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牧場だより

津山畜産農場

△高原の秋
 ○暑いも寒いも彼岸まで……というが今年は意外に早く冷気が訪れて作北の地は大分冷えびえして来た。高原の牧場の朝は気持がよい。朝6時頃起きて南に津山市街の1部を遠望し北に連なる山々を眺めながら新鮮な空気を胸一杯に吸い込む時の心持は何にも例えるものがない。

△経済部常任委員会の視察
 ○4年振りで県議会常任委員会の方々の視察があった。前回の視察は昭和22年であったからまだ興農塾から引継いだ事務所外2棟があったばかりで畜産施設は何もない時であったから当時を御承知の方は全然見変わったと思われたことであろう。一応説明の上場内隈なく極めて熱心に視察していただいたことは当場として洵に有難いことであり委員の方々に対して深く敬意を表する次第である。殊に人工授精のところでは精液の採取からその取扱方法等を詳細視察を願ったことは幸であった。吾々場員一同はこの時の委員長の御言葉を体して一層の努力をなす決心である。

△畜産技術錬成会

 ○吾々場員が場内において努力して優良な種畜種禽を造成してこれを地方に供給することは種畜場としての至上の使命であることは申すまでもないがこれと同時に管内農家の畜産技術を向上させ一層合理的な有畜営農を推進することも重要な使命である。この目的で先般作州地区を2回に分ち農村の中堅青年を各郡から10名宛推薦していただいて3泊4日の日程で畜産技術錬成会を開催した。錬成会という言葉は戦時中よく使われたもので自由民主主義の今日では適せないものの如くにも考えられるが今日の農村の青年の人々に対しては錬成が必要なのではあるまいか。ただその方法如何でこれを現代に適合する様にすればよいと思う。

 ○当場における錬成会は普通の講習会等とは聊か趣を異にし場員と共に汗を流して畜産技術の錬磨を行うのが目的であるから講義より実習に重点を置き朝の草刈から夕刻迄終始一緒に仕事をした。東京のたけださんが現在沢山の職業畜産講演師がいるといって居られるが全く同感で吾々はか様な講演師であってはならない。か様にするところに錬成会の意義があり,又か様にしなければ実績が挙らないと思う。今回の参加者がよくこの趣旨を了承せられて熱心に受講せられたことは喜ばしいことであった。

 ○今回の錬成会の参加者は郡の畜連に御依頼して推薦していただいたのであるが第2回の如きは希望者が多く収容力の関係でやむを得ず,人数を制限しなければならなかったことは洵に残念で参加出来なかった人に対して申訳なく思っている。而して当場はまだ宿泊設備が極めて不充分であって折角来られた人に対しても大変御迷惑を掛けたことは相済ない次第であった。

 ○両回共3日目夜座談会を催してかくの如き錬成会に対してその方法その他について講習生の意見を聞いたがこれを参考として将来は順次改善して行きたいと思っている。今回の錬成会は各家畜,農場全般に関する事項について行ったが将来は必要に応じ乳牛・和牛・緬羊等夫々専門的な錬成会を催し特に乳牛については婦人の搾乳講習会の如きものを開催して技術の普及滲透に努めたい。

 ○今回の錬成会開催については各郡畜連には多大の御配慮を煩わし当場のこの仕事に御協力を願ったことに対し深く謝意を表する次第である。

△4Hクラブ幹部講習会
 ○6月6日から2泊3日で農業改良課主催の作州地区4Hクラブ幹部講習会が当場で開催された。集った人は各普及所から推薦された4Hクラブの幹部たる青年諸君30名であり県から大岡,大森,小野の3技師が講師として来られた。将来の農村振興の基盤たらしめるため,農業改良事業の一環として4Hクラブの育成を図っているのであるが,今回の講習を当場で開催していただいて,吾々も4Hクラブに関する色々なことを知り得たことは幸であった。ただ前述の錬成会の時と同様に宿泊設備の不充分のため御迷惑を掛けたことは相済まないことであったが,講師の指導の下に規律ある講習を受けられたことに対して敬意を表する。

△普及員に対する和牛の審査実習
 ○作州地区農業改良普及員の希望で8月28日苫田郡,9月15日久米郡の普及員に対し当場で和牛審査の実習会を催した。申すまでもなく作州地区は本県和牛の産地であるので,畜産出の普及員の人は勿論農事出の普及員の人も和牛の審査眼を涵養することは極めて必要なのでこの意味で今回の催は洵に好適であったと思う。

△緬羊の新鋭入場
 ○作州地方における緬羊の飼育熱は近年頓に勃興し当場に対しても緬羊の分譲方の希望が多数にあったので本春生産の仔羊等10数等を払下し,その補充として加本,小島両技師が緬羊購買に福島県に行かれた機会に御依頼して9頭の優良仔緬羊を導入した。又近日国有種雄緬羊が入場する予定である。

△イスメー雌仔牛を分娩
 ○畜産課の日室技師から昨年譲って貰った乳用種雌牛イスメーが先日雌仔牛を分娩した。この牛は血統体型共に優良であるので産乳量も多いことと期待している。児島郡山田村の高畠郁太氏の折紙付でもあるので早速知らせてやった。おやじさんも喜んで呉れていることと思う。

△参観者激増
 ○最近当場を視察に来る人がめっきり増加した。自分は当場に来た時場員に……人の出入が多くならなければいけない……と申したことであるが錬成会をやったり又視察者が増加したりして地方との関係を努めて密切にすることが必要と思う。吾々のやっていることは象芽の塔に立籠っての研究ではなくて農家の日々の仕事と直結していなければならないのである。これでこそ吾々としても毎日の勤労も愉快に出来る訳で地方畜産の発展にも大いに貢献することになると信じている。作州地方の畜産農家,中堅青年諸氏よ……大いに当場を御活用願いたい。
 働く農場 県下農家の道しるべ。(26.9.20記)