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乾草の調整法

多田技師

 乾草は牛・馬・緬羊・山羊・等の冬の飼料として最も大切なものでありますが今迄割合におろそかにされていたのではないかと思います。
 乾草の栄養価は生草に比べて消化は稍劣りますが,家畜の栄養保持及び健康増進上極めて大切であることは次の養分表を見ても明かであります。

飼料種類 澱粉価 粗蛋白質
(百分率)
カルシウム
(千分率)
野乾草 24 8.40% 6.41%
葛葉 29 14.9 12.12
萩葉 27 14.3 9.03
大麦 68 9.4 0.47
大豆 84 32.7 0.93
稲藁 15 4.1 1.78
60 15.5 0.73
米糠 58 14.8 0.67

 即ち野乾草は稲藁と比較すると養分が多く,且つ「カルシウム」が多い。大麦大豆・麸・米糠等は一般的に養分が多いが「カルシウム」が欠乏している。葛・萩の葉は普通の野乾草より養分も「カルシウム」も一層多いことがわかる。この点から考えて見て,将来葛や萩を極力利用することが大切であります。
 一般の農家においては,冬になると稲藁を主として,これに少量の米糠や麸を加えて与えているので家畜の健康に悪影響を及ぼしています。その例として骨軟症を起こしたり或は春の発情が順調にこないこと等は藁の中には飼料として大切な蛋白質や「カルシウム」や「ヴイタミン」等が非常に僅かしか含まれていないからであります。従ってこれらの欠陥を補うためには是非共良い乾草を作って貯えておいて冬季間の青草のない時分に与える必要があります。
 乾草の栄養価値は,草の刈取時期や刈取方法,又乾燥や貯蔵の方法によって異ってくるので乾草調整上注意しなければならない要点を簡単に記します。

一. 刈取時期と刈取の方法

 従来乾草を作って来た人達の多くは,8月か9月にならなければ作らなかったのでありますが,栄養価のよい良質の乾草を作ることが大切であります。これには若い柔かい草を使って作ることが良いと思います,若い草の中には蛋白質や灰分等が多く含まれていますから出来るだけ早い時期に若い草で乾草を作ることであります。
 要するに乾草の品質から見た,刈取の適期は,草の種類や土地の気候によって一概に定めることは困難でありますが,低地の堤塘,畦畔など芽出しの早い場所では梅雨が明けて空気が乾燥し,日射も強くなる7月上旬から着手し,山地の草の生育の遅い場所でも8月中に刈取を終るようにするとよいと思います。
 乾草の出来上りの良し悪しは,天候が非常に影響しますから天気予報等をよく調べて,晴天の見通しがついてから草刈を始めることが大切で,早朝から午前10時頃までに終るのがよいのです。刈取の高さは,根際から刈取るのは根元にある枯葉・土砂・木の枝等を混入する結果,乾草の品質を落し,又後の草生を害しますから根元より1寸位の高さより刈取るように心掛けなければなりません。

二.調整

 午前10時頃までに刈取を終ったならば成る可く日当の良い乾燥した場所に薄く拡げて,1日少くとも2,3回位一様に而も手早く乾し上げるように乾し返しを行ってから夕方陽のある内に集めて高さ2,3尺位の小さい堆積にして,夜露に曝さないように蓆などで覆いをしておきます。翌日は又一方では刈取りを行い,朝露の乾いた頃を見計って前日の草を再び薄く拡げて,第1日の操作を繰り返して,大体草の水分が15%以内になってから収納します。水分15%以内の乾燥程度と言いますと,禾本科の植物ですと茎の節の部分が少し黒くなって,潰しても殆んど水分が認められない程度でありますし,又荳科植物その他では,茎が脆く折れる程度になった頃を言います。
 草の乾燥は,6,7月頃ですと3,4日位,8月頃ですと2,3日位で大体今言った位の乾草が出来上ります,然しこの程度に乾燥する乾草はなるべく短時日に干し上げることが必要でありまして,長くかかればかかる程養分の損失が多くなり消化率も悪くなります。
 荳科植物の乾草を作る時には乾いて来ると葉が落ち易くなります。葉が落ちますと栄養価値が半分以下になりますから葉を落さないように特に注意を要します。
 このようにして,必要量の乾草を充分に準備して冬の飼料に困らないように心掛ける必要があります。

三.貯蔵

 上記のようにして調整した乾草は,翌春青草の出る頃まで,相当に長い期間貯えねばなりませんから,その間に雨洩りや雨風で湿って変質しないような所に貯蔵することが大切であります。

  乾草の品質の見分方
一.色沢
 色沢は深緑即ち青味を帯びたものがよい,褐色,黒色,その他雑色共によくない。
二.芳香
 芳しい香がするものがよい,黴臭いものは過熟醗酵したものであって不良品である。
三.弾力
 弾力あるものがよい,脆いのは刈遅れとか雨露に遇したものである。
四.光沢
 生き生きした光沢即ち油気のあるものがよい,枯色を呈しているものはよくない。
五.単味でなく荳科・禾本科・菊科等の良草が適当に混淆したものがよい。
六.雑灌木は勿論不良草・毒草等夾雑物の混入していないものがよい。

野乾くさの分類と栄養価
(故片山博士による)

区   分 水 分(%) 可消化純蛋白質(%) 澱粉価(%)
原野乾草 13.5 1 18.6
畦畔乾草 13.5 3.4 26.7
堤塘乾草 13.5 2.8 25.6

野草の刈取時期並刈取回数と栄養分との関係
(故片山博士の試験成績)

刈取時期 可消化純蛋白質(%) 澱粉価(%)
6月20日刈 1.7 31
7月20日刈 0.5 25
9月16日刈 0.3 21
刈取回数 可消化純蛋白質(%) 澱粉価(%)
1番刈(6月) 1.6 32
2番刈(7月) 1.6 22
3番刈(9月) 1.3 26

野草の刈取時期及回数と収量並栄養分量との関係(反当)
(故片山博士の試験成績)

刈取時期 乾草収量(貫) 可消化純蛋白質量(匁) 澱粉価量(貫)
6月20日刈 22 364 6,700
7月20日刈 35 168 8,700
9月16日刈 54 136 11,300

野乾草の栄養学的地位
(故坂常三郎氏による)

品   名 純蛋白質(%) 澱粉価(%) 石灰(%) 燐(%) ビタミンA ビタミンB ビタミンC
上等野乾草 4.1 33.7 0.96 0.7 多有
下等野乾草 1 18.6
牧草 3.9 22.8 1 0.5 多有
4.4 28.5 3.22 0.61
熊笹 2.8 12.5 0.22 0.11
葛葉 8.2 35.1 0.52 0.42 多有
稲藁 0.6 20.1 0.29 0.11 0 0
大麦稈 0.1 16 0 0
小麦稈 0.1 11.7 0 0
米糠(無砂) 9.1 75.6 不完全 不完全
小麦麸 11.3 47 0.15 3.69
4.1 58
燕麦 8.3 58.5 0.11 0.8 多有
大麦 8 67.9 0.07 0.92 多有
玉蜀黍 5.4 76.2 0.03 0.66
大豆 29.9 83.6 0.23 0.65 多有 不完全