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巻頭言

家畜防疫雑感

惣津 律士

 昨年の牛の流感は誰れの記憶にもまだ新しいほどその猛威を県下にふるったものである。あの当時を振りかえってみて,よくも最少限度に被害が止まったものだと思われ,防疫関係者の奮闘には頭の下がる想いがする。流感の発生時期を目前に控えた今日,国の対策に即応して県ではこれが防疫に万全の措置を講じて居るが,何はともあれ昨年のような流行は望ましくないものの,厳重な注意を要する事は申すまでもない。
 終戦後人間社会にも農産物にも病害が毎年出て,新聞紙上をにぎわしているが,本県畜産界でも昨年の流感についで,本年春に豚コレラが発生し,一部の人達のよからぬ行為が其後各地にその続発を促して相当数の豚の斃死を見ている。更に8月上旬には遠い地方の話のように考えられて居た鶏のニューカッスル病が後月郡県主村に突発し,その蔓延を防止するため同村の1,000余羽の鶏の殺が行われ,周辺地区の鶏の移動禁止はもとより予防注射の実施,出荷鶏卵の消毒等防疫上万般の措置を講じたため目下の処,他への伝播はない模様であるが,近年稀な酷暑をついて中々多忙な畜産課の昨今である。
 家畜保健衛生の本義は治療よりも予防であって,飼育者は幸に自己の家畜の健康に日常最大限度の注意を払う必要がある。若し不幸にして,伝染病が発生したならば,その蔓延
を最少限度に止めるべく努力しなければならない。
 今般改正の家畜伝染病予防法はこの強化徹底を目的として居る。いくら国や県が声をからし,さては経費を支出して防疫に乗り出しても,受入側が熱がなく,非協力的であれば,この法律も一片の作文にすぎなくなり,産業上に及ぼす被害は甚大となる。
 人間社会の衛生思想も未だしの感があるが,畜産農民の家畜に対する衛生思想は率直に申上げると極めて低級である。自分の身に火の粉が振りかかり出すと,あわてるが,平素は案外呑気であり而もお互に協力して,損害を防止する精神に乏しい。これは今般の鶏のニューカッスル病に於ても又他の場合でも見受けられる事であって,まことに遺憾であり,被害者に御気の毒である。私は畜産関係者がもっと大きい目を開いて,防疫に全面的の協力をされるならば,如何なる場合に於ても問題は割合簡単に解決出来るものと確信して居る。
 いくら改良増殖に乗り出しても,肝心の保健衛生思想がもっともっと向上しなければ,問題にならない事を強調したい。