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巻頭言

緬羊について

惣津 律士

 昨年以来本県に於て緬羊熱が漸次隆盛になって来た事はなんといってもうれしい事である。本県のような一流の産牛地で今まで緬羊が遅々として殖えなかったのは実に不思議な気がしてならない。特に中北部の畑作に富んだ地帯では農家経済の向上の上からも特に取り上げねばならない問題である。飼養管理が極めて容易であり,粗飼料の利用性に富み,その生産物の利用面の広い緬羊は農民にどしどし愛好されてよい訳である。
 現在県下に2千頭の頭数があるが,県の補助を受けて毎年東北の先進県から250頭程度導入されて居るし,津山の畜産農場では優秀な種緬羊を繁養して本格的の改良に乗り出して居る。早い機会に1万頭の線まで持って行きたいものであり又農業経営の実体から見て充分可能であると思って居る。
 全国の頭数は既に50万頭の線を突破し,日本コリデール種は最近世界的にも認められるようになり,昨年11月に新西蘭で開催された世界コリデール会議には,日本側代表者の出席が求められた実情である。日本緬羊登録協会の登記登録頭数も相当数に上っている。このような状況下で,甚だ遺憾な事には本県の緬羊は量的にも,質的にも貧弱であって,中国地方に於てすら下位にある事は昨年秋の連合共進会ではっきり証明されて居る。
 その実体を見ると,飼養管理の不良からくる損耗が特に大きい。この根本の欠点を除去するには先ず飼養者の技術の向上と心がまえをかえる事である。
 本県には古くから小田郡美川村に守屋福四郎さんと言う熱心な唱導者がある。近頃は各地に熱心家が相当現われたが,その内で異色のあるのは苫田郡阿波村の稲田金松老である。この老人は緬羊狂とも言うべき人物で大ヶ山の牧野を利用して遠大な構想の下に斯業の進展に寄与している事は特筆すべき事と思って居る。
 どんな農家でも1,2頭は楽に飼養出来て,そのよさを味わい得るものである。私は本県に,あの愛らしい緬羊が大衆に愛せられながら隅々まで普及して明るい農村が生れ出る事を心から念願して止まない。