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昭和27年
畜産岡山の抱負

畜産奨励の立場から

 全て産業形態には色々な部門と不可分の関連性をもつのは勿論で畜産のみの面でも広く農業はとりもなおさず園芸,食品加工,繊維,皮革迄にも関係をもつ。
 然し通念として畜産は日本では独立産業としては考えられず一般に農業の中に重要なる要素として参画するものとされている。
 ここに畜産行政の複雑性と難関がある。
 その畜産行政の中で更らに細分されている奨励を分担している立場に於て若干の夢を取り交ぜた構想を述べてみたい。
 概して我々技術行政を担当する者の常として専門的な分野にのみこうでいして関係分野に対する視野なり感覚がうとくなり勝ちな通弊があるが今その通弊を露出する許りでなく又限界を踏み外して他から御叱りを受ける様な事迄言及するかもわからないがこの点は御寛容を乞う。

岡山県畜産の特異性

 全国的にみて畜産の特異性が地域的に或いは府県別に認められるが岡山県はその中で特に目立つ特異性がある。
 具体的に言えば最も質量共に優れているものが和牛であり,之に次いで鶏がある。
 つまり大きいもので和牛,小さいものの鶏と両極端の発展をして居り色分けで示せば黒と白とである。
 それ以外の家畜が段違いの状態にある。
 これは一言に「現存しているものは理に適っている」とする概念のもとに片附けられない問題である。
 和牛の如きは既に古い歴史と体験を経てすっかり不動の地位を確保しているがその反面乳牛や馬,中家畜等が現状に足踏みするものと諦めきる理由はない。
 殊に酪農や中家畜は大いに伸び得る余地がある。
 こうした特異性を突込んで分析検討することは差しおくとして只適地適畜の基本的理念のもとに特異性は特異性と生かし乍らも大人と赤ん坊の差のあるものをせめて少年か青年程度に引上げてゆかねばならないと考えている。

畜産奨励の方途

 そこでどう言う構想と施策をやるかと言うことになるが些さか上に掲げる看板の文句の割に相も変らぬ陳腐な内容となって申訳がないが………大体次の様な考え方を筋としたい。
 先ず第1に立地的に適地適畜の調査資料に基いて振興計画を樹立することである。
 具体的な例を言えば地勢,交通地位,耕地と作物関係,等の基本的な点から家畜への選択が求められるわけである。
 不便な山の上に酪農や養豚を奨めることは舟を山へ上げる程でもないが少くとも有利な適畜としては常識的にも考えられず又南部の生産地で和牛の生産を期待するよりも利用の有利さを指向することが合理的だとの判断が生れる。
 第2に人を得ることである。組織づくること指導世話するのも人が中心であって大きな役割を果すものである。
 最近村には農協があり,ブロックに普及所があり,郡には畜連も家畜保健衛生所もある。こうした外に知的経験のある人もある。
 これらの人達に活躍して貰う態勢なり連りが必要となってくる。和牛界には和牛人と俗称する程に和牛関係者は次から次に後継者がある。之は牛が必然的に人を求めているからである。他の家畜には之が足りない。
 手をこまねいていても決してこうした人は求められない。求める道を考えることが必要となってきている。
 特にアムビシャスでありパッションをもつ人を!
 第3に金融の問題がある。
 農家に家畜が必要であることを説くのは釈迦に説法だが何と言っても先立つものの世話をしなければ最近の農家にとっては家畜の金は生易しいものじゃない筈だ。色々と農業経営には収入の割に支出も多いが中でも家畜導入の支出は最も大きい割を示すだろう。
 これには幸にも来年から政府の金融施策が確立されることになり明るい見透しが期待される。
 第4に経済上の問題として採算がとれなくてはならないことである。
 従来有畜農業の旗印が余りにも理念に凝って儲けることには殊更らに避けていた様だが何と言っても家畜によって少しは儲からねば第一惚れ手がつかない。
 そこで決して商業的な投機性を意味するのではないが算盤がとれる畜産を考えなくてはならない。
 折角の家畜も古い慣習や不備の為農家にとって不利な販路や扱い方をしている地域もある。
 和牛でもその利用方法や産犢販売,妊牛の移動,予託慣行等で色々検討して有利に導く方法が未だ残っているのではなかろうか。
 以上大ざっぱな意見を述べたがこうした考え方に基いて諸々の畜産奨励の行政施策を行いたいと無い智恵を絞っているわけである。

奨励行政の重点指向

 さてそれでは何をどうするかと言う問題である。相も変らず取り出す題目は古クサイものでオハコの「改良増殖」である。
 しかし内容の点ではホンの僅かだが考え方を変えて施策に盛っていき度いと思う。
 それは改良と増殖は平行すべきものだとされている点に変りはないが言葉の順位を変えた丈の施策即ち「増殖改良」と言った程度の考え方をとってみたい。
 勿論,共進会,種牡畜の設置,登録,種畜の検査,人工授精の推進等があり,種畜場や保健衛生所も与って大いにこの目的達成に布陣することにしている。種畜として導入保留を対象とするものは乳牛と中家畜であり特に中家畜では緬羊で山羊と豚は特別優秀なもの及び種牡を重点としていきたい。
 次に消流販売である。この問題は先に述べた「増殖改良」を裏づけることである。行政施策としては検討の余地なしとはしないが裏付けの無い呼びかけ許りで後の始末のない様な行政では片手落ちだと言う考え方に出発している。殊に消流販売では和牛の問題が優先するが酪農の原料乳取引にも関係をもつ。
 販売斡旋,せり市の改革,等に具体的な何らかの施策を取上げねばなるまい。
 次に利用加工である。役畜として又は用畜としての利用加工を意味し更らに自然肥料の活用の部面もある。
 利用の尤なるものに肥育があり,牛馬の役用の増大を考える要があるし又加工では肉と羊毛加工である。
 行政上の施策として予算化する事は可なり困難を伴うものもあるが専門技術員各位の指導と相俟ち種畜場等の施設の活用及び指導が要請されてくる。
 以上の外に家畜を守る家畜共済や団体関係の施策も考究されている。
 以上簡略であり粗雑な意見に終ったが意のあるところを御賢察頂いて御協力を願う次第である。

大家畜

和牛

 全国に岡山牛と言えば既に定評がある。
 そして岡山牛は全国各地に販路をもち莫大なる収入をもたらしている。
 然し徒らに自画自讃している事は警告しなければならないし又反省もしなければならない。
 現在11万余頭を擁し年々2万数千頭の生産犢を如何に導き利用し消流せしめるかが問題となる。
 先ず参考に全県下の分布状態を大別すると,県北,中,南部に分けて北部の頭数は圧倒的に多く又生産数もそれに伴っているが南部に至っては北部の飼育率の半分にも充たない状態となっている。
 之は立地的にみても産業形態からみても当然の在り方で北部は生産を主とし中部は育成,と生産の併立,南部の利用地域としての大別が考えられる。こうした状態は今後も恐らく変化しないものと思う。
 この状態に対する行政施策が自ら対応する基本的な線を出してくるのである。
 次に和牛の資質の点である。和牛は産地の特色をもつものである事は当然で岡山牛でも産地別に多少の特色差が認められる。此等を質的に統一する施策を考える向もあるが体型資質等に既に和牛として全国的な標準が示されているので,それに向って改良の道を求めれば良いわけだ。然し先に述べた様に特有の持ち味となっている点は大いに維持尊重して欠点と見做される事について色々な見地から具体的な施策を講じてゆく必要がある。
 徒らに隣接県の産牛を模倣して雑然たるものを作ったり,改良すべき方途が判明してるに拘らず保守的旧習を脱しないと言う事は大いに改めなければならない。
 来年度に於ては政府の無畜農家解消の趣旨からして導入資金融資の途を講じられると聞くが生産県としての本県はその需要に応えるべく大いに増産に馬力を掛けなくてはならない。先ずいくら生産しても生産過剰となる危惧はないと思う。
 例年行政施策として予算化される共進会,種牡牛の設置,人工授精の普及,登録実施等は相当重点的な配慮がされているが来年度は更らに利用販売の面でも一段と推進策を考えている。
 定期市場は関係法令が撤廃され自主的な開設に委ねられているが差し当り支障はないと考えられるがしかし犢牛のせり市については開設の方法,時期,参加数せり秩序,輸送取扱い等について可なり不円滑な点がなしとしない。主催側の言い分もあろうが大局的に考えて販路拡張顧客誘致の関係を思い他府県に遜色がない様改善してゆき度いと考えている。
 今一つは役肉の利用の部門であるが役は主として技術指導が主体となるが肉の部面は今後の需要の増加を見越して積極的な施策に移し度いと思う。
 肉牛の目標は徒らに大貫にして高級なものを目指す事は飼料経済から考えても決して有利に取引されるものとは限らないし又既に先進地ののれんには及びもつかないことと考えられるので大衆的消耗部門を対象とした肉牛の発展を期し度いと思う。
 以上簡素に抱負を述べたが結論として和牛の経済価値を高くする様な考え方によって皮肉或いは肥料給源としても利用の増大を計る方向に進めて行き度いと考えている次第である。

乳牛

 昭和26年の卯の歳酪農は食品衛生法改正施行に伴う牛乳の規格取締強化問題,飲用牛乳と原料牛乳の配分消流の需給調整問題,地域別乳価問題,飼料問題酪農共同施設改善に要する資金の調達問題等突発的な当面の問題解決処理に終始し多事多端であった。
 昭和26年における収穫は3月神奈川県平塚市において開催された全日本ホルスタイン種牛共進会で日本ホルスタイン種の規格指針を獲得したことと,この共進会で静岡県産優良種雄牛を購買して岡山種畜場に?養改良の基礎を確立充実したことである。
 経営面では岡山県北部酪農業協同組合が全国で唯一の存在であると誇る酪農家出資で建設している直営工場が隆々と発展したことである。
 顧みればこの組合は昭和18年津山市附近の酪農家20数名がささやかな酪農組合を設立したに始まりその後時代の変遷推移により解散改組両設立等種々の曲折と試練を経たのであるが文字通り燃えるが如き熱意により日進月歩500有余の組合員と700有余の乳牛頭数となり日量20有余石の牛乳を生産するに至ったのである。
 将来尚指導と運営の妙を発揮して益々発展されんことを希って止まない。
 県南部の酪農家の各位は経済的投機的鋭敏なる頭をもって国際情勢と国内経済の動向に想像を逞しくし飼料高に乳価安だ,算盤が合わぬ。酪農は自然立地の条件に恵まれた草資源の豊富な北へ行くべきだ,などなど簡単に片附けられず酪農のよさ,乳牛の妙味をたたえ創意と工夫をこらし再認識されて多年の経験を酪農界に活用して欲しい。
 岡山種畜場も特別会計独立採算会計で経営も仲々困難であるが移転満3年も経て着々諸施設が充実しているので酪農地帯の中心指導機関として意義あるものが建設されることであろう。尚昭和27年は岡山種畜場が創立以来満50年を迎えるのでこの機に乳牛においてもこの芽出たい場を祝福する記念乳用種牛大共進会を開催する計画である。
 そして多年懸案である岡山県酪農講習所を記念事業として是非建設したいと考えている。この外酪農奨励施策としては不如意な県財政の中から酪農家日頃の宿望である優良種雄牛の導入及び基礎牝牛の導入助成,集乳所の設置等の外に衛生的な畜舎の改良,自給肥料の損毛防止をねらった畜舎床の改造助成をも目論んでいる。
 牛乳の県営検査についても尚幾多の難関が予想されるが一応企画して目下検討中である。
 以上酪農の推進に少しでも寄与するよう頑張っていますから絶大なる御支援をお願い致します。

中家畜

 岡山県の畜産の中で中家畜(めん羊,山羊,豚)のみが跛行的に不振の状態にある事に就ては色々と原因を指摘されるであろうがその中でも主務課として痛感する事は一貫し且つ,計画的な施策が無かった責を感ずるのである。
 中家畜への要望は大家畜と違って非農家でさえ飼育しようとする傾向が最近頓に漸増しているのであって所謂広く各方面を対象としても取上げて考えねばならぬと思う。
 そこで27年は更に中家畜に対する奨励策を一段と強化して飛躍的な振興をねらっているのである。ここ数年間の実績を反省し又先進地各方面の実情をしんしゃくして各家畜別に27年の構想を述べてみたい。

めん羊

 全国的にみてめん羊の質,数共に岡山は残念乍ら全国最低レベルにあるといってよいだろう。然し最近県が助成方法を講じ積極的な導入を計る様になってからグングン増加線をたどり一昨年の1千余頭が本年では3千頭をオーバーするに至っている。
 こうした機運に乗じて更に導入助成と増殖指導を実施して今後4−5年間には1万頭を突破させようと計画しているのである。
 然しめん羊についてはその羊毛処理や繁殖等の関係上出来る丈け集団的に飼育をする地帯を拠点として円心的に増殖することが最も効果的であるので出来る丈けこの方針に沿っていきたい。
 特に養蚕地帯との結びつけ適地を持つ開拓地,その他相当の熱意と実績をもつ地方に対しては積極的な関心と指導を実施する考えである。この間津山畜産農場には基礎種めん羊を配置して改良を目論み更らに羊毛加工の指導にも一歩進める予定である。
 関係団体なり普及所等に於てもよく緊密に連絡されてこうした施策なり技術指導に御協力を御願いしたい。勿論導入助成,種雄めん羊等の貸付の外に講習会なり,品評会なりを適時に開催し出来れば一歩進めて将来の仔羊の為めに登録事業を普及したいと考えている。
 しかし全くこれらの事業には一般飼育家の御協力のもとに中心となるブロック別組織を以って当らねば実績が薄いので熱心家の御奮起を期待してやまない。

山羊

 岡山の山羊は数に於ては1万頭を突破している現状で決して少ないとは言えないが,之も亦残念乍ら質の程度は一般に御粗末なものが多い。元来山羊は農山漁村と言わず,都市周辺を問わず何処でも安易に飼育可能であり,又安価にして乳を利用出来る家畜である。
 その為か県下の分布も一般に普遍的であるが殊に目立つのは美作地帯や小田,浅口,都窪等の酪農地帯である。
 これは山羊なるものが酪農の先導と言うか言葉を換えれば小酪農と言うべき性質をもつものと考えられよう。それだけ御粗末なもの,つまり能力の低いものの絶対数が多い事よりも能力の優秀なものを改良増殖することが現下の要請とされるところである。
 そこで山羊に対する施策も改良を第一義として現在県も飼育頭数の多い地帯を将来の生産地帯へと指向する様優良種雄の配置,基礎牝山羊の導入,保留を推進し且つ登録を組織的に普及してゆきたいと考えている。
 そして将来はやたらに先進地に依存せず岡山の山羊として県内の需要を充足すると共に県外迄その需要に応ずる様に発展させる方針を強行していきたいものである。

 岡山の豚もめん羊,山羊と同一線上にあると言えよう。唯豚で最も難しい問題は相場の変動の激しい事と増殖率の大きい事である。而も養豚地帯と言えば概ね平坦地で都市周辺が多く,こうした都市周辺の養豚家は又極めて採算に鋭敏である。
 豚の相場が上がれば黙っていても素人でさえ養豚熱を挙げて無計画な養豚を初めるかと思えば相場が下がれば基礎豚の様なものでもたたいてしまう傾向がある。
 特に豚は成長が早く採算上有利だとされる反面濃厚飼料の消費は余程覚悟してかからねばならない。一般に豚を唯豚によってのみ利潤を獲得しようとする考えは改めて行かねばならない。関東地方の養豚地帯は蔬菜園芸と緊密に結びついている。豚による厩肥がどれ丈け蔬菜を良くし多収しているかを見習っていきたい。又豚については未だ日本人の趣向に誤った考え方が多い。例えば不潔だとか豚肉の脂肪の多いものを好まないと言った消費面の問題もある。豚は清潔に飼えば外の家畜と全く変りないし又肉でもラード(豚の脂肪)の利用を家庭で取入れる様にならなければ食生活の改善と言えないだろう。
 以上一般的啓蒙論を述べたがさて豚の施策の問題である養豚の基本的条件たる飼料と消費販売については若干先に触れた様に立地的に交通地位に至便なことと畑作地帯を適地として奨めたい。
 消費販売については幸に岡山県下には加工場があるし協同的に阪神方面への出荷も可能である。この組織なり系統機関を活用する様指導を配慮したいと同時に改良増殖については岡山種畜場が中心として適地の保健衛生所に優良種雄豚を配置して将来人工授精により簡易なる種付を普及して行く計画である。
 尚県下の指定種豚場を再検討して真に指導の中心となり優良なる仔豚を配布する場所を選んで基礎種豚の導入を助成したいと考えている。
 又関係方面と連絡して簡易屠場の活用を計り肉の加工についても種畜場で委託加工を受ける様に生産と消費販売加工の両面について養豚家の便宜を計りたいと考えている次第である。

小家畜

養鶏

(一)種鶏の確保

 昭和26年度種鶏検査の受検羽数は14万羽で検査終了と共にその合格羽数も明らかになると思うが先ず先ず昭和27年春期孵卵に供用される種鶏羽数は12万羽が推定され昨年春期に比し2割増である。したがって初生雛の生産は特別の変動のない限り鑑別雌240万羽の推定も難くはない。

(二)鶏種の改良

 鶏種改良の中枢機関である岡山種畜場は客年民間養鶏篤志家の寄附により堂々たる集合検定鶏舎2棟の建設を了し検定鶏200羽を収容,幸先のよいスタートを切り着々好成績を収めつつあり一方飼養種鶏も一応目標基礎羽数800羽を確保し本年こそ養鶏家各位の御期待に沿うべく揮身の努力を払っている。
 作北の養鶏営農の指導機関である津山畜産農場も養鶏施設の整備に専心されつつあるので作北関係者の一層の御協力をお願いしたい。民間においても孵化場を中心とした原種鶏場,甲種鶏場,一般種鶏場の三段階制の各施設強化と共に優良種鶏を組織的に導入増殖し各孵化場共に百花繚乱その妍を競う如く強健多産の初生雛を増産して戴きたいものである。
 県財政の関係で養鶏予算も充分とはいえないが昭和27年春期の優良種雄鶏の確保を図るため種雄鶏共同育成に対し補助金20万円を計上して斯業の助長を期することとなっておるから参考迄に申添えておきたい。

(三)共同事業の推進

 自給養鶏は昨年より急速に発展し凡そ戦前の120万羽の領域に達しているものと思われる。これら関係者の中では春期卵価の暴落を危惧して飼養鶏を放棄する者もある由であるが本春は相当量の鶏卵の消費が増大する傾向が窺われるので必要以上の不安を一掃し自己の農業経営の一環としてその経営の合理化と飼養技術の改善向上を図られることが肝要である。しかし乍ら生産供給の増加は市場において価格低落を招くことは必然で終戦後におけるような価格維持は到底望むべくもないから今から不況対策を講じ,その危機に備えなければならない。その意味において鶏卵共同出荷処理施設の整備や,自給養鶏の育雛損耗防止策としての共同育雛等の所謂,共同事業奨励の線に沿って助長の途を講ずべく邁進したい。

(四)養鶏飼料対策

 現下の養鶏行政の根幹をなすものは何をおいても飼料対策であろう。統制撤廃以来,その量,価格共にその変動著しく常に養鶏家の寒心の的となっている。
 昭和26年においては県及び養鶏団体一丸となって,これにあたり,養鶏必需の輸入及び国内産玉蜀黍1,200tカナダ小麦400t,食糧不適格小麦及び糟糠類若干の確保導入を図り輸入玉蜀黍については養鶏団体において200tの備蓄を敢行し本春の飼料需給に聊かの光明を見出している。
 なお備蓄玉蜀黍については養鶏団体において,その会員に対し有効適切にその放出を計画,実施中である。
 昭和27年においても,農林省,日本養鶏購買農協連や,各関係官庁,団体と緊密な連繋の下に万全の措置を講ずる考えである。

カナリヤ

 県下のカナリヤ飼育は,毎年増殖の趨勢にあって,従来主要飼育地帯であった倉敷市以西の山陽線の沿線地帯は勿論岡山市及びその周辺地区から又昨年末頃より津山市を中心とした県北の美作地帯に飼育熱が高まりつつあって,相当の成績を挙げている模様で将来が期待されている。
 昭和26年度中の輸出は約1万羽が予想されていて,12月末までに約7,500羽が輸出され4月末までに残りが輸出される見通しである。(昭和25年の輸出羽数は4,600羽であった。)
 価格は8月から10月まで雄(横浜着1羽値)675円雌は125円であって,11月から1月中旬頃まで雄700円で買付されている。なお雌の輸出は4月(1ヶ月間)に再開される予定である。
 斯様に外貨獲得の一翼を荷負うカナリヤ飼育の普及啓蒙を図るため,岡山県ローラーカナリヤ倶楽部は11月11日倉敷市において,又岡山県貿易鳥農業協同組合は11月29日より5日間岡山市においてそれぞれ輸出鳥の品評展示会を開催し盛会裡に終了,その効果は大きかった。
 昭和27年においては,本県における輸出カナリヤの飼育も愈々軌道に乗り外貨の獲得により一層寄与することと期待されている。

養蜂

 本県における養蜂は,昭和25年蜜蜂転飼取締条例の公布を見て以来相当数の飼育増加を来たしているが,最近養蜂界においても相当苦境に直面している様に考えられる。
 即ち運賃は逐次高騰しているのに反し蜜価は下落を辿りつつある現状であるので昭和27年においては,健全なる発展を期するため一層適切な配置と,未開発地の調査並びに養蜂技術の向上を図るため講習会を開催する予定である。

牧野

 本県牧野面積は,約46,900町歩であって,その内昭和26年度中において,管理牧野の設定面積約5,000町歩(18ヶ所)の予定であって,これに対しては国より若干の測量費の助成があった。
 国においては,牧野の改良事業を昭和27年度より着手する計画と聞いているが,これに対する予算的措置が決定すれば戦争末期より荒廃した,本県牧野も再び昔の姿にたちかえることが出来る。

自給飼料

 自給飼料の確保とその合理的利用の必要性は今更喋々するまでもないことである。
 限られた土地より過大の自給飼料源を探求する現状にあっては当然身辺の草地の徹底的な利用以外にはその方途は見出されそうにない………勿論今後の有畜農業の在り方というものは現存耕種組織の再編成によらねばならないが………
 草地の改良,休閑地の利用,サイロ設置による粗飼料の濃厚飼料化,石灰藁の増産,農産副産物の利用促進等数限りない手段がこの要望にこたえる課題であり,なお飼料給与法の合理化は飼料資源の探求と共に忘れることの出来ない問題である。
 これらの方途に関し詳細の点をつつくことはこの紙上でゆるされぬことであり機会をみて記すこととし,ありふれた,こんなことかと思う様な事項を並列して各位の猛省を促したい。

競馬及び馬産

馬競

 競馬界は23年より大きく大転換をして早くも満3年の歳月を経て公営競馬として今や確固たる基盤を築いてきた。
一.26年の足跡で大きく取り上げてよいものは控除率の引下げと同時に,1枚券を廃止し10枚券の発売を実施した事であった。従来1千万円の線をでなかったものが,爾後回を重ねる毎に上昇してきた。3月第1回県営競馬に1,600万円の向上を示し,10月第4回県営では,更に3,997万へと正に驚異的躍進であった。現在の競馬場の施設とすれば,これが最高峰の記録を打ちたてたといってよい。このことは関係者の真に岡山競馬を愛し,うまずたゆまず精進しその機能を充分に発揮した結果によるものと,深く敬意を表する。
二.競馬民営移管の問題,昨年末頃より競馬民営論がたい頭し,国営競馬の民営移管が巷間に伝えられてきた。そこで本年に入り地方競馬施行者の大同困難となり,各ブロック毎に公営競馬協議会ができ,その上に全国公営競馬協議会が設立,8月を期して新発足し,民営移管反対の烽火ともなった。地方競馬においては馬連当時より全面的に一新されよくなってきた事は衆目の認める処で,現段階においては主催は公営以外にはないとの見通しが強く,現状の儘で施行されるものとみてよい。
三.本年新しく試みたものに,中,四国初のけい駕速歩競走及びゴール写真(フォト,チャート)の採用並びに発馬機の設置の外,優秀騎手の表彰,敢斗賞,レコード賞等の授与も行い,施行面の改善を行ってきた。オーストラリヤの駐日大使ホヂソン氏は日本の競馬で,スタートの悪い点を第一に挙げている。岡山競馬の紛擾の原因をみても,その多くはスタートの場合である。ゴールの問題は写真の使用でファンに満足を与えており,スタートも発馬機設置により以前よりはよりよくなったとはいえ,地方競馬では発馬の悪い癖のある馬があり,駐立による一斉発馬が困難で,スタートにはまだ問題が残されておる。従ってファンにも不満の点があるだろう。しかし現状では馬の発馬に対する調教と騎手の協力による外方法がない。米国で新たに用いられている発馬機(スターティングゲート)でも採用すればこの問題が解消されるだろう。
希望!!現在の競馬場は昭和8年来のもので既に20年の齢と,度重なる風水害により老朽化しており,最早これが維持は困難で現在の施設をもってしては,4千万の売上高は最高峰の能力でもある。かく考察する時,より飛躍的発展をなすためには,環境のよい地に近代的感覚の新たなる施設をもうけ,雨天でも開催でき打寛ろいで楽しめる競馬場を実現さすことが緊急の問題であり,27年の大きな望みでもある。

二十六年県営競馬集計
回数 売上成績 単勝式 復勝式 連勝式 入場人員 賞金額
一回三月 16,633,600 745,700 2,477,000 13,410,900 6,399 1,000,000
二回五月 27,300,400 920,000 3,088,220 23,292,220 8,293 1,500,000
三回九月 31,515,000 850,600 3,399,800 27,264,600 10,589 2,000,000
四回十月 39,770,000 1,073,400 3,760,300 34,936,300 12,105 2,000,000
115,219,000 3,589,700 12,725,300 98,904,000 37,386 6,500,000
馬産

 講和条約の調印も終り平和独立国家として再建せんとしている。馬も不幸軍馬なるが故に戦後はその反動で自主性はおろか支柱を失った状態であった。然し昨年6月馬の改良生産方針が確立し,産業馬としての規格が出来たわけであり,他の家畜と同一歩調で歩むことが出来る,この改良生産方針は広く権威者の批判と意見を聴き,現在の実状を基盤として将来の需給情況及び各地の意見をも調査取纏め,出来上がったものである。本県の農馬の規格は,中型に属し,これを国の規格にあてはめれば,体高1.39−1.52体重330−470,胸囲率115以上牽引力41−59(中国種馬登録協会標準は体高147胸囲率116以上管囲率12.5体高450)となっている。種馬は馬産の根幹をなすもので本県の繋養頭数は現在13頭に整備した。昨年北海道より初の種牡2頭を購入したが,国の貸付種牡馬は既に10数才のもので,今後種牡としての命数も少なく淘汰を要するものが多い,本年は4頭の種牡購入を要求したが補正予算決定までは財源難の折柄どうなるかとあやぶまれたが,惣津課長の献身的努力によりようやく承認せられ11月末種牡馬育成地である空知郡に出張2頭を購入それぞれ配置を終り,明春より蕃殖に供用することになった。長年沈滞していた馬産にも初光がほのみえ漸次進展されるものと誠に喜ばしい次第である。
 3月馬増産講習会を開催軽種馬登録協会より小松一清参事を招聘し,北部3郡で蕃殖,育成,規格等について実施した。愛馬馬は,極めて熱心に聴講優秀なる成果を収められた。又農林省の依託による馬匹講習会も実施した。
 登録事業は改良上必要不可欠のものであるが,馬については中々困難な現状であり,血統,外貌及び産駒成績の調査等尚研究の上軌道にのせねばならない。馬産の27年の計画は種牡馬及び蕃殖牝馬の充実,利用面への徹底の3つを挙げこれに全力を集中,平和国家の産業馬として発展させたいと念願しているので関係各位の御協力を御願いする。(花尾記)