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日本に於ける山羊の飼育

連合軍総司令部天然資源局農業部顧問
コーラル・エ・リーチ氏
ステートメント

 日本に於ける乳用山羊飼育業に関し過去3ヶ月研究の結果,もしも未開発の飼料資源を完全に利用するならば日本に於ける山羊の飼養は次の数年間に10倍も盛んになるものとなり,農家に多大な利益をもたらすものであることを確く信ずるに至った。現在日本の農家が有する山羊の数を60万頭と計算して,この増加は大体農家1戸当り1頭となることを意味するものであるが,それでも尚農家の全家族に必要な乳を供給するには充分でない。もしも充分な飼料資源を開発することを得るならば,栄養の立場から見て,ゆくゆくは一農家少なくも2頭の山羊を有するまでに増加することが望ましい。
 山羊乳は世界中所謂保護食物の主なるものの一つとして認められているところのものであって,この事は日本に於ても漸次認識されつつある。山羊は戦時中も引続き増数した唯一の主要家畜であり昭和24年,25年にかけて殆んど20万頭の増加を見ている。
 山羊乳が更に一層多量に日常の飲食中に摂られるよう奨励するべきである。それはミルクが自然のまま摂取される極く僅かな食物の一つだからである。また日常の飲食物中でも食用たることのみを役目とする唯一つのものであるからである。我々の食する他の食物は総て何か他の役目を果たすところのものである。例えば大抵の野菜は植物の根か葉であり,果物は植物が種子を含有する部分であり,肉は獣の体からとったものである。唯ミルクのみが自然によって食物として工夫されたもので「最も完全に近い食物」との名称を得ているのは当然である。
 日本人が山羊乳をもっと多く使用するということは,健康の増進上,結核其の他の疾病の予防並に医療上,更に歯が悪くなるのを防ぎ食餌中の無機質分の不足を補う上に於て大切である。各人の健康と能率を増進する上に於て毎日の常食に他の何かを加えるよりも一層効果あるところのものである。
 山羊の飼育が更に盛んになることを制限する要因に対する私見は,先ず第1,日本人の常食の中にミルクを用いることに対する歴史的な欠陥であって,これは新聞,学校,農民機関,組合といったようなものを通しての教育によって補わねばならないものであるということである。第2の要因は更に多くの山羊を飼養するためには現在のままでは飼料が充分でないということである。
 現在ある飼料のよりよき利用と土着の野菜秣用植物をより多く利用すること,そして輸入荳科植物を採り入れることが今後継続して山羊飼育を発展させるに必要な飼料を供給することを得しめる。飼料と給餌法に関する主な研究は先ず国立並に県立試験場に於て始めるべきことを総司令部天然資源局への報告書に勧告して置いた。日本では殆んど利用されていないエゾヤマハギ,この固有の荳科植物がアメリカの農場では非常に成功して居りその原産地日本では更に一層利用価値の多いことを証明すべきであることを私は指摘して来た。同様にもう一つの固有荳科植物であるクヅもアメリカではよく利用され成功を収めているのに日本では唯その野生の状態に於て知られているのみである。輸入荳科植物例えばラジノクロバーのようなものも亦乳用山羊の頭数をふやすために必要な秣用標物の需用を充すに相当見込のあるものである。或る地方で非常に優良な種付用山羊を目にした最も優秀な日本の山羊を代表する一郡はアメリカ其の他どの国の最優秀な山羊の品評会で競ってもそう引けを取らないものであることを確信している。日本には国内の山羊を今後継続改良して行けることを保証するに必要なだけの優良な質の種付用山羊が現在いる。