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飼料用葛について

 飼料の自給と山地酪農への関心より,近年葛の研究が進んで来て,岡山県でも林業試験場高島分場や,久米郡福渡町の吉岡隆二氏の貴重な研究が進められているが,先般農林省より葛に関する調査を依頼され県内に於けるその研究と普及程度を調査したが参考になる点が多いので本誌に登載した。

葛に関する調査報告

一.葛の名称 クズ,カズラ,クズバカズラ,クズカズラ,クズバ

二.葛の種類 2種類以上ある。
 色によるもの=茎は稍黒きもの,黄色を帯びたもの
 節間によるもの=節間長きもの,短きもの
 葉の型態によるもの=丸型のもの,鋭角のもの
 以上型態上よりして2種類以上あるものの如し尚土質により沃肥地は発育良好であるが,原野等有機質少なき土地は発育不良である。
澱粉用としては茎色は黄色のものが利用される。

三.葛の分布 県内一様に分布している

四.葛の生育適条件

 1.土性
  沖積層,及洪積層,古成層,石灰岩質の砂礫土に生育良好
 2.酸度
  中性
 3.雨量
  岡山県の雨量は1,009o−200oであるが1,200−2,000oの中部以北(最北部を除く)に多く尚雨量多き程よく繁茂し900o以下では生育不良である。
 4.気温
  13度以上
 5.地形
  傾斜地肥沃にして水分多くしかも水はけのよい処。
 6.其の他の条件
  風通しのよい処がよい。

五.葛の利用

 1.家畜飼料として利用
  イ.生草,乾草
  ロ.給与家畜,乳牛,馬,役牛,山羊,家兎,緬羊
 2.繊維として利用
  結束用
 3.澱粉源として利用
  根を利用,真庭郡勝山町,久世町苫田郡加茂町
 4.水蝕防止
  現在利用してないが将来利用する必要がある。

六.葛が飼料として利用される理由
 無知識,無関心,労力不足による採種困難,可食量が他の草に比して割合少ない。

七.葛の増殖栽培例

 1.増殖の事例
  実施者の住所氏名
   岡山県上道郡高島村,林業試験場高島分場
  方法
   種子直播による。
   実生苗株による。
   ランナー新株による。
  岡山県久米郡福渡町 吉岡隆二氏
  方法
   種子直播
   実生苗株による    自宅で昭和21年以来研究実施している。
   ランナー新株による
   挿木による
 2.栽培事例
  岡山県上道郡高島村林業試験場高島分場
  方法 田畑の栽培 整地及施肥
  基肥に反当堆肥200貫追肥として過燐酸石灰5貫硫安3貫程やればよい(反収1,800貫の場合)
  撒種 3月中旬に撒けば霜除けが要るので普通4月上旬に播種する。約10日−15日で発芽する。硫酸或は温湯で処理したものは2−3日で発芽−発芽率は100%無処理は15−20%。反当本数24,000本が理想である。
  除草 発芽後1回程すれば,繁茂して草は生えない。
  培土 不用
  収穫 飼料用
  栽培の場合は4月播で反当株数24,000株で4回刈で1,800貫
 イ.実用苗株による方法
  荒廃山野の緑化,砂防,水蝕防止
  審生地の改良にはこの方法が適している。
  整地 深さ約1尺巾5寸の条を作るか径深さ約1尺の穴を掘る。
  施肥 植穴に反当堆肥200貫もやれば,どんな所でも生長する。
  収穫採草地の場合反当4,000株でその年に雑草共に約1,000貫は容易である。
 ロ.ランナー新株による方法
  実生苗株についで良い増殖方法である。
 ハ.波植,挿木による方法
  成績はよくない。
 ニ.山野へ直播する方法
  深さ5−8寸位の条又は穴を堀り,堆肥,石灰を入れると理想的で種子は芽出し播き,時期は梅雨時が一番発芽した種子が乾かないよう注意をする。
  本数の多い程早く多く収穫が出来る。初年は200貫位である。
   岡山県久米郡福渡町 吉岡隆二
 方法
 整地 最初径,深さ共に1尺の穴を掘り客土し一ヶ所5,6粒を播種する。生えてから有機質,廏肥,人糞尿,鶏糞等を入れる。
 播種期5月上旬−8月上旬
 発芽率は風呂湯漬(40度昼夜)したものを播種すれば100%無処理のものは発芽はするが長期間かかる5月上旬のものが9月上旬迄かかる収穫は普通の草の場合よりは2倍以上増産
 現在堤防斜面鉄道線路,大畦畔,原野に栽培中であるが増殖にはランナー法により現地において増殖している。

八.葛の研究例

 1.過去における事例
  岡山県上道郡高島村林業試験場
            倉田益二郎
 イ.葛蔓の新しい繁殖法 畜産の研究
  第4巻第3号
 ロ.飼肥料木草と植栽法
  岡山県久米郡福渡町 吉岡隆二
 イ.飼料用クズの栽培法……酪農事情昭和25年2月号
 ロ.飼料と畜産……昭和24年7月(兵庫県畜産会館発行)
 ハ.飼料自給指針……昭和25年10月畜産だより(県畜産課)
 2.現在の事情
  岡山県上道郡高島村林業試験場高島分場
  目的
  葛による草生改良,ハゲ山緑化
  葛の多収穫,油桐林の更正(クズの下作りによる)
  方法
  芽出播 2年生クズ,実生苗,株等の植栽
  経過
  有望
  岡山県久米郡福渡町 吉岡隆二
  目的
  自給飼料増産(原野畦畔,堤塘の草生改良)
  方法
  種子直播,実生苗株による,ランナー新株による挿木による,等4方法を実施
  経過
  いずれの方法も効果大で,現地の状況により適応して臨機応変して実施出来有望である。

九.葛の普及例

 1.過去における事例
  岡山県上道郡高島村林試高島分場
         倉田,松田,両氏
  田畑の栽培において1,000貫,ハゲ山の早期緑化及び砂防に効果あり
  岡山県久米郡福渡町 吉岡隆二
  原野畦畔堤塘の草生改良に適すが特に堤塘には最もよく現在旭川沿線5町に亘り植裁(3年又は4年前より)草生量は野草のみの場合の2倍以上(実際はそれ以上)あり乳牛3頭飼育しているが乳量は著しく増量している。
 2.現在
  岡山県上道郡高島村高島分場
  目的
  クズによる草生改良,ハゲ山緑化
  クズの多収穫
  方法
  芽出播,2年生クズ実生苗株等
  植裁
  経過
  有望
  岡山県久米郡福渡町 吉岡隆二
  目的
  原野堤?,畦畔等採草地の生草改良及び草生量の増加による家畜飼養改善飼料費の節    減
  水蝕防止
  方法
  現在附近畦畔,堤塘,原野の植裁の外実生苗株を増殖し県種畜場(御津郡牧石村)種畜産農場(津山市)に苗株を分譲し各場において畑及原野を初用試作中である。
  経過
  いずれも有望である。

一〇.今後の方針

 1.研究及調査
  山林,原野,畦畔,堤塘等の草生改良に依り草生量を増加し畜産増加の溢路たる飼料費の節減は急務である。特に葛,カラスノエンドウ其他の日本個有の豆科の野草の改良活用により自給飼料の開拓は飼料増産上残された大きな問題である。幸本県には林業試験場高島分場あり,民間には永年研究している吉岡氏あり今後は之等の協力を得るには勿論県として本格的に之が分布育成状態を調査すると共に畜産関係機関(主として種畜場,普及所の展示圃等)において之を試作せしめその成育,収量,其他を調査研究せしめる方針である。
 2.普及並奨励
  葛の利用の少ないのは葛そのもののもつ特性に対する一般の無関心,無知識によるものが極めて大なるのに原因するものであるから,前述の研究者の今日迄の事例を発表すると共に県下73地区普及員に対し葛に対する認識を埋めるため講習会,実地研究会を開催し知識の啓発し努めると共に之等を通じ下部に浸渉せしめる方針である。
一一.其の他病害虫について
 1.ハマグリバエ,5月下旬から秋にかけて発生するが予防,防除の方法なし。
 2.イボ病,自然発生のものに多く5月中旬より発生するが現在対策なし。
 3.赤ダニ,6月に発生,石灰硫黄合剤,デリス剤で駆除出来る。