊に多発していますからこれについて説明をします。

原因

 本来は牛に寄生する糸状虫(名に示すとおり糸の様な虫)がめん羊山羊に寄生して起ります。即ち牛に寄生した糸状虫の成虫が仔を産むとその仔虫は血液中に入り,牛を蚊が刺すとき血液中の仔虫が蚊の体内に入り発育しその時めん羊等を又同一蚊が刺すと仔虫(成熟している)がめん羊等の体内に入り幼虫となりその幼虫が悪い事をする。これが即ち原因となるのであります。換言すれば牛に寄生するものであるから牛に寄生したならば腰麻痺は起こらないがそれがめん羊,山羊に寄生したからその寄生する場所が決まらないので体内をグルグルと移動し遂に脳や脊髄に迷い込んで腰麻痺を起こすのであります。これを学問的に言うと脳脊髄糸状虫症と言います。

症状

 主要症状としては脳脊髄に糸状の幼虫が迷い込んだのであるからその器械的の症状である即ち運動障害であります。
一.四肢の運動。障害起立不能や起立困難,肢のフラフラしたもの,従って腰がフラフラとする。(歩行の困難)肢を土地にひきずる等。
二.頭頸を傾ける。眼球の突出するものもある。
三.食欲不振となる。
四.けいれんを起す。
五.皮膚の知覚が減退する。

予防法

一.前記のように蚊が病原体を媒介するから蚊を駆除することとめん羊山羊を刺させない様にする。
二.出来るだけ牛舎の近くで飼育しない様にする。(実際は不可能と思われるが)
三.薬品による場合(但し獣医師に限る)7月15日頃までに第1回目の予防注射(アンチモン剤),8月10日頃までに第2回目を実施すると予防効果顕著である。(岡山県千屋種畜場で発表)

治療法

 アンチモン剤が良好である。
 本病は治療の適確な方法がない為に極力予防に重点を置くべきである。

流行性感冒

一.発生状況

 過去からみて20年間の周期をもって発生する本病は昭和24年,昭和25年と岡山県にも大流行して特に昭和25年は咽喉頭麻痺を発し毎年その初発は8,9月となっていますが今年は少々発生が時季早くなると学者間では言われています。

二.病原体

 本病はウイルス(濾過性病毒)で病毒は脳温熱中枢にも作用して発熱が起きます。

三.伝染

 病毒は血液,鼻汗及び唾液,尿糞等に多量に含有された本病の伝染は接触及び空気感染に依るものであります。

四.症状

 (1)発熱食欲 前夜迄何等変化が無かったものが翌朝突然40乃至42度(摂氏)位の高熱が出て食欲飲水は次第に減ずるか全くなくなります。
 (2)鼻 鼻さきは乾燥し最初は水様の鼻汁を流出し症状経過と共に黄白色の膿様の鼻汁を流出するものもあります。
 (3)眼 まぶたは腫れて,その内側の結膜は充血して赤くなり涙を流します。
 (4)呼吸 一般に呼吸は早くなり,又咳をする牛が多いのです。
 (5)関節 病気になった牛の多くは足の関節や,足のうらすじが腫れてきて,之に触れると熱があって疼痛を感じます。其他びっこになったり,或は一時的ですが立上ることが出来なくなる場合もあります。

五.経過

 (栄養が良く丈夫で抵抗力のある牛)
 2−3日
病牛 早い発見,良い手当と看護→快復
   手遅れ不適切な手当や看護→斃死
 (使いすぎ,栄養不良等のため抵抗力のない牛)

六.快復後の管理

 濃厚飼料(米糠,麸,大豆粕等)は快復後徐々に増量して給与し1週間後に平常の飼料にかえし使役は少なくとも2週間経過しなければいけません。去年発生した咽喉頭麻痺症は前記飼料,使役を無視したものに多く発生しています。

七.予防

 (1)安静,清潔,乾燥,換気及び隙間風を防ぎましょう。
 (2)皮膚の手入の励行,新鮮な水の給与,消化し易い飼料を給与して皮膚の抵抗力,栄養の増進をはかり過労をさけましょう。
 (3)予防液は未だ完成されず研究中です。

八.早期発見

 (1)毎日体温をはかりましょう。
 (2)前記症状が認められましたら一刻も早く獣医師にかかりましょう。

九.早期手当

 (1)安静を第1とし牛舎内は特に清潔にして湿気を防ぎ又隙間風の入らぬ様にしましょう。
 (2)熱のある間は毛布等を着せて温くしてやりましょう。
 (3)多量の敷藁を与えましょう。
 (4)腹部を摩擦してはいけません。

豚コレラ

一.県下発生状況

 豚コレラは,一度発生すると,附近の豚は全滅の憂目を見るような急速激烈なものである。
 本年に入り発生時期をひかえ憂慮していた所2月24日広島県に発生し,非常に危険な状態となったので,之が病毒の侵入防止のため広島県,岐阜県,神奈川県等からの豚の移入を禁止する為の,岡山県規則第175号が3月1日付で公布された。予防に全力をあげていたにも拘らず,遂に4月18日浅口郡連島地区に発生したので,直ちに豚コレラ予防液を急送する様生物化学研究所に打電する一方,岡山県規則第31号を以って,同病予防規則が4月20日付で公布され豚のへい死体の処置や浅口郡一円,児島郡福田町一円の豚の移動禁止を行い,予防液到着と同時に防疫班を編成し,発生地区を避けて周辺に対して,予防注射を実施したが,病毒は次第に伝播の一途をたどり,県南部を漸東の徴候が見えたので4月27日付を以って県規則第35号が公布され,岡山市,倉敷市,児島市,御津郡,児島郡,浅口郡,小田郡,吉備郡の豚の移動が禁止され,前規則が一段と強化された。防疫班はこの間東奔西走,寝食を忘れ,豚と取組み,之が防圧につとめたが,病毒の猛威は後をたたず,県南地方は殆んど汚染地帯と化し浅口郡下で斃死した豚は数知れず約3,000頭と言われ,4月30日には,御津郡南部の今村に発生,岡山市への侵入禁止のため全市に予防注射を実施したが,5月8日遂に侵入,6月5日には,大供町に大量発生して居り,35頭殺処分解剖焼却されたが,目下岡山市は危険状態に曝されて居り,尚豚コレラは,晩春から初秋に亘り,夏期に猛威を振うと言われるので,未だ尚油断をゆるさない状態にある。

二.伝ぱ

 病豚による病毒の伝ぱは直接間接に運搬される。即ち人の手足,衣類等に附着し,或は牛馬猫,野鼠,或は雀,鳥,その他野鳥,或は肥料,舎具,飼料,袋等に附着して運搬され,又発生に重大な関係のあるのは,生肉又は肉製品である。
 実際上日本の流行地の流行地の状況では,病毒汚染肉の利用が発生の原因となっている 事が多いので関係当事者は緊密な連絡のもとに,取締りの徹底を期することは,本病の防遏上極めて重要な事で,この点を強調したい。

三.症状

 本毒の潜伏期間は,2−3週間である小豚は下痢,大豚では便秘に始まるのが普通であり,この時分から食欲は勿論減退し其の後体温は,段々と上昇し,体は赤味を帯び40度から41度となるこの頃には食欲は全く廃絶し,元気も全くなく豚房の一隅に横臥し,寝藁のある場合は之にもぐり,無理に立たせると,歩行蹌踉とし,間なく横臥す。体は常に振るえている。更に進むと四肢下部に紫色の血斑を発生し,下腹部に進んで来たり,更に耳の周円から後面に出現する様になる。この時期に於ては,真症と一見して明白となるのである。急性のものは,1−2日で斃死,慢性となると,2週間位で斃死する。而して小豚程感染発病が早いのが普通である。
 解剖所見としては,腸間膜淋巴腺の腫脹,脾臓の点状出血斑,更に進んで出血硬塞,腸管,腎臓の点状出血は本病の通則であり,又肺臓にも出血硬塞を現しているものもある。廻盲腸部位に於ける,ぼたん状結節は本病特有のものであるが明らかに現われている事は稀で点状出血様に現われているのは屡々ある。

四.予防

 本病の予防としては現在本邦では高度の毒力を有する病毒を人工的に感染させた豚の臓器乳剤にホルマリンを加え病毒を不活化した死毒予防液(ホルモールワクチン)であって注射により,発病する事はないが,潜伏期中に注射したものは,発病を免れる効力はなく,所定の潜伏期を経て発病してしまうから注意を要する。注射用量は4s(約1貫)当り1tで,病毒に耐え得る免疫体の発現するのは,1週間目頃で免疫期間は6ヶ月と言われている。
 尚予防の目的で免疫血清を用いる事があるが,之は発生地に接続した周辺地帯で,危険にさらされているが、然しまだ病毒の侵入を受けていない防疫上の第一線地区の健康豚に対し,直ちに免疫性を与えて,本病の伝ぱを一時阻止する防壁を作る緊急措置として行われるが,有効期間は3−4週間に過ぎないので,前予防液と併用する場合は効果的である。用量は小豚(体重40s以下)3−10t,中豚(体重75s以下)10−20t,大豚(体重75s以上)20−40tである。又血清は治療用にも用いられるが,初期は効果的だが,却て保毒豚を作り出す可能性があり,中期,殊に末期では良結果を期待出来ない。尚免疫血清による治療に当って注意する事は快復に至る迄には相当の時日を要するのが常で,数週間に亘り,該豚は多量の病毒を排泄することがある。従って本病を蔓延させる危険があり,前述の如く保毒豚を作る虞もあるから,防疫上の立場より極力避けなければならない。若し貴種豚で止むを得ず行わねばならない場合は周到な注意と,厳重な監視のもとに実施する事が必要である。

流行性脳炎

一.発生状況

 昭和25年8月吉備郡池田村,御津郡円城村,真庭郡川上村に各1頭発生していますが特に池田村は以前にも発生している地帯であります。今年もすでに青森県,熊本県,鹿児島県,高知県に発生しています。

二.病原体

 人脳炎及び馬脳炎は共通した「日本脳炎病毒」とも言うべき一種のヴィールス(濾過性病毒)に原因し牛・豚・緬羊・山羊にも感染するものであります。

三.伝染

 本病の伝染は吸血混虫によって媒介されます。それは蚊の体内に本病毒が証明された事実と,蚊の発生時期に本病が多発すると言う明白な根拠に基づくものであります。

四.症状

 1.発熱,体温39.5度(摂氏)−40.5度の高熱を発し次の熱型に区分されます。
イ.1日稽留型………数時間及至10数時間持続し,特別に処置を加えなくとも再び急速に下降するもので経過は多く良好であります。
ロ.2日稽留型………30時間及至40時間40度(摂氏)前後の熱を稽留し第3日に至れば急速に下降し4−7日で多くは平熱状態に復帰します。本型が最も多いのであります。
ハ.3日稽留型………3日熱が稽留するもので経過は一般に不良のものが多いのです。
ニ.4日稽留型………4日間稽留するもので一歩誤ればへい死の転帰をとることがあります。
ホ.5日稽留型………5日間稽留し次にへい死の転帰をとります。
 2.沈鬱状態
イ.沈鬱
 発熱と共に必ず現われ,馬房の一隅,殊に光線の少ない片隅に茫然佇立して頭頸部を常に下垂し,外界に対して何等の注意を払いません。
ロ.反抗性
 馬房から引出そうとしても膠着して動かず,或は枠場に入れると狂奔するものが少なくありません。又沈鬱状態にあるものが注射等のさい突然前方に飛出すこともあります。
 3.興奮状態
イ.興奮
 発熱と共に直ちに興奮することはなく経過中に一側性の馬房内旋回を示し,知覚は過敏となり,僅かな刺激に対しても興奮して鼻孔を開張し騒擾します。
ロ.発汗
 発熱直後に発汗することは稀で症状悪化して狂暴期になるに至ると全身水を浴びた如く汗を滴下します。
ハ.痙攣
 狂暴期の末期,倒臥した後後四肢に痙攣を発します。
 4.顔面神経
 口唇麻痺により食欲あるに拘らず採食不能のものがあり又口中に入れても咀嚼不能のものがあり,更に咀嚼しても嚥下不能のものがあります。
 5.後躯麻痺状態
本病発生後に於て後躯蹌跟として馬房内にあって腰の一部を壁によりかかり敢えて歩行
させようとすれば左右何れかに後躯が片寄って来て末期脳症状顕著となり起立不能に陥ります。
 6.眼球及び視力の状態
イ.眼症状
 本病の特有の症状でその主なるものは瞳孔反射の痴鈍,角膜反射,疑視,瞳孔の散大又は縮少,眼球突出,流涙等であります。
ロ.視力
 熱発の間,外界に対する注意力全く無く一般に弱視となり狂奔期には全く視力消失し障害物に衝突します。
 7.食欲飲水の状態
 熱発と共に食欲は減退するが下熱後に食欲飲思が復活するものは予後良好で、食欲飲思の快復しないものは概ね予後は不良であります。

五.予防法

1. 予防注射の実施
2. 吸血混虫の駆除撲滅

家禽ペスト(ニューカッスル病)

 本邦においては大正14−15年と昭和11−12年に流行し,更に本年1月埼玉県下に発生し,現在なおその流行が続いている模様であるが,本病は厳密にいうとニューカッスル病で本邦では従来より家禽ペストのうちに包含されている。

一.症状

 潜伏期は3−8日で時には2−12日のものもある。甚急性のものは格別の病徴を現わさず直ちに斃死するが普通のものは食欲不振,運動不活発となり,呼吸困難や昏睡状態を呈する。冠や肉髯は暗紫色となり,渇を訴え,眼や口から水様又は粘稠な分泌液を漏出する。水様下痢や血液を混じた下痢を伴う場合もある。又2−34日の間に頸を曲げたり頭をかしげるものもある。比較的経過の長いものでは旋回運動や盲進或は麻痺等の神経症状を呈する。急性のものは普通1−5日で斃死する。
 本病と類似症状を呈するもので,家禽コレラ,家禽ヂフテリー,伝染性喉頭気管炎がある。家禽コレラとは,血液及臓器の培養により家禽コレラ菌を検出することにより,家禽ヂフテリーとは,病性が急速且つ猛烈なことによって判明できる。又ヂフテリーの場合の腔口の内分泌は,不快な特異臭を有することによって判別できる。又伝染性気管支炎の気管内分泌液には濃稠粘液塊又は血様分泌物が見られ,又気管の入口から気管支に亘って充血並びに出血と腫起をみられることによって本症との類症鑑別が出来る。

二.蔓延処置

 本病は野鳥類も罹病するので,野鳥よりの感染も考えられる。又病毒が風で運ばれることもあるが,主として接触感染のようである。病鶏の産んだ卵には病毒が含まれているので,遠隔地にも本病を流行させる危険性がある。
三.予防措置
イ.本病発生地からの鶏卵雛,飼料等を購入しないこと。
ロ.本病に似た症状を呈する鶏を発見したら直ちにその鶏群を隔離し,各関係官庁に提出指示を受けること。
ハ.鶏舎及び附属器具を消毒し,鶏舎内の出入には手足の消毒を厳重にすること。
 鶏舎,孵卵器の消毒にはクレゾール・ホルマリン等を使用すればよい。
ニ.発生鶏舎の消毒は特に厳重にし,飼料用麻袋や,叺はホルマリン消毒を実施すること。
ホ.病鶏及び物品は焼却処理を行うこと。
ヘ.予防液は現在家畜衛生試験場等で準備中である。

家禽コレラ

 家禽コレラ菌によって惹起される急性敗血症性伝染病で,昨年本病に類似した原因不明の伝染性下痢症が発生し,養鶏家の心胆をか寒らしめたのでその記憶も生々しいことであろう。

一.症状

 潜伏期は概して短いが一定していない。普通2−4日位のものが多い甚急性のものは何等の病徴を認めずして突然斃死するが,急性のものは食欲廃絶し元気なく佇立し肉冠,肉髯は暗紫色を呈する。渇を訴え盛んに飲水する。
 発病後1−2ヶ月で死ぬるものは下痢を認めない場合があるが,普通緑色様の水様便を排泄する。又経過の長びいたものは頸や頭を捩じる神経症状を示すものもある。家禽コレラ症状と類似したもので家禽ペストがあるが,本病との鑑別には血液,主要臓器の培養並びに鏡検により家禽コレラ菌を検出しなければならない。
 蔓延経路は多くの場合病毒に汚染された飼料,飲水により経口的に感染する例が多い。

二.予防措置

(1)一般的措置は家禽ペストと同様である。
(2)未患鶏には家禽コレラ予防液を,病鶏には,家禽コレラ血清を注射すれば効果がある。

家禽ヂフテリア

 本病は四季を通じて蔓延し,中雛,若鶏,産卵中の成鶏などの発育を妨げ,或は産卵を中止又は斃死するなど経済的被害は極めて甚大であるにも拘らず,家禽コレラや鶏ペストの如く経過が急激でないため,衛生方面に無関心の養鶏家は往々放任の状態の為,年々不測の被害を蒙っている場合が多い。

一.症状

イ.鼻腔,眼瞼内粘膜,口腔,喉頭,気管,気管支等に炎症を起し,涙や眼脂を出し,又鼻腔より粘液を漏出し,それが漸次黄色粘稠となる。
ロ.口腔,喉頭,気管の滲出液が漸次乾涸して豆腐粕様のものとなり不快臭を発する。
ハ.呼吸器粘膜を侵される時は呼吸困難を来し鼻頭を圧すれば粘稠液を流出する重症となれば鼻腔を塞ぎ,眼を侵される時は腫張し遂に眼瞼が密着する様になる。
ニ.食欲不振,羽毛粗硬となり,疲労倦怠の未睡眠状態となり遂に斃死する。

二.予防及び治療法

イ.雛の時代から栄養欠陥のないようにし,発育につれて可及的寒さに対して抵抗力をつける様育成すること。
ロ.四季を通じ発生するも,特に梅雨時期と初秋の候に発生し易いから,梅雨期には舎内を開放して換気不良や蒸熱をかもさぬ様にし,初秋においては賊風の侵入を防ぎ感冒が転機となってヂフテリアを誘発しないよう配慮すべきである。若し感冒鶏が出たら,過マンガン酸加里の1,000倍溶液を飲水代用に1週間位給与すれば,ヂフテリーの誘発を予防することが出来る。
ハ.家禽ヂフテリー予防液を病気に罹らない前に注射しておく注射時期は鶏痘予防接種と同期(6月下旬−7月中旬)又は1週間遅れて行う。
有効期間は注射後3週間頃より約半年程度である。
ニ.病鶏は速かに隔離し,適確なる治療を施さねばならぬ。治療法としては眼や鼻腔等の汁を充分搾り出して,過マンガンサン加里の500倍やヨーチンで洗浄する。又飲水代用として1%,過マンガン酸加里液を給与するか,0.3%サルフアダイヤジン,サルフアチヤゾールの飲用も効があるが、何れも連用は5日−1週間程度に止めることが必要である。
 又家禽ヂフテリー血清は予防治療共に効果があるが,効力は1ヶ月経過すれば効力を失う。最近ペニシリンの大量生産と共にその価格も低価となったので10万単位(70−90円程度)のものを1羽当1万単位注射すれば非常に効果があり治療も早い。

鶏痘

 鶏痘の病原菌は濾過性病毒で,口腔や鼻腔を浸した際はヂフテリー症と同様の症状を現わす。鶏痘とヂフテリーとは同一病毒に起因するものであるとさえいわれ,現在の処同一病毒であるか異なる病原体であるか,断定的な結論を得る域に達していない。本病は中雛及び初年鶏が侵され易いが,外面的には伝染としての症状が軽度である為,往々軽視されがちとなり,最も経済的に期待される若鶏の産卵が不振と経済的損耗が大である。

一.症状

 感染する肉冠,肉髯・顔面嘴の根その他羽毛の少ない所を侵す。罹病当初は粟粒大の小さい灰赤色様の硬い結節を生じ,日数を経れば暗褐色となり,中央部が少し窪み周囲は黒くなってかさぶた状を呈する。痂皮が脱落すると中から濃汁が出て不快臭を放つ。若しこれが眼に出ると結膜炎か角膜炎を起し失明する。なお本病は蚊が媒介する。

二.予防及び治療法

イ.鶏舎内を可及的乾燥清潔にすること。
ロ.本病の最盛期は8月中旬以後で,9月頃のものは病勢が強い。鶏痘予防の接種はその地方の発生時期の1ヶ月前に施行するのがよい。大体6月下旬−7月中旬迄の間に施行するのが普通である。
ハ.鶏舎内に蚊の侵入を防ぐため,除虫菊未燻煙や粗製クレオソート油と軽油を等分に混じたものを隔日又は3日に1回位舎内に撒布すると,蚊を防ぐと共に他の病毒の消毒や「ワクモ」の駆除にも効果がある。
ニ.痂皮を生じたものはクレオリン軟膏を調製の上患部に2日に1回位塗布する。軟膏塗布の際痂皮を剥奪する場合があるが,痂皮の処理が不充分であると反って本病を蔓延するから注意を要する。
ホ.眼,喉頭,鼻腔を侵されたときは,家禽ヂフテリと同様の手当を施せばよい。即ち過マンガン酸加里やサルフア剤の応用がよい。

雛白痢病

 本病は雛白痢菌の感染により起り,灰白色下痢便を主徴するものである。発病は初生雛時代が一番多い。幼雛時代を耐過し産卵鶏となったものは卵巣が多く犯されているので,その卵子の中にも本菌を検出することができる。従って保菌卵が孵化すると直ちに発病するのが常である。健康初生雛が感染すると平均2−3日の潜伏期を経て発病する。しかし孵化後感染までの経過日数が長ければ一般に潜伏期間も長く,孵化後20日経過したものは発病しないので保菌鶏として残存する場合が多い。幼雛時代に発病したものは灰白色下痢便を排し,又肛門周囲に糞便が固着して俗にいう糞詰り症状を呈する。
 最近では急速凝集診断液による白痢病鶏の淘汰により,保菌卵の孵化用に供することが少なくなったので,幼雛時代における被害が少なくなり,反って成鶏になってから感染し,保菌鶏となる慢性型のものが多い。保菌鶏は雄では睾丸,雌では卵巣に保菌して居るから,交尾感染もあるし,又糞便菌が一緒に排泄される結果,汚染された飼料飲水によって感染する場合もあり,感染経路は極めて複雑である。保菌鶏は一般に腹膜炎や心嚢炎を多発し産卵数の低下を来たす。

一.予防処置

イ.幼雛時代に発病したものはなるべく早く発見し屠殺,焼却処理を行い蔓延を防止する。
ロ.育雛時に予防の目的で1,000倍の過マンガン酸加里液を飲水代用にすると効果がある。
ハ.育雛前には必ず育雛器及附属器具を完全に消毒すること。白痢菌は抵抗力が極めて弱いので50−100倍程度のクレゾールで殺菌することが出来る。
ニ.種鶏は必ず白痢検査を実施し,無菌鶏より種卵を供給する様にし,少なくとも年2回(春秋)程度は検査の励行が望ましい。保菌鶏は現場殺し焼却処理する事が望ましい。
 発生鶏舎は完全消毒を実施し,運動場は定期的に石灰乳等で消毒し,天地返しをしたり取替える方がよい。
ホ.孵卵器中の感染もするからホルマリン等で消毒を励行すること。

コクシヂウム

 コクシヂウム原虫の分布は,極めて普遍的に互り,家畜の腸粘膜に寄生して,其の組織を破壊することによって起る疾病で,下痢を主徴とすることが多い。本病の実害は鶏が最も甚しく兎これに次ぎ牛其の他の家畜に就いては病例は左程多くない。故に以下鶏と兎について述べます。

一.鶏のコクシヂウム病

 最も幼雛時代多発する疾病で罹病すると幼雛より中は雛に亘りて特に病気に対する抵抗力が弱い為,斃死するのが全群に及ぶことも稀ではない。県内にも近来真庭郡及び岡山市の一部に,夫々,発生を見たが被害は僅少に止った。
 季節的に高温多湿の梅雨期に入ると,人畜共に各種伝染病の発生を見易いが,鶏に於ても,最も本病に侵され易い時期であるので,育雛者は特に,細心の注意が必要です。病気に対しては常に平常の健康状態に注意し治療より先ず予防と言う点に心懸けるべきであります。

症状

 一種の目に見えぬ原虫が小腸又は盲腸に寄生して起る伝染病で,病原体の種類によって症状に違いがあるが,急性のものは出血と下痢とを伴い,血便をするのが,特徴である。孵化後1−2ヶ月の雛が,最も罹り易く梅雨期に多発し,大損害を与えることは前にも述べた通りです。最も急性のものは下痢をして,羽毛を逆立てて頸を垂れ,居眠りをして,急に衰弱する。出血性腸炎を起し,血便をして,短期間にたおれる。やや成長した雛では経過が長引いて,栄養不良で体が衰弱し,羽ばかり伸びて,丁度羽織を着た様な格好になり,次々たおれる。
 孵化後1−3ヶ月の雛が本病に感染すると,約5日後に突然血便を排し,多くは2日の経過で死亡する血便排泄期間は3−5日である。

治療法

 現在のところ適確な治療法はないが,最近サルフアメラヂンが,非常に効果があることが明らかにされた。これは稍高価な薬であるが軽症のものに応用すれば効果のあることが,実験的に証明されている。
 2−3週間雛 1羽1日 50r
 3−4〃   〃    65r
 4−5〃   〃    85r
 又,フラシン系の新薬が発売されているが,この薬品はサルフア系や,ペニシリンと共に,創傷,化膿症,皮膚病に,応用され,サルフア剤よりも値段が安くその効果の大きい点で評判が良い。
 大日本製薬より発売されている動物用モナフラキシンなどがあります。併し本病は確実な治療法がないので,予防を完全にして発生を未然に防ぐことが大切です。

予防上心得べき事

イ.コクシヂウムのオオチスト(寄生虫の卵に相当するもので糞便と一緒に体外に出る)は鶏の体から一度出ると,中々死滅しない。陰湿の運動場などでは1年以上も生きていて,毎年害を与える。
ロ.オオチストは消毒に対しては,極めて強く,普通の消毒剤で消毒しても効果がないが,熱に対しては極めて弱く,熱湯(摂氏70度以上)では死滅する。
ハ.上のことから,コクシヂウム予防の第一条件は,熱湯消毒を励行することです。
 消毒薬を用いる場合でも,熱液として行わないと,効果は薄いので,高い薬品を使うより寧ろ,熱湯消毒をして日光乾燥することが,より効果的であります。
ニ.糞を危険なものとし取扱処理を厳重にしましょう。コクシヂウムは糞便と共に,体外に排出されたオオチストが,外界で一定の温度と湿度とによって発育しそれを飼料や飲水や土壌と共に雛が摂取して感染するものでありますから飼箱や飲水器の中に雛の糞が入らぬ様又脚を踏み込まない様にすると共に,糞は安全な場所に取除きましょう。

二.兎のコクシヂウム病

 兎においては,日常吾々の接する健康家兎も大部分保虫兎であります。従って何等か抵抗力の減退を来す様な誘因のもとに於ては発病し易く,特に,仔兎は抵抗力が弱いから発病しやすい。一腹の仔兎の内,まず一匹が罹って斃れますと,残りの仔兎も次々と過半数以上倒れて往く事も,しばしばあります。生後4−6週までのものが多く特に,仔兎は抵抗力が弱いだけに罹病率が高いので注意が肝要です。