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巻頭言

迎春こもごも

惣津 律士

 昨年を通じて新聞ニュースを賑わした畜産記事は主として家畜伝染病の事であった。春から豚コレラを筆頭として鶏のニューカッスル病,牛の流感とつぎつぎに発生して畜産課は恰も家畜防疫課の様相を呈したが,関係者の必死の努力で被害を最少限度に喰い止めた事は何より幸いであった。こんな記事は本年からは抹消しなければならない。
 本年の大きい畜産ニュースとしては有畜農家創設維持計画の実施であろう。これは既に新聞,雑誌で御承知のように昭和27年度を初年度として10ケ年計画で全国無畜農家335万戸中有畜化可能農家127万戸を有畜化して我国の農業経営を合理化し農民生活を安定せしめて国民生活水準の向上を期せんとするもので画期的な畜産振興対策である。この措置としては主として家畜導入及び畜舎建設資金の融資が取り上げられ,それに附帯する。各般の施策が講ぜられる事となって居る。
 有畜農業と言う言葉は昭和の初頭から唱えられ,特に戦後はこれに依ってこそ日本農業の振興が斯し得られるものと,凡そ畜産を論ずる人は誰れしも言う通用語となって居る。この当然の事が力説され乍らも何故有畜化が促進されないのか。これはそれを裏付けるものが何にもなかった事が大きい原因であろう。私は農林省の企図するこの施策が通常国会で法律化され,予算が計画通りに確保されん事を切望するものである。今まで畜産局の制定した法律,例えば家畜改良増殖法にしても,牧野法にしても肝甚の予算の裏付がいかにも貧弱である為め,地方に於ては法の運営に甚だ困却している事はいなめない事実である。
 伝染病対策のみが新聞の特ダネになっているのは決してほめた事ではない。畜産はあくまで常道を歩まなければならない。私は日本からこの「有畜」と言う言葉がなくなる時こそ本当に農民生活が豊かになる時だと思って居る。
 去年11月千屋種畜場は創立30週年記念式を挙行し,数多い貴重な業績を展示し,牛の祭典を行った。私はこの栄典に参列し,岡山畜産振興の本堂の丘の上に,講話条約調印後初めて,ゆったりとひるがえる日の丸の旗をあおいで感慨一入であった。我々の愛する祖国は健在である。これを培かうものは畜産である。

 駄作一扁 秋晴や牛を壽ぐ千屋の里