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自給飼料による私の豚の飼い方

久米郡大井西村 久宗 壮

 有畜農業が,これからの農村の歩み方について大切であることは万人等しく認めるところであります。農業経営の一環として家畜をとり入れる場合第一に起る問題は飼料問題であります。如何にして経済的な飼料を確保するか,どうすれば飼料の自給化が計れるか,先ず飼料を考えずに,徒らに流行を追うことでは大失敗のもととなります。
 私は20年前,初めて豚を飼ったときには僅か1頭の豚の飼料にも困り果てて失敗した経験をもつものです。現在,私は和牛の外に豚5頭,緬羊2頭,山羊2頭,ニワトリ40羽,蜜蜂,鯉,どじょう等口のついたものを沢山飼っていますが,ニワトリを除く他の家畜の飼料は全部自給飼料でやっています。耕地は田3反3畝,畑2反7畝合計6反歩と言う小農であります。
 ところで,現在私は5頭の豚を飼っていますが,飼料は,甘藷や雑草主体で購入飼料は用いません。見学者の方々が,私の豚を見て雑草や甘藷で飼育していると説明しても本気にされません,内密で何んか濃厚飼料をやっているのだろうと疑われます。クリ林の雑草が夏の主要飼料であっても半信半疑で,山からワザワザササ,シダ,コナラ等の柴草を採って来てこれを豚にやって美味そうに食べるのを見て初めて成程なあと感心された方も沢山あります。
 豚と言えば残飯や濃厚飼料でないと飼えぬもの也と思っていたと述懐されます。
 満州や北支では豚には雑草ばかりで放任飼育で成功していることは先刻御承知のところです。特に豚の如く相場の変動の激しいものは高価な飼料に依存していたのでは採算がとれず相場の下落の場合は農家にとってこの上ない危険な事業となります。
 お互い豚を飼えば何万円儲かる換算をする前に肥料の自給を考え度いものです。高い硫安を求める代りに,豚の糞尿,厩肥で埋め合わせる工夫を充分考えるべきだと思います。
 農家としては豚の1−2頭飼育できないことはありません。当然なすべき仕事の一つとして飼育すべきものです。私は終戦後500円の豚を求め爾来,自給飼料に力を注ぎ昨年春の下落のときも遂にのり切ることができました。
 5才の牝豚は本年に入って2月と8月の2回に22頭の仔を産みました。1頭も死亡せず全部生長しました。濃厚飼料の豚は死産が多かったり,出産頭数も少ないのが普通です。
 雑草中心で飼育した豚は繁殖率が極めて高いことは注目に価します。
 さて私の豚を飼う飼料の主なるものを掲げて参考に供します。

1月 甘藷,青菜,サイレイジ
2月 甘藷,青菜,サイレイジ
3月 甘藷,青菜,サイレイジ,雑草
4月 甘藷,青菜,サイレイジ,雑草
5月 甘藷,レンゲ,雑草
6月 レンゲ,雑草
7月 馬鈴薯,雑草,桑
8月 南瓜,甘藷つる,雑草
9月 甘藷,甘藷つる,雑草,落果柿
10月 甘藷,甘藷つる,青菜,雑草,どんぐり,落果柿
11月 甘藷,甘藷つる,青菜,雑草,どんぐり,落果柿
12月 甘藷,サイレイジ,青菜

 大体以上のようなものです。この他に毎日米の磨汁や台所の廃物,残物は全部やります,醤油粕も勿論やっています。これらの飼料の内甘藷と南瓜は農閑期や冬期に大体大釜で炊いてやっていますが農繁期には生のままでやります。又子豚にはできるだけ甘藷は炊いてやっています。秋の落果柿を集めてやりますと発育が極めてよろしい,どんぐり類はカシ類ナラ類のドングリを子供が集めて来てやりますが皮つきのままよろこんで食べます。
 地中海のコルシカ島ではクリ林を作り人間の常食がクリと山羊乳を用い,下の雑草で牛,馬,ラバ,ロバ,緬羊,ブタ,山羊をさかんに飼育しています。人間がクリを拾ったあとのクリ林へ豚を放飼すれば2ヶ月の間毎日2ポンドずつ肥大してフランスのバリーに送られクリやどんぐりを食べて大きくなった豚は世界一のハム,ベーコンに作られることを聞き及んでいますが,どんぐりの利用は確かに有意義です。
 雑草は畑地雑草と畦畔と山林の3種です。畑地のスベリヒエ,ヒツルなどは大好物です。畦畔雑草ではススキの類が主体ですが,これも荒いものはよろこんで食べます。山林雑草では,ササ,ススキ,ナラの葉などです。クズの葉はよろこんで食べます。桑の葉も大好物です。
 青菜類は年中欠がさずに毎日ウントやると生長は見違える程良くなります。
 大根,白菜,菘類,カブラ,カンラン油菜など豚はよろこんでも食べるが生育もよろしい。私共は周年生産の上るよう計画生産を計るべきです。
 甘藷つるは11月中旬までは生のままやりますが,あとは全部サイレイジにします。
 私はサイロを2基作りました。直径5尺深さ10尺の大きさです。1基の方へは6月上旬レンゲ1反歩とクリ林の下の雑草を7月上旬刈りとって一杯つめ込んでいます,1基の方へは8月上旬クリ林の下草を11月上旬甘藷つるに切ワラ3割位を混じたのを一杯つめ込んでいます。これが12月から4月初めまで,青草の無い内に使用します。サイレイジを与えますとメキメキと肥育がよくなって来ます。
 私はザットこんな飼料で飼っていますが分娩前1週間と後の3週間位にかけて大麦の偏平したものをやります。濃厚飼料としてはこれだけです。それでも親豚は30貫以上になっています。
 雑草主体の飼料で飼育した豚肉は肉質がよく,脂肪は白色で美しく,かつ美味です。
 雑草主体の豚は強健です。疾病に対する抵抗力が強くなります。濃厚飼料や残飯の如く腐敗して悪臭を出さないので豚舎には悪臭を全々認められないのです。
 購入飼料に依存しないので喰込みで採算がとれないとか,景気の変動に左右されること等全くありません。
 どんな山奥の農家でも豚の1−2頭は必ず飼育できる自信ができました。
 私は農家であるならばフランスの農家の如く豚の1頭位ハム,ベーコンに加工して食べ度い夢を20年来持ち続けて来ましたが,昨年からやっと実現,20貫位の豚を自家屠殺して,簡易な加工でハム,ベーコンを作り家族一同大よろこびで,いただいています。
 蔵知技師評"君これは上等の出来栄だよ"とお言葉をいただきました。
 雑草と甘藷,サイロが豚を飼う必須要件です。
 本年のイナ作は自給肥料主体で羨ましがられる作柄でした。やはり豚は,肥料と肉とお金を産んでくれる恩給会社の社長さんである。どの農家も豚の1−2頭飼育で肥料の自給化を目ざし度いものです。