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巻頭言

家畜保健衛生所の設置について

惣津 律士

 家畜保健衛生所法に依る家畜保健衛生所の設置は全国的に急速に促進され,本県に於ても既に設置を了したものが10ヶ所で本年度中に更に10ヶ所の増設が予定されてその配置その他について慎重なる考慮が払われつつあるが,とも角今秋よりは合計20ヶ所の保健所が活動する事となって居る。
 この保健所を地方に於ける家畜衛生の向上を図り,畜産の振興に資する目的を以って設置されたもので,これには人工授精施設が併設され生産率の向上にも資して居るのであって,この保健所の適切なる活動に依って関係有畜農民の受益は甚大であるので多大の好評を博している現状である。
 保健所としては家畜衛生に関する思想の普及向上を図ると共に,家畜伝染病の予防,播殖障害の除去を主体とし,原則的には一般診療は行わない事になって居るが,緊急の場合とか,無獣医地帯に於いては一般診療は行って差支えない事となって居る。
 家畜伝染病の防遏は治療よりも予防が第一であって,今般改正の家畜伝染病予防法もその点が特に強調されて居り,保健所の持っている使命は極めて重大である。近時北部地帯に於て保健所と開業獣医師との間に摩擦が起きている点が見受けられるが,保健所は有畜農民への良心的なサービス機関でもあり而も地方民のもり上る協力に依って設置されているのである。
 保健所の行きすぎはもとより許容出来ないが,開業獣医師は本施設を法律の定める所に依って利用する事が望ましいのであって,徒らに民業圧迫と言う線にこだわる小乗的精神はいさぎよく除去して,心から協力して戴き度いのである。
 保健所と団体の診療機関と開業獣医師との心からの協調こそ獣医道の発露であって,これに依って健全なる畜産の発展が期し得られるのである。
 更に人工授精施設としては民間の種牡牛管理者との間の問題がある。保健所は決して開業獣医師をも又種牡牛管理者をも圧迫するものではない。
 畜産関係者として常に畜産農民の幸福を第一義的に考えるならば,くだらぬ摩擦は生じないはずである。お互いに技術の練磨と精神の高揚を図る必要を痛感する昨今である事を特に申し上げ度い。