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夏のカナリヤの飼い方

都窪郡加茂町 藤井順一郎

 カナリヤ飼育の皆さん本年の巣引状況は如何ですか。御期待された以上の御成績をおあげになったことと思います。これからカナリヤの夏の飼い方についてお話し致します。カナリヤの蕃殖も大体8月末を以って終わりますので,今は最後の追込戦とも言うことが出来ましょう。非常に暑い時期の繁殖は今迄と異りまして蕃殖期間中最もむつかしい時期であります。カナリヤの親鳥は,暑さには強いのでめったに病気にも罹らず,死ぬものではありませんが,夏の雛は生れて7日以内に,よく暑さのために蒸せて死ぬものであります。夕方まで元気でいた雛が,翌朝は死んでしかも既に腐っているというように落胆することが度々あります。このことは皆さんも御経験がおありのことと存じます。これは折角孵化した雛が外温と母鳥の体温に堪え兼ねて死んで行くのであります。この斃死率は飼育場の通風等の関係で相違はありますが,50%から80%と言われて居ります。ではこの斃死を如何にして最小限度に喰い止めるかと言うことと交配に付いてお話し致します。
 カナリヤの雄は雌よりも早く,換羽にかかるものが多いのでありまして,早いものは7月初めから換羽を始めるものがあります。羽毛が1枚でも抜け始めますと,鳴きも止まり,交尾もしなくなりますから,油断していると産しても全部無精卵となって,最後の繁殖期を失って仕舞うことになるのであります。それですから,交配に当りましては雄によく気をつけて,元気発刺として,よく鳴いているものを選んで交配しなければなりません。
 次に雛が孵化致しましても今迄使用していた普通の巣では,折角元気な雛が前に申しましたように,蒸せて死ぬ事が多いのでありますから,予め周囲から空気のよく通る穴の沢山ある藁のあらい巣を作って置き,孵化直後それに移してやりますと,春雛と同様よく成長するものであります。
 それから飼育場の戸,障子は朝早くから夕方迄開け放して通風をよくし,出来れば窓の外に南瓜とか糸瓜,朝顔等を植えて,日蔭を作って置きますと,暑さを和らげて雛が暑さに苦しまずに相当な効果があります。これは今からでは少し遅いと思いますが来年は日蔭を作るものを植えることを忘れないようにして下さい。
 次に餌でありますが蕃殖中は動物質飼料が必要で普通茹た鶏卵を与えますが,卵はよく腐敗しますので一度に多く与えないで1日量の6,7分を朝早く涼しい間に与え,残りは涼しい場所に乾かぬように保存して置いて,午後4時頃に与えるように致しますと,よいのであります。尚,出来れば午前と午後の2回に茹て与えますと此の上はありません。
 濃厚飼料の荏胡麻や菜種は毎朝補給してやり,青葉はなるべく葉緑素に富んだ龍舌菜とか,かぎ葉,かんらん等の新鮮なものを充分に与えなくてはなりません。この3者の調和に依って始めて体格の優れた羽毛の美しい鳥が作れるのでありまして,カナリヤ繁殖の秘訣は,ここに有ると言っても過言ではないと存じます。
 尚,雛の脱糞により,親鳥の羽毛が汚れますと気持ちが悪いため自然餌運びがおろそかになり雛の発育に影響致しますから毎日新鮮な水を与えて水浴をさせなければなりません。
 次に換羽期の御注意を申し上げます。換羽とは毛替えのことでありまして雛の場合は雛毛から本毛に衣替えすることであります。大体孵化後80日前後から毛がぬけ始め,50日位で終るのでありますが,この換羽期こそ我々の厄年に相当する体の変調期であって,羽毛へ栄養を取られるため体力が衰えるものでありますから,濃厚飼料の菜種と青葉を多く与えて,充分栄養を取らせまして,完全な衣替えをさすようにしなければなりません。これが雛の最後の仕上げでありまして体格も出来,毛並みもよくなり且つ美しい毛艶も出るようになります。
 殊に夏仔は暑さと飼料の腐敗等のため,体格,毛並等がよくないものが多いのでありますから,一層飼養管理に注意しなければなりません。
 次に寄生虫とその駆除について御注意申し上げます。飼鳥家の大敵はワクモと言ってクモの子のような小さい外部寄生虫があります,これは俗に糞虫と言われて居りまして,昼間は箱の板の割目や留り木の穴等に隠れていて,夕方になるとぞろぞろ這い出して血を吸うものでありますが,抱卵中から育雛中は夜となく昼となく巣の中に出て来て血を吸いますので,雛は次第に衰弱して,発育不良になったり死んだりします。時には親鳥まで死ぬことがありますから3,4月頃ワクモの発生前に予防に努めるのが,最も賢明な策でありますが,若し発生致しましたら,先ず,巣を取り出し新しい巣を作って卵や雛を入れ替えてやるのでありますが,巣の底にD・D・Tの粉末か,今津蠅取り粉を少量撒布して置けば,巣には再び発生致しません。それから箱等に附着しているもので室内の場合は夕方戸障子を締めて風の入らぬようにして,アースとかキンチョールを小型噴霧器で室内全体へ撒布致します。これを数日繰り返しますと絶滅さすことが来ます。又室外の場合はこの方法では効果がありませんから,箱の内外全体へ石油か,D・D・Tの液をハケ等で充分塗って置くとよいのでありますが,ワクモは鳥の羽毛に産卵するので,7日後にはそれが発生致しますから,少なくとも10日置き位に2,3回繰り返さなければ,絶滅は期せられないのであります。これらの予防,駆除法は鳥には害はありませんが,D・D・Tの粉末を外面に撒布致しますと,鳥がなめて死ぬことが有りますから御注意申し上げて置きます。 
 終りに輸出について述べて見ましょう。昨年度の輸出羽数はニューヨークのオーデンワルド鳥獣会社へ27,400羽その他を合わせて約30,000羽が日本より輸出されました。本県からは関西以西の総輸出羽数の50%の約5,000羽が輸出されました。次に輸出の御経験のない方はカナリヤでありさえすれば買って貰えるとお思いではないでしょうか。決してそうではありません。前にも申しましたように体格,毛並がよくて,よく鳴く鳥でなければ向かないのであります。昨年度に於けるオーデンワルド買上げの撰別方法について聞いたところによりますと,各地から送られた鳥は横浜の世界貿易株式会社の集荷場で1羽づつ籠に入れて鳴かせ,2日間に1度も鳴かないものは送り返されたのであります。
 しかし1度返って来た鳥でも飼いなおして,よく鳴くようにして出せば差支えありませんが,弱い小さい鳥とか,爪傷尾羽の切れたもの等は不合格であります。もっとも尾羽の切れたものは抜き取って置きますと,約,40日位で生え揃いますから,よく延びてからお出しになれば差支えありません。聞くところに依りますと本年度の買い上げは8月から翌6月迄と言うことでありますが換羽等の関係で本格的輸出はやはり10月からと思われますので早く孵化したものから,人前でよく鳴くように訓練しておかねばなりません,猶今年からは雌も買い取るとのことでありますし,海外の需要度に達するには,前途遼遠でありましょう。
 飼鳥家の皆さん,不断の愛情と,撓ゆまぬ努力をされ,優秀な輸出カナリヤを1羽でも多く育て上げて外貨の獲得に寄与致されますことを祈って私のお話を終ります。(7月22日ラジオ放送原稿)