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ダットン氏日本の牧野を視察勧告発表

 本年3月,総司令部の招請により我国の牧野事情視察に来朝した米国農務省牧野経営部長ダットン氏は,来朝以来5月末までに・岐阜・兵庫・岡山・熊本・大分・宮崎・鹿児島・岩手・秋田・青森の各県と北海道を視察した以下それが勧告文の要約である。

日本に於ける牧野の管理及び行政

WALT・L・ダットン

要約

一.問題及び関連事項

 日本の牧野は2つの重要な目的に役だっている。第1のそして最も重要なことは土地の破壊的エロージョンの進行防止であり,第2は家畜飼料や堆肥原料の生産である。草に対する一般の関心は,家畜飼料としての認識にとどまり,この国土保全の点は見逃されている。日本国民はすべからく,土地保全の観点になった牧野の管理に留意すべきであり,この点を見逃さない限りその前途は諸外国の如く洋々たるものがあろう。
 日本における飼料「草」生産地はその能力を充分に発揮して国民の福祉に貢献しているといえない。問題は他の資源特に木材生産,治水の目的と背馳することなく,最大の生産をあげるためには如何に牧野を管理するかということである。
 成熟後6週間乃至2ヶ月も経過してから採算する現在の慣行のもとでは,草の飼料価値は著しく失われる。生産物は木繊維より僅かにましな程度であり,リグニンが多く蛋白質含有量は著しく低い。このようなものは家畜は喜ばず,他の飼料を補給するのでなければ家畜を維持することは殆んど不可能である。
 輸入牧草種子を播種して改良をはかろうとしている牧野の多くは,比較的遠隔の地に存在している。これ等は在来の野草,灌木が密生しており,整地のためには莫大な施設労力等夥しいものであり,播種後他の競合する植物を排除し導入草種を維持してゆくために夥しい費用が不断に必要とされる。更に又,何を何時何処に如何にして播種するかは殆んど明かにされていない。或る場所では過放牧過度の採草によって草生は悪化し,エロージョンがおこっているのがみられるが,一般には現在の利用程度では飼料「草」資源の保持・治山・治水に有害というほどではない。
 私有牧野では毎年広く火入れが行われ土壌や飼料価値が損はれている。針葉樹林で放牧の被害をうけているのは,比較的家畜の近づき易い地域である。牧野は?々林地を交錯し又はこれにとりかこまれており,これ等について交錯した管理,行政の円滑な連絡が望まれる。綜合的土地利用の計画をたてる上の資料に乏しい。
 私有牧野にまで及んでいる現行法規は第1に監督の責任を地方庁に課しており改良事業を行うことは,所有者の意思に従うところであり,破壊的土地利用に対して中央政府はこれを禁止する何等の権限も持たない。牧野行政並びに研究機関は夫々の分野で責任をはたしてゆける人材を備えていない。

二.結論及び主要勧告

 採算の適期を逸していることは飼料価値の数えきれない損失をもたらしている。現在の採草の慣行のもとでは日本の牧野は現在以上にさほど多くの家畜を収容してゆくことは不可能であろう。ここに強く要請されるのは採草適期,干草法,草サイレーヂ(春収穫したもの)について徹底的研究を行うことである。
 高地の自然牧野に牧草種子を播種して,改良をはかることは近い将来においては実行不可能のことである。従って牧野における播種は試験にせよ,実際の播種にせよ比較的水平又は低地の近い土地(堤防,河川敷を含めて)を目指して行わるべきである。針葉樹林内での放牧はさけなければならない。火入れ土壌及び草の飼料価値を損うものであり禁止さるべきである。
 総合的土地利用の調査及びその利用が誤られているのは,土地の適用な利用を妨げている。
 (a)土地の現況及び利用状況(b)土地の利用法(c)調査の結果の具現化の夫々について計画された調査についての規定が定められなければならない。
 私有牧野にも及んでいる最近施行された法律は目的において健全であるが中央政府の取締りの項において不備な点がある。これは管理監督の多元化を来し,混乱に導くものであり新牧野法は,(a)管理規程の適否を決定する更に大きな権限及び牧野の破壊的使用を停止させるため直推措置をとる全面的権限を中央政府に与えるべきである。牧野管理及び研究に精通した適当な人間の得られないことはその夫々の分野において適当な指導の行われるのを妨げている。この仕事の量及び重要性に適応した水準迄人員を増加すべきである。
 国有林野が個人有に移る際は,私有になってもそれが国有の場合と較べて国民の福祉に貢献する点において劣ることのないよう特別の注意がなされなければならない。